シンディ21
二人の着替えが済み、皆で夕食となりました。
「本当に感謝致します」
修道女さんが言いました。
いえ、侍女ね。
「このお方は、エルラ姫でございます。……先日、婚約解消となりまして、帰国の途についておりましたが」
そこで侍女が顔を歪ませる。
何度か薄く口を開け閉めして、どう続けようかと悩んでいるみたいね。
「命を狙われたのですか?」
シンディが言いました。
二人の息がヒュッと止まります。
「はい……」
エルラ姫が小さく答えました。
「誰に?」
率直な疑問でしたから、口をついて出ました。
「母国の王妃にでございます」
「継母……ですか?」
「はい」
応えたエルラ姫が続けます。
「私の実母が亡くなり、父上は新たな王妃を召しました。召す前に、私を次の女王、皇太女だと決定して。ですが……三年前に王妃が男児を出産されて、状況が一変しました」
「なるほど、お決まりのコースですね」
シンディがここでもズバッと言い切ります。
「フフ……確かにお決まりのコース、言い得ておりますわ」
乾いた笑いとともに、エルラ姫が肩を落とします。
そして、侍女に目配せして続きを託したみたい。
「嫡男を推す声は日増しに高まり、エルラ姫の、いえ……皇太女殿下の不遇が始まりました。信頼する者は王妃に罷免されたり、配置換えされたり、殿下の周囲が私以外には王妃の息のかかった者だけになりました。それからは、立場が逆転し侍女が殿下を蔑み、召使い扱いするような日々……」
侍女が唇を噛みます。
「そこに、この婚約が浮上してきました。王妃が殿下を排斥するために動いたのでしょう。ですが、殿下にとっては渡りに船でございます。この婚約で不遇生活を脱せられるのですから。それなのに……」
婚約解消となり帰国するとなれば……言わずもがな。
「私の居場所はもうどこにもありません」
エルラ姫が項垂れました。
「フン、居場所は自分で作るものでしょうに。甘チャンですね」
「シンディ! 言葉が過ぎますよ」
母上が慌てて諌めますが、シンディはどこ吹く風。
「女王ルートも与えられ、不遇ルートもされるがまま、婚約ルートで逃げようとすがりつき、いつも誰かに与えられたルートに身を置くだけ。反骨心のない者に国など任せられませんから、今の状況がお似合いでは? あんたさ、ひとりで何ができんの?」
辛辣……過ぎるけれど、確かに言われてみれば、その通りかも。
エルラ姫に国を任せられる気概を感じない。私がひと言で現すなら、エルラ姫は弱虫。
「ああ、できることはあるか。召使い経験があるものね。まあ、それも与えられてやったことだけど。ちゃんと身についているかは未知数。で、どうする? 自分で決めなよ」
シンディは辛辣口調を止めないわ。
「姫、こんな不敬な物言いは許容できません。お暇致しましょう」
侍女が憮然として言いました。
「出ていく判断も人任せなんだ。そりゃあ、女王なんてなれないし、王子妃だって務まらないか」
エルラ姫は拳を強く握り締めてスンスンと鼻をすすっております。
侍女がエルラ姫を促します。
よろよろと立ち上がりました。
一歩踏み出すかと思いきや、ギュッとスカートを掴んで、首を横に振りました。
「……ここで、働かせてください!」
突如、叫びましたの。
「姫!?」
侍女がびっくりしています。
「ここで働かせてください!!」
エルラ姫が頭を下げました。
「姫、そのようなことはお止めください!」
侍女がエルラ姫を起こそうとしますが、何度も働かせてくださいと言っては、頭を下げています。
侍女が母上に助けを求めるように、視線を向けます。
きっと、母上が、
『エルラ姫にそんなことはさせられませんわ、気の済むまでご滞在を。私たちがお世話致します』
そんな言葉をかけてもらいたい、と視線が物語っています。
頭を下げて懇願しているエルラ姫からも、それをそこはかとなく感じます。……第二王子に縋った状況と同じでは?
「エルラさん、その服がおいくらか知っておりますか? この夕食がただではないということも」
母上は穏やかにおっしゃいました。
姫、とは呼ばず。
「お供のあなたも、このメイトレン家を紹介してもらい、おんぶに抱っこの予定でしたか? なんとかしてもらえると?」
侍女の方にも母上はおっしゃいました。
「そ、それは……」
「失礼ですが、お二人とも姫でも侍女でももうないのでは? 姫であり侍女でありたいのなら、母国にお帰りなさいませ」
エルラさんもお供もハッとします。
「お二人は今現在、無職の宿無しの者なのです。唯一手を差し伸べてくれたであろうトルクさんの気持ちを、無碍にしたいのですか?」
シンディの辛辣指摘からの、母上の心に沁みる説きです。
お二人の表情にやっと意思が生まれます。
現実を直視できたのでしょう。
「ここで働かせてください。エルラと申します」
「ここで働かせてくださいませ。ドリと申します」
「シンディ、どう?」
母上がシンディに判断を仰ぎます。
シンディは頷きました。
「リゼ姉、シア姉、新人にお言葉を」
シンディったらニッと笑っています。
本当に人の尻を叩くのがお得意ですこと。私たちだって、そうだったもの。
今度は私たちがその役目よね。
「メイトレン家へようこそ!」と私リゼ。
「お二人とも歓迎するわ!」とシア。
こうして、メイトレン家に新たな家族が増えましたわ。




