シンディ6
場所を変えまして。
「母様、リゼ姉、シア姉、どうぞ」
家族憩いの場ダイニングよ。
シンディがアフタヌーンティーを用意しています。
「本日はアプリコットティーとアップルパイですわ」
デザートフォークとデザートナイフを並べる手を見ていると、顔を上げたシンディと目が合った。
ニコッと笑う天使。
いつにも増して、胸をズキュンと突くわ。
良くも悪くも……。
「ㇱ、シンディ、ありがとう」
アフタヌーンティーもさっきのあれも。
「へへへ、私シンディ、詐欺野郎の言い分に平静を失ってしまって、お恥ずかしい限りですわ。リゼ姉には淑女たるもの、常に優雅にと口酸っぱく言っていましたのに」
シンディがペロッと舌を出す。
「でも、『元役者』の経験が役に立ちましたわ。あの詐欺野郎まんまと騙されちゃって、ウフフ」
「っ! そ、そうよね。『元暗殺者』を演じるなんて、シンディは凄いわ」
そういうことだったのね。
私リゼ姉は安心したわ。
母上もシアも緊張が解けた感じ。
「そうですよぉ。この私シンディのか弱い腕で『暗殺』なんてできませんわ」
……あれ? 元家令の胸ぐら掴み持ち上げていたような。
「ですから、専ら、ハジキでしたの」
聞き慣れぬ言葉に首を傾げる。
「シンディは、召喚前の世界では役者でしたの?」
母上が問うたわ。
「そうですわね。役者もしたことがありますし、他にもまだ色々と」
「それは、多くの経験をしたということね。召喚前の世界では苦労を重ねたのね、シンディ」
お優しい母上らしいわ。
「転生に転生を繰り返し、召喚に召喚を重ねて、多くの人生を歩みました」
転生に転生
召喚に召喚
多くの人生
シンディの言葉を脳内で復唱する。
「えっと、それって……何度もってことよね? このシンデレラ召喚が初めてではない」
「はい。私シンディ『プロ』なのです」
「プロ?」
「はい。プロの転生人召喚人ですの。もっともポピュラーなのは『聖女』召喚でしょうか。他にも『勇者』転生とかが有名ですわよね。ひと通りは経験済みですわ」
「シンディったら、凄いじゃない!」
シアが興奮気味に言ったわ。
「マイナーな者の経験もありましてよ。取り巻き令嬢とか、パン屋の娘とか」
「だから、シンディの作るパンは美味しいのね!」
母様が楽しそうにおっしゃった。
「変わり種でいうと、じゃない世界線の者。林檎を食べないイブだったり、白雪姫だったり。林檎の落下を見てないニュートンとか」
シンディがアップルパイをデザートナイフで切り分けながら、私たちの知らない世界を語ったわ。
「もちろん、悪役令嬢に拗らせ王子、婚約破棄現場のモブ。呪われ姫に呪われ王子、魔女やらなんやらと」
「へ、へえ。なんか、もう理解が追いつかないわ」
私リゼ姉は、頭がいっぱいいっぱいよ。
「一番スリルがあったのは『殺し屋』ですわ」
「……」母様
「……」私リゼ姉
「……」シア
「魔王とか魔物とか、バッサバッサと聖剣で斬り殺しましたの」
「そ、そうよね。勇者だったこともあったと言っていたものね」
「ウフフ……今は、心優しい家族に迎え入れられ、幸せな毎日を送るシンデレラですわ」
「まあ、シンディったら」
母上がシンディの頭を撫でました。
私リゼ姉もシアも、シンディに寄り添いましたのよ。