シンディ20
二回りほど小さくなってしまった屋敷ですが、母上もシアもテンション爆上がりでしてよ。
母上なんて感極まって泣いておられます。
シアは私室の本棚に歓喜しています。だって、本棚が埋まっていたから。
シンディと一緒に新書を買ったのよ。
「母様には、これを」
シンディが母上に精巧な細工の箱を渡しました。
ちょっと煤けております。
「嘘!? これ、燃えなかったの?」
母上は箱を開けて中を確認しましたわ。
母上が整理した書類です。
廃教会の権利書も無事でしたの。
「この箱は、魔術付加しておりますから」
シンディの言葉に、母上が目をパチクリさせています。
「……本当だったのね。旦那様が大枚はたいて入手した箱だったのよ。『魔法使いの禁書箱だ』とかなんとか……」
あの破天荒の面を被った平々凡々以下の父上が!?
こんな好プレイをしてくれるなんて……槍が降りそう。
「いえ、『魔術付加至宝箱』が正式です。……確か千年ほど前に竜人族の依頼で私が作ったのです。あの時は、マジックアイテムを生み出す魔術士でしたね。竜の鱗を使った特注品ですよ。メイトレン家で母様の部屋で見つけたときには、懐かしく思いました」
「「「……」」」
母上も私リゼも、シアも無言です。
詳しくは訊かないでおきましょう、三人で瞳の会話をしました。
「あ、皆様おかえりでしたか」
店舗作業をしていたラルクの登場です。
「ラルク!」
シアがラルクに満面の笑みを向けます。
火中からシアを救い出したラルクですから。
「これで、メイトレン家全員揃いましたね」
皆の笑顔が弾けましたわ。
件の会、二週間前になり、ポツポツだったレンタル予約が、一気に埋まり始めました。
事前のレンタルドレス決めのための訪問で、店舗はフル稼働。
母上は接客兼ドレスのアドバイザー。昼用ドレスと夜用ドレスは違いますから。
シアはドレスの貸し出し管理と会計。当日、ドレスが被らないように表にしたり、帳簿などを担当。
私リゼはアーデルン家との連携、紹介された方々とのやり取りや、当日の流れの説明役。一応、店長。
シンディは……なんと、第二店舗をレンタルドレス店舗横に建てたわ。
第二店舗は、ドレスの着付けと髪結い、お化粧をするお店。
確かに不慣れなドレスの着付けや髪のセット、お化粧は必要だものね。
ですが、
絶対必要な靴だけはレンタル品にはありません。
だって、靴だけは本人の足に合うものでないと、歩くこともままならないから。
それは、メイトレン家全員の総意です。
「はあぁあ、今日も疲れたわ」
店舗の鍵を締めて屋敷に向かいます。
「お腹がペコペコね」
母上がお腹を擦っています。
「あら?」
門扉の方に灯火が揺れています。
誰かご訪問のよう。もう、夜に近い夕刻ではっきり顔は見えません。ですが、影は二名。
保護者と娘、に見えます。
「まだ予約の方いたかしら?」
シアに確認します。
「こんな時間に予約は入れないわ」
シアが答えました。
カラーンカラーン
門扉の訪問ベルが鳴ります。
屋敷から、ラルクが出てきました。
私たちはラルクに対応を任せて見守ります。
「早くシンディの夕食が食べたいのに」
シアが呟きます。
と、ラルクが私たちの方へ戻ってきました。
「修道女さんとお嬢さんの訪問です。アーデルン家からの紹介でなく、弟のトルクが内密に寄越したそうで……これを渡されました」
ラルクが母上に文を渡しました。
それを読んだ母上は、すぐにお二人を屋敷に迎えましたの。
見るからにボロボロで疲労困憊の二人でした。
服は土まみれ、ほつれや破れが目立ちます。何よりも顔色が悪くて、頬がやつれているの。
何かご事情があるとひと目でわかります。
「ご夕食は?」
玄関先でシンディが母上に訊きました。
ギュウルルルルゥゥゥゥ
お腹が鳴ったのは、お嬢さん。
「夕食にご招待致しますわ」
母上は修道女とお嬢さんにおっしゃいました。
「あ、りがとう、ございます」
お二人は深々と頭を下げます。
「シンディ、着替えをお願いできるかしら?」
母上がシンディにトルクさんからの文を渡しました。
シンディは文をサッと読んで頷きます。
「かしこまりました、こちらへどうぞ」
シンディが文を私に渡してから、二人を連れていきます。
私とシアはその文を確認します。
***
B姫とその侍女
頼みます
トルク
***
逼迫した文であることがわかります。
短文がその証拠。
必要な情報しか記されていませんもの。
でも、まさかのB姫とは……第二王子の元婚約者よね。
帰国の途についたのではなかったの?
本当に何があったのかしら?
それは、夕食時明かされますの。




