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シンディ19

 王家主催、身分問わず成人未婚女性を招待する会が公表されました。


 約一カ月後の社交シーズン中盤での開催。

 三日間連続、かつ二部制。

 昼の部と夜の部。


 昼の部は、園遊会。庭園での軽食、お散歩会。

 夜の部は、舞踏会。広間でのダンス、立食会。


 さらに、


「皇太子殿下が出席されるのは、夜の部のみ。第二王子と第三王子が昼の部の方だそうよ」


 アーデルン夫人がおっしゃいました。

 今回は、アーデルン家での会議です。

 メイトレン家は焼失しましたから。


 ラルクを留守番にしてシンディと一緒にアーデルン家に参りました。シアはアーデルン家に居りましたし、母上はベーレン家から参りました。


 放火から二週間。仮店舗が完成してから一週間経っております。


「なるほど……つまり、ダンスができない者は必然的に昼の部。ダンスができる者が夜の部。きっと、そういう振り分けですわね」


 身分問わずを条件にしていますが、ダンスができるかどうかで、それなりの社交教養を培っているかを判断するのだわ。


 流石に次期国王となる皇太子の妃が、その辺の夢見る平民小娘では心もとないからでしょうね。

 言い方は悪いけれど、家名なしのパン屋の娘では王妃は務まらないもの。


「アーデルン家は夜の部で客を得る。メイトレン家は昼の部で需要があるだろう」


 アーデルン当主がシンディのプレゼン資料を手にして頷いておられます。


「地方にも伝令を飛ばしたので、地方名手のご令嬢も出席しましょう」


 トルクさんが言いました。

 そのための一カ月後なのでしょう。


「服飾関係は好景気に沸きます。いえ、関連も含めて。……それも王家の意図なのです」


 トルクさんが、その意図がわかりますか? と言わんばかりに私たちを見やったわ。


「婚約解消の衝撃を和らげる効果があると同時に、市場の活性で王家支持が高まりましょう。その市場も、貴族に偏っておらず民間中心です。なぜなら、『身分問わず成人未婚女性』としたことで、市場の隅々まで益が行き渡るからです。そう……夢が行き渡るから。民間妃ならなおさらに国民は沸くことでしょう。トリプル婚約解消など、一瞬で忘れ去られるのです。何より、全国民から選ばれし妃ですから身分を気にする必要なく……言うなれば、元婚約者が霞むこと間違いなし。異論反論が出ても、全国民を相手にするようなもの。これは、王家の意図する『シンデレラストーリー』ではないでしょうか?」


 す、すごいわ、シンディ。

 私たちが、感覚的にわかっていたことを、明文化したわ。


「ご明察の通りでございます」


 鉄仮面のトルクさんが珍しくニヤリと笑いました。


「さて、それでね」


 アーデルン夫人がシアに微笑みます。


「シアはダンスができないというから、昼の部に出ることになるわ。もちろん、後見人の私が引率します」


 少し前までわがままボディだったシアは、社交のダンスを踊れなかったのよ。舞踏会など出席することもなかったしね。

 許嫁も自然消滅して、ダンスの機会もなくて倣いそびれてしまっていたし。


 私リゼは基本が踊れる程度。


「だから、リゼ姉様は夜の部よ。母上と一緒にね」


 とシア。


「本当は保護者と後見人二人態勢で三姉妹を引率して、全員で出席したかったのだけれど、二部制だから分かれましょう」


 とアーデルン夫人。


「そうね……それが良いわね」


 と母上。


 まだ気落ち気味の母上ですが、ベーレン夫人のおかげで持ち直しておりますの。


「シンディは……」


 社交のダンスができるのかしら?

 いえ、愚問だわね。

『プロ』に訊くなんて。


「夜の部に出席しますわ」


 ね。


「心強いわ、シンディと一緒なら」


 母上が微笑みました。

 そこで、私リゼとシンディは頷き合います。


「母上、シア。私たちと一緒にメイトレン家に戻りましょう」


「でも……」


 母上の顔が曇ります。


「衣食住ままならないのでは?」


 シアも唇を噛んで言いました。


「メイトレン家には『プロ』が居るのです。お忘れですか?」


 私はシンディに目配せしました。

 シンディがおもむろに図面を広げます。


「レンタルドレス店舗は一週間前に完成し、屋敷は本日完成、再建できました。私シンディ、『プロ』の転生人召喚人ですから、昔取った杵柄の『開拓スキル』と『建築スキル』を駆使しまして、弟子(ラルク)と一緒に建てました。どうぞ、ご覧あれ。こんな感じに出来上がりました」


「「「「「え!?」」」」」


 アーデルンご夫婦とトルクさん、母上とシアが固まっております。

 それはそうでしょうね。私だって、びっくりだったもの。


「町を作った経験も何度かあるので、たかだが一店舗と屋敷の二棟ぐらい朝飯前ですから」


「「「「「は!?」」」」」


「久しぶりの工作に良い汗を掻きました」


 家造りを工作扱いするのは、シンディぐらいなものでしょうね。


「魔法で元通りにする手もあったのですが、新築の方が嬉しいでしょうし」


「「「「「……」」」」」


 あらあ、絶句ですね。


「魔法……」


 トルクさんが呟きました。


「あ、大丈夫ですよ。魔法は今世では使いません。野菜を馬車にはしませんし、小動物を御者や馬にする気もありません。ちょっとの時間で解けちゃう役に立たない魔法なんて意味もないですから。ウフフ……」


 シンディが私リゼ姉に笑いかけます。

 ええ、その通りよね。


「確かに。靴も……身につけるものだって、消えちゃうより、手元に残したいものね。それだって、誰かに与えられるより、自分の力で得たいわ。その方が誇れるもの。また誰かに焼失させられたとしても、誇りは消えたりはしないから」


 私はシンディと一緒に母上とシアを見つめます。


「メイトレン家は心まで焼失ーー消失しておりませんでしょ?」





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