シンディ24
もう、最終日になりました。
夜の部に向かう準備中です。
「……本当は、夜会など出ずにベッドに倒れ込みたい」
本心です。
「グエッ」
ギュッと腰回りを締められました。
「シァ……ゥッ、ちょっと締めすぎよ!」
「だって、ドレスがちょっと緩くなっていましてよ」
シアが『指二本分』と背後で言いました。
「そりゃあ、三日間昼に夜にと多忙だったからね」
少し痩せたみたい。
「まさか、こちらまでもその影響が出ているなんて……私シンディの目測誤りです」
シンディが嵩増し量を増やします。
そうやって、見事なまでの……謀りボディが完成しました。
「そういえば」
助っ人のベーレン夫人が口を開きます。
「聞くところによるとね。赤い薔薇はまだ誰も手にしていないみたい」
「そのようね。確実な情報よ」
アーデルン夫人も続けておっしゃいました。
確実と言えるのは、王城事務方のトルクさんから聞いたからなのでしょう。
「夜の部に至っては、薔薇一本たりとも渡されていなくて、装飾花と化しているみたい。皇太子殿下は頑として誰一人とも踊らず、誰一人にも薔薇をお渡ししていないのですって」
「だから、最後の夜会ではダンス要員として、第二王子と第三王子もご出席されるそうよ。両王子ともに赤い薔薇の唯一を選んでいないから、最後の夜会に期待しているのかもね。……本人らでなくて、周りが」
アーデルン夫人とベーレン夫人が、状況を教えてくれました。
私たちは忙しかったから、王城から漏れ出る情報に疎かったもの。
「じゃあ、今夜誰が選ばれるのか見ておかなきゃ。それから、社交がどう動くのかも」
慶事によって、社交の流れが変わるもの。
華が流行の最先端になるから。
「メインホールよりもコソコソできる場の方で、重要情報は密かに伝わっていくものよ」
「おのぼりさんでいたら、気づかないわ」
アーデルン夫人とベーレン夫人が息の合った会話をしながら、髪飾りをつけてくれました。
「視界は中央でなく四隅ということですね」
光る場は目眩まし。
薄暗い場でことは起こる。
「そ。では、御三方行ってらっしゃいな」
アーデルン夫人にそんな言葉で見送られ、母上と私リゼ、シンディは王城に出発しましたの。
「すごい熱気」
夜会場に入る前から、すでに人混み酔いです。
「本当に」
母上がハンカチを口元に当てました。
「会場は、舞踏会広間、立食部屋、庭園となっております! 殿下方々は、会場を巡ります。殿下からお声がいただけましたお方は、桃色の薔薇を髪飾りに舞踏会場で一曲踊ってください!」
そこかしこで役人が声をあげています。
「殿下から、赤い薔薇をいただけましたお方は、二曲続けて踊ってください! 選ばれし赤い薔薇の御仁はおひとりのみです!」
……なんか、興ざめだわ。
ハーレム夜会、
俺の女を決めるぜ夜会、
なんて、シンディが言っていたわよね。同感よ。
「あの人集りから離れましょう。そうすれば、人は少なくなるでしょうし、四隅の方が何か耳にできることがあるかもしれないわ」
人集りの中心には、きっと王子たちがいるのでしょうから。
「そうね。庭園に行きましょう」
母上がおっしゃいました。
人混みから逸れて、庭園に向かいます。
「では、私は茂みで着替え、影に扮します。後ほどまた」
「ちょ、えぇ!?」
シンディがサッと動き、瞬く間に姿を消しました。
母上と顔を見合わせます。
「「……シンディだしね」」
頷き合って終了です。
夜風で涼みながら進みました。
ライトアップされた庭園が見えてきます。
そこも、もちろん人集りがあります。王子のひとりがいるのでしょうね。
きゃああああぁぁぁぁ
突如、歓声が上がりました。
「桃色の薔薇が見えますね」と母上。
「集団が動きますね」と私リゼ。
ただただ眺めてお見送りです。
そして、静かになった庭園で母上と分かれ活動開始しましたわ。
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「それでは、よろしくお願いします」
「こちらこそですわ。どうぞ、当店にお任せくださいませ」
営業成功しましたわ。
着付けと髪のセット、お化粧を任せられました。
地方から出てきた名家のご婦人で、毎年シーズンは王都で過ごすそうなのだけれど、お抱えの侍女が手首を痛めたそうで、社交の身支度にひと苦労していると話されていてね。
お声がけしましたの。
怪我が治るまで、メイトレン家第二店舗でお支度することに決まったわ。
「シーズンに毎年王都に行くからと、五人も押しつけられたのよ。全く、迷惑だったわ。三日間連続王城通いだったもの」
ご婦人が愚痴をこぼします。
王子様を夢見るお嬢さん方を引き連れて、王都に来たのだそう。
その身支度のせいで、侍女が手首を痛めたの。
そりゃあ、ひとりでご婦人と五人分の身支度担当はきついでしょう。
「いつもは王都で短期の侍女を雇うのだけど、この会のせいで人手不足になっていてね」
ご婦人の愚痴は続きます。
それに相槌を打って、ご婦人の不満の捌け口になりました。
「でも、良かったわ。あなたに巡り会えて。安心して社交に向かえますから」
「私の方こそですわ」
今シーズン満足いただければ、きっと来シーズンもご利用いただけるかもしれないわ。
短期で侍女を雇うより、安価で気軽でしょうから。
「母上にご紹介致しますわ」
ご婦人を、少し離れた場で話の花を咲かせている母上へと促しました。
母上も何か得たようですね。




