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シンディ18

 闇夜に紛れて人影がメイトレン家敷地内に侵入する。


「ふざけやがって……クソ女どもめ」


 男の手にはオイル。


「フン、ただじゃ済まないってことだ」


 屋敷横の倉庫に、男ーー元家令はオイルを撒いた。


「ちょっとばかり、怖い思いをしてもらおうか」


 元家令が火を放った……。


 倉庫が一気に燃え上がる。

 元家令は裏山の茂みに隠れ、ニヤニヤ眺めている。


「ざまあみろ。唯一のガラクタも燃えちまったぞ。アッハッハ」


 バチバチ……


 火の粉が飛び火して屋敷に移った。


 煙を上げ燃え始める屋敷を見て、元家令は怖くなったのか、『倉庫だけのつもりだった。俺は屋敷に何もしちゃいないっ!』と声を震わせ後退していき、走り出す。


 もつれた足で注意散漫に逃げている……と、


 ガシャン!


 足を取られ、盛大に転倒する。


(いて)ええぇぇっ!」


 獣のくくり罠に足首を噛まれたのだ。

 ドクドク流れ出る血を見て、元家令は気を失った。




「っほ、けほっ……ごほっごほ、ぅん……」


 気持ち悪さに目を覚ます。

 いえ、まだ夢の中ね。視界いっぱいモクモクしているなんて。雲の中のいるのかしら?

 ずいぶんと、目に痛い雲よね。


「……ごほっごほっごほっ」


 苦しくて口元に手をあてたわ。

 目もしばしばする、痛い。涙が溢れ出るの。


「嘘!? 夢じゃない!」


 バッと飛び起きる。


「何、何、何、なんなの? く、苦しいぃわ」


 手探りでなんとか窓を開けた。


「はあはあはぁ……」


 やっと息ができる。

 窓からはモクモクと煙が立ち上っているわ。

 寝巻きの裾を上げ、口元に添えた。状況がわからず、バルコニーの手すりを掴んで階下を見たの。


「嘘、嘘、嘘ぉぉぉぉ!?」


 屋敷一階から火の手が上がっている。


「いっやああぁぁぁぁーー! 火事よぉぉぉぉーー! ごほっごほっごほっ」


 どどどうしたらいいの!?

 へニャへニャと腰が抜けちゃって、恐怖で動けない。


「リゼ姉!」


 煙の充満した部屋から、シンディの声。


「シンディ!」


 煙の中から、フッとシンディが現れて……


「よくぞ、ご無事で」


 言うや否や、私を軽々と背負い……

 バルコニーの手摺りをヒラリと乗り越えた。


「ひゃあぁぁぁぁ、落ちるぅぅぅぅ」


 スタッ


「ええぇぇ!?」


 まさに猫のような着地を披露したシンディにびっくりしちゃう。


 バッターンッ


 今度は火の手が上がっていた玄関扉を蹴破って、シアをお姫様抱っこしたラルクが登場。


「シア!」

「リゼ姉様!」


 待って待って、母上は!?


「母上!」

「お待ちを!」


 屋敷に走り出そうとする私を、シンディが止めました。


「母様はアーデルン家ですよ、リゼ姉」

「あ……そうだった」


 またもへニャリと腰が抜けました。

 アーデルン夫人とベーレン夫人とお泊まり会をするの、と夕刻嬉しそうに出発していたわ。


 燃え上がる屋敷を眺めるしかなくて……。


 そのうち、異変を察知した警ら隊の方々が到着して……。


 屋敷の裏山で負傷していた元家令を見つけ、放火の疑いで引っ立てていきましたの。




 トントンカンカン

 トントンカンカン


「親方あ!」とラルク。

「なんでぇい、青二才!」とシンディ。


 二人は息ぴったりで小屋を作っております。

 材料は裏山の木材と、アーデルン家からいただいた見舞い金で購入した建築キット。

 それを使って、ラルクがここでも大工能力をいかんなく発揮しております。それ以上なのが、シンディですけれど。


 私たちは未だ屋敷焼失を現実として受け入れられず、母上なんてベーレン家で寝込んでおります。


 シアはアーデルン家でお世話になっているわ。

 アーデルン夫人がシアの後見人に、正式になったから。


 そして、私はシンディとラルクと一緒に、使用人塔で過ごしておりますの。使用人塔は石造りだったため、火の手が回らなかった。不幸中の幸いだったわ。

 さらに、シンディがリメイクするため、ガラクタ倉庫から使用人塔に古めかしいドレスも移動してあったから、レンタル事業には問題はなし。

 本当に幸運だった。

 だったのだけれど……


「でも、屋敷がない……」


 ため息が出ます。

 もう一週間が経ったというのに、私は何もする気が起きず、ぽけーとシンディとラルクの小屋作りを眺めています。


「あれ? もう出来上がっている?」


 目をパチクリとさせ、その光景を見つめます。

 シンディが塔から眺めている私を見上げました。


「リゼ姉! 仮店舗できました!」

「……え? ええっ!? 店舗って一週間やそこらでできるものなの!?」


 ずっと、眺めていたのに、今さらながら異様な早さの出来上がりに気づくという愚鈍ぶり。

 それぐらい心ここにあらずだったもの。


「『飛び地の辺鄙(へんぴ)な領地をくじ引きで引き当てちゃった第九王子は、開拓スキルと建築スキルで町を作っちゃった』のなろラベに転生したことがあるので、この程度の小屋なんて朝飯前ですわ! 私シンディ『プロ』ですから」


 前半部はちんぷんかんぷんだけど、後半の『プロ』は理解できます。

 ……そうよね、シンディだものね。

 納得。


「リゼ姉、仮店舗の準備をお願いしまーす。リゼ店長! 一国一城の主ですよー」


 シンディが大きく手を振って言ったの。


 ゾクッと。

 ジワジワッと。

 ムクムクムクッと。


「あっ」


 急に湧き出てきた意欲を自覚して、私ったら塔をはしたなくも駆け下りていました。





『飛び地の辺鄙な領地をくじ引きで引き当てちゃった第九王子は、開拓スキルと建築スキルで町を作っちゃった』

 これ、作者の作品には存在しません。

 他作品に出番ありは、ラビラビの肉、だけ。

 一応、注意書きしておきました。

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