シンディ3
「シンディ、この部屋を使って」
シンディが部屋を見回して、首を横に振っちゃった。
「気に入らない? そうよね、こんな寂れた感じだもの。でも、メイトレン家ではこの部屋が客間で、他より幾分ましなのよ」
没落寸前の我が家を、ぎりぎり首の皮一枚繋げてくれたシンディだもの。
大切にしなきゃね。
「私はシンデレラ召喚された者なので、屋根裏部屋が妥当ですわ」
「そ、それは、駄目よ! いけないわ」
あんな鼠の巣窟にシンディを住まわせるなんて、意地悪な姉……ネキになっちゃうもの。
「シンディ、屋根裏部屋は危険よ。メイトレン家は勤め人がいなくなって、掃除が滞っているの。わかる? 掃除もされていない部屋がどうなっているか」
私たちだって、懸命に家事をするのだけど、屋敷が大きすぎて手が行き届かない。ロビーと自分の部屋以外に手が回らないもの。
「腕が鳴りますわ!」
シンディったら、なんでそんなに生き生きしているの?
考えてもみれば、突然こちらの世界に召喚されて、動揺もしないなんてあるわけないのに。
召喚ハイになっているのかしら?
ネキたる私リゼが、シンディの心に寄り添ってあげなきゃね。
きっと、私たちに見捨てられないように、必死なのね。ここで断ったら、シンディの心意気を無下にしてしまいかねない。
「わかったわ。わ、私リゼも一緒に屋根裏部屋に挑むわ。さ、私についてきて」
ガクブルの膝でシンディの前に立ちますの。
「リゼ姉ちゃん、シンディはひとりで平気だよ」
キュルンとした上目遣い。
絶対的可愛さ。
ネキ一、私リゼ姉ちゃんは、まんまと言いなりに。
「そ、そうよね!」
「うん、シンディは大丈夫! 突き当たりの使用人塔を上がっていけば、三角屋根の屋根裏部屋になるのよね」
「え、ええ」
主屋敷と使用人塔は一般的造り、知っていてもおかしくはないか。……召喚されたばかりなのに?
いえ、考えすぎね。
きっと、シンディはひとりになりたいのかも。
そうよ、きっとそう。
異世界召喚という現実に、泣きたいのを堪えているのだわ。
私リゼ姉ちゃん、わかっているわ。
「シンディ、私になんでも言ってちょうだいね。私がいつでも胸を貸すわ」
「うん、後々、寄せて上げてで誰しもが認める立派なお胸に仕上げるから、安心してね、リゼ姉ちゃん。その残念なお胸を、私シンディがなんとかしてあげる。じゃあ、また明日!」
ヒュルリー……ヒュウルリィ……
私の心に隙間風が吹く。
残酷な天使よ。
泣きたいのを堪えたのは私リゼ姉ちゃんだったね。クスン。