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シンディ13

 三日後のことです。


「家令、執事、近侍、下僕、御者、馬丁、庭師なんでも経験済みです。唯一できないのが、料理(クック)、センス皆無で習得を諦めました」


 あのぉ、先に名前を名乗っていただきたいわ。

 玄関先でいきなり言われても。

 アーデルン家の(つて)でやってきたのでしょうね。

 それにしても、ちょっと若すぎないかしら、この方。


「父上からこちらメイトレン家で、お世話になれと指示されて参りました」

「父上?」


「申し遅れました。私はアーデルン家嫡男、ラルク・アーデルンです」

「……は?」


 嫡男ですとぉぉぉぉ!?

 なぜに?


「あ、ついでに家業の商人のセンスは皆無、いえ、マイナスに振り切っておりまして。アーッハッハッハ。自他ともに認める商才のなさに、アーデルン家を継ぐのは、三男に決まっております」

「……」


 えーっと、これはどう反応したら正解なのかしら。ん? 三男が次期当主なら、次男はどうしたのかしら?


「疑問の次男ですが、事務方として王城勤めをする眼鏡野郎でして、家業にまったく興味を示さないばかりか、愛想をどこかに置き忘れてきた鉄仮面。要するに商人面をしておりません」


 問うことなく、お答えいただいたわ。


「まあ、つまーり、私は当主の器なく、サポートのオールラウンダー。どこへ出しても恥ずかしくないように、仕込まれました。父上曰く、家族のひいき目で見てギリギリの及第点だとお墨付きいただいております。こちらのメイトレン家で私をお引き取りいただきたく、馳せ参じた次第にございます」


 なんだろう……そこはかとなく漂うこの感じ。既視感は、破天荒父上と同じ気が……。ベクトル違いの方向で。


「なるほど。先日の破格の対応は、この不良債権(ラルク)の引き取り込みということですのね」


 静かに控えていたシンディが言い放ったわ。


「シンディ、失礼よ!」


「いやあ、そんなのお褒めいただくと恐縮です」


 はいぃぃ!?

 どこに褒め言葉なんてありまして?


「リゼ姉、こちらの方の思考回路を推測しますに、破格=不良債権(ごじしん)と変換された、と」


「はい! まさにです。父上曰く、私に値段はつけようがないから、メイトレン家で寝食をお世話になるだけでありがたいこと。その上、給金までいただこうと思うな、と。要するに、ただ飯食わせていただきたい! アーッハッハッハ」


 私リゼ姉は、この方の対応は無理。

 脱力疲労が蓄積しちゃうから。

 シンディに任せよう。

 目配せすると、頷いてくれたわ。


「おい、新人。あっしについてきな」


 あ、えっと、その感じで行くの、シンディ?


「合点だい、師匠!」


 ノッちゃうんだあ……。

 とりあえず、アーデルン家に一報入れておかなきゃだわ。

 私リゼも、屋敷に入りました。




 ラルクが家にやってきて早一週間。

 彼は……なんていうか……そう、家族目で見てギリギリ及第点、という表現はピッタリ。

 シンディなら一刻で終えることを、一日がかりの大仕事。


 商才なくお家は継げないなら、お家仕えさせようと色々とさせたのだけれど、どれもエキスパートにはなれなくて、アーデルン家で持て余した存在だったのでしょうね。


 でもね、何も文句は言えないわ。

 だって、私たちと同じだから。シンディが来る前の私たちと。


 けれど、男手があることは頼もしいことで。

 特に屋敷管理をするシアは、あれやこれやと修繕箇所をラルクにやってもらっているの。


 ラルクの大工のセンスは抜群だった。

 これは思ってもいない収穫よ。

 メイトレン家は修繕費まで捻出できないからね。


 というわけで、

 今はまた玄関先。


「じゃあ、シア、いってらっしゃい。先方に失礼のないように気を引き締めて。ラルク、シアをお願いね」


 母上と私リゼ、シンディは、お見送りです。

 シアはこれからアーデルン家で社交の打ち合わせなの。それから、ベーレン夫人から色々指南いただくわけ。


「はい、このラルクに万事お任せを」


 ……シンディの『お任せを』は安心するのに、ラルクの『お任せを』は不安しかない。


 屋敷前にアーデルン家からのお迎え馬車が待っているわ。


 ラルクが先導し、

 ……あーらら、勝手知ったる馬車だからか、自ら乗っちゃったわ。

 使用人(ラルク)が主家の(シア)を差し置いて、馬車に一番乗りとはね、ポッカーンよ。


 アーデルン家の御者の方が大慌て。

 でも、ちょっと前までアーデルン家坊っちゃんだったラルクへ、上手く言葉が出てこない。


 で、シュンと風切音がしたかと思うと、真横にいたはずのシンディが、ラルクの首根っこを掴んで馬車から引きずり下ろしてたわ。


 そこでやっとこさ気づくのがラルク。


「……えっと、クビですかね?」


「返却クビを回避したいなら……」


 シンディがニヤッと笑いました。

 あれは、良いことを思いついた顔ですわ。

 シンディがシアの耳にコソッと何か言いました。

 シアの目がキラッと輝き、ラルクに指示したわ。


 どうやら、何か面白いことになるみたいね。

 シアが玄関先の私たちに、軽く手を振って出発しましたの。


 ラルクは一生懸命走ってついていきました。

 ……うーん、クビの回避にしては生ぬるい気が。




 

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