シンディ26
あれよあれよと……
「……なぜ、私は踊っているのかしら?」
「何を今さら。舞踏会だからだろう」
殿方がおっしゃいます。
「あ! そうでしたね。ハーレム夜会、俺の女を決めるぜ夜会に参加中でしたわ」
「ブッ」
殿方が吹き出しました。
「興ざめですよね」
「ああ、まったくだ」
クルンクルンと回転し、一曲が終わろうとしております。
そこで、やっと周囲の注目の的になっていると気づきまして……、あれ? と思うのです。
なぜ、皆踊っていないの? と。
そして、衆目の中に、母上とシンディを見つけました。
そこで、本日の流れが走馬灯のように脳内を巡ります。
「二曲めも」
殿方の言葉にハッと致します。
『殿下から、赤い薔薇をいただけましたお方は、二曲続けて踊ってください! 選ばれし赤い薔薇の御仁はおひとりのみです!』
走馬灯が走馬灯が走馬灯が……
興ざめだと思ったあれが繰り返されました。
「遅ればせながら、名を教えてくれないか?」
目前の殿方へ、意識が戻ります。
「あなた、誰!?」
「ブッ、そこからなのか」
ど、ど、どうしよう!?
今さら気づいてしまったわよ!
私赤い薔薇を掴んだわ!
私赤い薔薇を髪に挿されたし!
私踊っちゃったわ!
私二曲めを誘われたし!
誰かああぁぁ、嘘だと言ってええぇぇ!
「せめて、三、もしくは二」
せめて、第三王子か第二王子なら、重責もないし、まだ許容かしら。
……いえ、それも無理無理無理!
今さら、膝がガクガクブルブルです。
「三曲か。それもいいだろう」
違ぅ違ぅ、そうじゃ、そうじゃなぁい!
後ずさります。
「いいえ! 一曲で大丈夫ですわ。では、私はご辞退致します!」
踵を返し、母上とシンディの方へ向かいますの。
シンディなら、きっとどうにかしてくれるはず!
「待ってくれ、平地の君!」
……はい?
なんですと!?
ピタッと足が止まりまして、振り向きますの。
「今、なんとおっしゃりましたの?」
「名を教えてもらっていない。だから、平地の君と」
殿方が一歩近づきます。
「平地の君に、私の食指が動いたのだ」
こいつ!
三回も言いやがりました。
私も一歩大きく後退しました。
「君のありのままの自慢のボディに、惹かれた」
変態がいる。
紛うことなき変態が!
「変態!」
「男は皆すべからく変態だ」
開き直りですか?
「誰もが盛土を好むと思うなかれ!」
高らかに宣うことですか!?
ならば、私だって宣ってやりましょう。
「誰もが王子様に堕ちると思うなかれ!」
「何!?」
フンッと高飛車に顎を突き出し、その勢いで踵を返しました。
母上とシンディが笑って待っております。
「撤収よ!」
履き慣れた靴で駆け出しますの。
「待ってくれ!」
嫌よ。
……ある意味、身体目当てなのだもの。
人混みの中に紛れたら、シンディの先導で、私たちは王城を逃げおおせましたのよ。
こうして、三日間が終わりました。
結局、どの王子だったのかしら?
お祭り騒ぎの一興として、終わると目論んでおりましたのに……翌日にやって来やがりました、こいつが!
「やあ」
何事もなかったかのように手をあげて笑っています。
「ご新規さんよ、リゼ」
母上がおっしゃいました。
「トルクから紹介してもらった」と得意げな王子。
「……では、どのドレスをお選びに?」と私。
「冗談が得意だな。遠出の身支度を頼みたい」とどこ吹く風の王子。
「ドリ、お客様よ」と振る私。
だって、レンタルドレスでなく、身支度なら第二店舗だし。
「め、滅相もありません。皇太子殿下の身支度など、私には無理です」
ドリが恐縮して言いました。
「……皇太子?」
「ああ」
まさかの皇太子殿下だったとは!
「君を指名したい」
皇太子殿下が侍従から赤い薔薇を受け取り、私の髪に挿しましたわ。
「君に焦がれるただの男として、見てもらえないだろうか?」
「単なるお客様として接しましょう」
「ハハ、手厳しいな。レオナルドだ。これから狩りに行く。身支度を頼む」
侍従が狩り用の衣装セットが乗った大きなトレーを差し出しました。
「承りました。レオナルド様、ご指名いただきありがとうございます。リゼと申します」
トレーはドリに受け取らせて、深々と頭を下げましたわ。
だって、大事なお客様だもの。
殿下でなく、ただのレオナルドとして接します。
「ところで、キューピットはどこだ?」
「はい? キューピットとは?」
「いや、シンデレラと言うべきだろうか。今流行りの召喚術の」
「え!?」
「シンディのことですか?」
「ああ、そうそう。私の食指の嗜好にいち早く気づき、バルコニーに誘導してくれたのだ。『ムラムラくるお胸はバルコニーの下にいる』と教えてもらって」
バッチーン
私は躊躇なくレオナルドを平手打ちしましたの。




