シンディ28
男が二人、ニヤリと笑っています。
「あんたには恨みはねえが、消せって依頼されたからな」
片方の男が剣を手に近寄ります。
もう片方は、アーデルン家の見張り番の首に剣をあてがっています。
「殺し屋ですの?」
「ああ、その通り。すまねえな、お命ちょうだいするぜ」
廃教会にふさわしくパラパラとまた砂埃が落ちます。私と男の間が縮まっていきます。
「依頼人は……」
「おっと、それは言えねえなあ」
後ずさりました。
「継母、王妃ね!」
祭壇に踵があたりました。
「ふふーん。それ以上は下がれねえだろ」
「一度失敗しているのに、しつこいわ」
一歩二歩三歩……
男が最後の距離を詰めてきます。
「そいつらと同じにするな。俺らは『プロ』だ」
悦に入った笑みを浮かべた男が、剣を振り上げて構えたわ。
だから、私も口角をあげてみせたの。
「残念ね。本物の『プロ』を私は知っていましてよ」
「あん?」
「シンディ!」
天上から砂埃とともに、猫のような着地で降り立ったシンディは、スリー・カウントもかからずに、男二人を沈めておりました。
早業すぎて、目が追いつきませんでしたわ。
アーデルン家の者も呆気にとられています。
「『プロ』はつべこべ会話なんてしない。ましてや、対象を間違えたりもね」
シンディが言いました。
そして、
「リゼ!」
焦った形相のレオナルドが近衛とともに入ってきて、躊躇なく私をギュッと抱き締めました。
「すまない……怖い思いをさせた」
仕方ないから、手を回してあげましたわ。
「『狩り』は上手くいきましたか?」
「……ああ、もちろんだ」
でも、認めてあげないわ。
「私の心はまだ狩られておりませんけど?」
「まだ、な」
私を抱き上げたレオナルドは、ニッと笑いましたのよ。
さてさて、私をエルラだと勘違いした自称『プロ』の素人は、素人らしく依頼人の書状を持っていましたわ。読んだら、燃やせと記してあるそれを。
実行犯に加えて証拠を握っているから、もう継母は手も足も出ないはず。こちらの王家の知るところとなったわけだから。
下手に動けば、悪事が公にされ嫡男の王位継承の妨げになるもの。
他国の王城に証拠を盗みに入るなんて馬鹿なことをしない限りはね。もちろん、エルラを再度狙おうものならね。
で、
「……なぜ、私は王城に居るの?」
「保護するため」
「殺し屋は捕まえたのに?」
「皇太子の『華』が狙われたのだから、当然だろう」
「狙われた『華』はエルラだわ」
「殺し屋は名指ししたのかい?」
ムキィィィィ、ムカつく!
都合よく囲われちゃったじゃないのよ。私リゼ一生の不覚。
「そうだ。ちょっと、待っていてくれ」
「あ」
思わず、レオナルドの上着の裾を掴みます。
「ほら、やっぱり保護が必要だ。あういう怖い思いをしたからさ。ひとりにされるのが怖くなる」
レオナルドが私の手をポンポンと撫でます。
緊張の糸が緩んで、今さら襲ってくる恐怖にレオナルドの側にいることを望んでしまっているの。
「だって、だって……」
「いつでも胸は貸すぞ」
そっと抱き寄せてくれました。
「ヒック……スンスン……怖かったんだから! ふぇーん」
廃教会のときとは違い、優しく包み込むようなレオナルドの腕の中。背を擦ってくれる温かさに安堵する。
隠れた床は冷たかったから。
「じゃあ、一緒に行こうか」
レオナルドに横抱きされました。
「スンッ、今日は特別抱っこされてあげる」
「ブッ」
「笑わないで!」
「アーッハハッ」
とりあえず、ポカポカと胸を叩いておきました。
レオナルドが部屋を出て、廊下を進んでいます。
もちろん、近衛も侍従も引き連れて。
横抱き……やっぱり降りたいわ。
すれ違う人たちからの視線が、恥ずかし過ぎる。
「こっちだ」
廊下の先にそれが見えた。
「摘んだままの状態で申し訳ないが」
水の張った桶にいっぱいの野薔薇。
「本当は花瓶に生けて披露する予定だったんだがな」
「降ろして」
「仰せのままに」
降ろされて、真っ先に確認したのはレオナルドの手。
白い手袋をしているけれど、小さな赤い斑点が滲んでいる。
私ったら、なぜ、気づかなかったのかしら。
「見せて」
レオナルドの手に手を伸ばします。
荊棘で傷ついているはず。
ですが、スッと退いてしまわれました。
「リゼに贈りたくて、せっかく、花を狩ってきたんだ。花言葉は『純朴な愛』『素朴な可愛らしさ』。ピッタリだろ」
「……じゃあ、手を繋いで。レオナルドの手に咲いた赤い薔薇と繋いでなら、野薔薇を見るわ」
レオナルドの目が見開いたわ。
「その手(名誉の負傷)の赤い薔薇も贈りなさいよ!」




