シンディ2
「シンデレラ召喚?」
「ああ、そうだ。召喚術が解禁され、掃除洗濯、料理に裁縫、家事全般ができる者を召喚するのが巷では流行中でな。召喚条件は家族として迎え入れることだけ」
母上と父上が話しております。
「まあ、それはなんと素敵なことでしょう」
母上は嬉しそうに答えたわ。
目頭をハンカチでそっと拭っているの。
メイトレン家、現在勤め人ーー零
給与が払えず、皆出て行ってしまったの。
「これから、俺は出奔する。留守を預けるお前たちにせめてもと……思ってのことだ」
父上がまたもや破天荒なことをおっしゃる。
「あなた!?」
母上が伸ばす手を見事に躱した父上は、颯爽と駆けていく。
「必ず、大成して戻ってくる! 頼んだぞ、シンディ」
「合点承知!」
シンディが元気に返答して、父上を見送った。
母上が床に崩れ落ち、さめざめと泣いておられる。
父上は一度出奔すると一年以上は帰ってこないもの。今回は二年で一瞬の帰宅ってことになるわね。
放浪して帰ってくる度に、メイトレン家の資産や事業は売ることになっちゃて、大成どころか成功のひとつもあげていないのだけど。
今や残ったのは屋敷だけ。
没落寸前よ。
「母様、このシンディがお側にいますので、ご安心を」
「まあ、なんて優しいの、シンディ」
「父様は、屋敷を出られましたら、すぐに元締め預かりとなりますわ」
「え? も、元締め……」
母上が困惑しております。
「はい。出稼ぎのです」
「出稼ぎ……」
呟き復唱で小首を傾げる母上。
「一獲千金、遠洋漁業、つまりマグロ漁船行きです」
私たちには、聞き慣れない言葉ばかりです。
「私が、メイトレン家のためにひと肌脱ぎまして、手はずはバッチリ。父様の成功は約束されたも同然です」
シンディがウィンクしたわ。
なんて、キュートなのかしら。
「月に一度元締めから入金されますから。前金はちょうだいしておりますので、今月はなんとかなりましょう」
「まあ! シンディ良くやったわね。ありがとう」
母上がシンディを抱き締めた。
「私シンディ、メイトレン家のためなら、獅子奮迅で頑張ります!」
この獅子の奮迅が、この後、私たちにも降りかかることになるわ。
そう……父上を強制労働させるほどの手腕を披露していたのに、このときの私たちはそんなことにさえ気づかぬおマヌケさんだったの。