シンディ15
緊急会議です。
アーデルン家御一行様が、内密にメイトレン家にお集まりです。
あの情報から一週間が経っておりますわ。
アーデルン家から深夜会議の連絡きたのは、一刻前のこと。もう、寝静まりかけた頃でしたの。それも、場はメイトレン家で。
だから、大慌てで準備してひっそりこっそりと出迎えました。
馬車さえも屋敷内に入れるほど、この訪問を密かにしておりますの。
応接室に皆集まりましたわ。
アーデルンご夫妻とその背後に新顔おひとり。
こちらは母上と私リゼ、シアと背後にラルク。
シンディは戸口で全員のお茶を準備しております。
「緊急で申し訳ない」
アーデルン当主がおっしゃいました。
「いいえ、問題ありませんわ」
母上とともに会釈します。
そして、アーデルン当主に注目しました。
アーデルンご夫妻が頷き合ってから、夫人の方が口を開きましたの。
「新たな情報が入りました」
アーデルン夫人がひと呼吸入れます。
「婚約破棄、いえ、解消との情報です」
「誰が?」
思わず声が出てしまいました。
「皇太子殿下」
「ええっ!?」
今度は母上が声を上げてしまわれて……口元に手を添えました。
「並びに」
並びに!?
「第二王子、第三王子ら、トリプルで」
絶句。
シーンと静まり返っております。
「……ど、どうして、そのようなことにおなりになったのでしょうか?」
母上がなんとか絞り出しましたの。
「私たちの口からは説明が難しいので、変わりますわ」
そこで、やっとアーデルンご夫妻背後の新顔が会釈しましたの。
「お初にお目にかかります。私、アーデルン家次男、トルク・アーデルンと申します」
かけていた眼鏡をクイッと押し上げてご挨拶されました。
確か、王城勤めの事務方よね。
ということは、確実な情報だわ。
「少々込み入った話で、頭がこんがらがるかと思いますが、最後までお聞きください」
そこで、トルクさんは皆の顔を見回しました。
最後に戸口のシンディも見やります。
シンディがそこでお茶を皆に配りました。
トルクさんが、お茶でひと口喉を潤してから話し出します。
「できるだけ簡潔に説明致します。社交シーズンが始まる少し前に、三名の王子たちの婚約が整いまして、初顔合わせ及びに、今シーズン最初の夜会で大体的に発表される算段がついておりました」
ほおほお。
確か、王子様たちは年子だったはず。
婚約が決まる時期が同じになったわけね。
「婚約者は周辺国の姫たちです。個々名を使うとわかりづらいので、皇太子の婚約者A姫、第二王子の婚約者B姫、第三王子の婚約者C姫とさせていただきます」
何やら、ちょっとこの時点で頭痛が。
「さて、この六名で初顔合わせと相成りまして、悲劇が起こったのです。それぞれの紹介後、突如C姫が『皇太子殿下にひと目見て恋に堕ちましたの!』と高らかに告げました」
は?
「そうしましたら、C姫の婚約者である第三王子が『私はB姫が好みだ』と」
なあにぃ!
「そこで、第二王子の婚約者B姫が『私は第二王子一筋ですわ!』と叫ばれまして」
はい、まあ。
「なのに、B姫の婚約者である第二王子は『B姫、申し訳ない。正直に申し上げると、A姫に心惹かれている』と」
ちょっと、待てえぇいっ!
「その皇太子の婚約者A姫はなんと『第三王子の顔が好みなの』と」
カオス……半端ない。
「続けて、A姫は『第三王子を皇太子にしていただけるとありがたいわ』などと宣いまして」
ないわあぁ。
他国の姫が皇太子すげ替えを口にするなんて、内政干渉にも捉えかねない発言だもの。
「そこでなぜか、C姫が『私は皇太子の妃になりたいのです!』とA姫につっかかりまして」
C姫ヤバッ。
皇太子妃狙いかーい。
「C姫につっかかられるA姫をを第二王子が庇い、その第二王子にB姫が縋り、そのB姫を第三王子が慰め、その第三王子にA姫が熱視線を送る」
……何それ、もう駄目だ。ついていけないわ。
「つまり、こういうことですね」
シアがテーブルに紙を置き、相関図を記しました。
そこで気づきます。
「皇太子殿下はなんと?」
ここまでで、皇太子の口からは何も発せられていないから。
トルクさんがクイッと眼鏡を押し上げまして……
「皇太子殿下は『これにて、円満な婚約解消ですね』と」
うん、確かにそりゃそうだ。
円満かどうかはさておき。
「それでも、C姫は粘ります。『殿下のお気持ちは?』と」
トルクさんがそこでため息をつきます。
「皇太子殿下は三姫を一顧だにせず『どの姫にも全く心惹かれません』とおっしゃいましてございます」
だろうね。
「それどころか……『私の食指は全く反応しません』とまで。とーっても、良い笑顔で言い切りましてございます」
辛辣ぅ。
「色々と手は尽くしたようですが、六名の意思が覆ることなく、婚約は破談、破棄と相成りました。表向きは円満な婚約解消と発表されましょう。問題は、シーズン直前でしたので、お膳立てした全てが零ベースになった混乱が各方面に出ております。それ以上に、王子たちのお相手をどうするか、喫緊の課題となったのです」