人間がいない都市
『ネコが見た滅びた都市』
まえがき
人間がいなくなった世界を想像したことはあるだろうか。
電車は停まり、信号は動いておらず、ビルの窓はバキバキに割れている。
誰も歩いていない交差点。
こんな世界に、一匹のネコがいる。
ただ一匹、東京の廃墟を歩き、残された風景を見つめている。
彼は何を思うのか?
何を感じるのか?
そもそも……彼はなぜ生きているのか?
この物語は、人類が消えたあとの世界を旅するネコの記録である。
終わりを見つめる物語であり、ただ生きる意味を探す物語。
ページをめくる前に、少しだけ目を閉じて、想像してみてほしい。
すべてが消えた世界に、君が取り残されたら——。
人類がいなくなった。
僕は猫。
名前は……ネコ。
人類が消えたのは僕のせいだと言ったら君は……怖いかな?
あそこ。
1つだけカメラがあるでしょ。
あれだけまだ動いているんだ。
不思議でしょ?
この都市。
東京都。
新宿区。
僕は新宿あまり詳しくないんだ。
そう……その昔、数回だけ来たことがあってね。
人がたくさんいたなぁ。
ガヤガヤしてた。
歌舞伎町口っていう駅の改札の近くでは、男性が女性に話しかけていて。
ついていく子、無視する子がいた。
中には女性から声をかけるパターンもあったよ。
男性は嬉しいものなのかなぁ?
あんなに賑わっていた歌舞伎町は変わり果てちゃった。
ガラスが割れたビル。壊れかけた看板。
かつて夜を眺めていたネオンは、もう光らない。
ビルのガラスは、ほとんどが砕け落ちている。
無数の破片がアスファルトの上に渡り、時折、風に吹かれてかすかに音を立てている。
かつては透明だったガラスの破片も、今は塵と泥にまみれ、鈍い光を反射するだけ。
歩道に倒れる看板は、文字の半分が消え、残った部分も日差しと雨風に削られた。
「ラーメン」「カフェ」「カラオケ」
かつて人々を呼んでいた人間の言葉は、今は耳を澄ましても聞こえない。
線電が絡まり、折れた街灯が斜めに突き刺さる。
足元のアスファルトには、ひび割れた隙間から雑草が生えている。
強い根を張った草は、ネコが踏んでも折れない。
コンクリートの隙間に入った土の匂いが、湿った空気に漂っていた。
ここにはもう、排気ガスの匂いも、焼き立てのパンの香りもない。
ネオンの光が夜を照らしていたあの頃は、もう二度と戻らない。
今はただ、無機質な鉄の塊が並ぶだけの、静寂の都市。
ネコは耳を立てる。
ビルの影で、何かが動いたような気がした。
誰もいない。
この都市、いや日本には、もう自分しかいないかも。
何も聞こえない。
風が吹く音だけが、世界を満たしているんだ。
昔はここに、人間の匂いがあった。
たくさんの靴の音、食べ物の匂い、タバコの煙。
僕は……何で生きているんだろ。