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光の勇者ルーク(4)


 今日は珍しく新鮮な魚が手に入りホクホク顔。

 簡単にムニエルにしようか、それともトマトベースの煮込みにしようか。ついでに言えば、師匠は魚より肉派だけど、ルークさんはどっちだろうか?

 と、夕飯の献立を考えながら元来た道を戻り、今度はきちんと手続きをして図書館内に入る。



( さてルークさんはどこかな? 歴史書って言ってたよね、確か )



 歴史、歴史…と、探して行けば、もの凄く不自然に人が集まる一角がある。しかも大半が女性と偏った。



( あー…、…まさか…? )



 歴史の棚はこの図書館内でも奥まった人気のない場所だ。 そこに絶対に普段は近寄らないだろうというキャピキャピとした女子たちが、これまた絶対読まないだろうという分厚い蔵書を抱え更に奥の棚へとチラチラと視線を送っている。なんなら、普段からそこにいる常連だろう爺様たちも同様に。

 もう確認しなくても当たりだろうけど、一応みんなの視線の先を覗く。

 うん、やっぱりそのまさかだった。


 本に直射日光が当たらないようにした薄暗い通路。棚と棚の間にある柱に背を預け、ルークさんは微かに入る日差しを灯りに手にした本へと視線を落とす。金の髪、金のまつ毛がキラキラと薄い日の光を反射して、こんな離れた場所では届くはずもないのに眩しさに思わず目が細くなる。

 て言うか、ルークさんを見ている全員が同じように目を細めている。 


 スッと通った鼻筋に、シャープな顎のライン。唇は薄くも厚くもなく、今は本の文字を追っているのか微かに開いている。そして伏せられた視線が上げられでもすれば、そこにあるのは高貴な輝きを放つ蒼玉(サファイア)



( あ、これはダメなやつだ )



 近寄りたくない。ものすごーく近寄りたくない。

 外で待っていようか? 時間になって戻らなかったらきっと外に出て来るだろう。 うん、それがいい。

 ウンウンと頷いて、さっさと撤収しようとしたら、目の端を高貴な蒼が掠めた気がした。

 ………いや、気のせいだな。離れてるし、気のせいだ。

 確認などもってのほかと、そそくさと立ち去ろうとする背中に響く美声。



「ドーリー?」


( うおおぉい、そこで呼ぶ!? )



心の中でツッコむも、振り向くなどという失態はしない! ここは早足にて去る! せめて外まで!!

 

 だけど悲しいかな、身長差があるということは足の長さも違う。むしろ足の長の差の比率の方が大きい(泣)ので簡単に回り込まれてしまった。もうちょっとで外なのに!



「ドーリー? 呼んでるのに何で無視するんだ?」

「最善を試みた戦略的撤退です!」

「最善…、戦略的って…?」

「ルークさんにはこの迫りくる危機がわからないんですか! 勇者なのに!!」

「ええ……?」



 理不尽な言い分だろうけど、後方からヒシヒシと感じる無言の重圧の原因はルークさんなのだ。

 でも、もう既に標的になってしまったからにはここは潔く。

 私はがしりとルークさんの手を掴むと、今度は勇気ある撤退に出た。もちろん武器の回収も忘れずに。




□□□




「もうルークさんとは街に行きません!」

「え…、俺何かした、っけ…?」

「ルークさんが何かしたわけじゃないけど、ルークさんのせいではあります!」

「もの凄く理不尽なことを言われてる気がする…」



 早足で街の端まで来て、やっとホッと息をつく。実際はホッと言うかゼーハー。体力のなさを痛感。横のルークさんはとても涼し気な顔をしているというのに。

 ここから先は慣れた森の道。慌ててたからか繋いだままだった手に気づき、何でもないふうを装ってそっと離せば小さく笑われた。…何さ?



「そう言えば、買い出し終わったんだよね? あ、これが傷に効くヒメグルマ草だね」

「へえ、雑草かと。 大量大量ばっちりです。美味しそうな鱒も手に入りましたよ!」



 たまたまルークさんがそこら辺に生えてた薬草の話しをして、家に師匠が使っていた(今は飽きた)薬を作る為の道具があると伝えたところからの帰りがてらの薬草採取。

 ヒメグルマ草を丁寧に根っこから引き抜いた後ルークさんは不思議そうに言う。



「えーっと荷物は?」

「ここにありますよ、行く時も持ってたでしょう?」



 と、背中に背負ったカバンを差す。ルークさんが今度は怪訝な顔をした。



「ぺったんこ、だね…」

「そりゃーぺったんこですよ――あ、そうか」


 

 ぺったんこというワードに一瞬ピクリと反応して自分を見下ろしそうになるが、違う違うそうじゃない。

 ルークさんの言ったことを理解して、背負っていたカバンを下ろす。そして手招きする、カバンの中を見てと。

 


「これ、マジックバッグなんです」



 中が見えるようにパカッとカバンの口を開ければ、そこには大量の食材。



「マジックバッグ?」

「あれ、ルークさんは知らない?」

「そうだね、見たことないし聞いたこともないかな」

「そうなんですね。これ、空間を作り出す魔石が入ったカバンなんですよ。ちょっと高価なんですけど、便利なんで重宝してます。原理とかは全然わかんないですけどね」



 しかもこれは師匠のカスタムが施されていて、内容物の重さが十分の一になり、鮮度を保つ為に停止の魔法も掛けられている優れものだ。

 「へえ、面白いね」と覗き込むルークさんに今度は私が尋ねる。



「でも、勇者なら旅ばかりですよね? 荷物どうしてるんですか? 今も持ってないみたいだし」

「旅ばかりね…、うーん、ドーリーの勇者の定義に少し疑問があるけど…、それはね」



 ルークさんがパチンと指を鳴らす――と、ブゥンという音と共にルークさんのすぐ横の景色に丸い穴が空いた。



「な、何!?」

「光と闇の複合魔法だよ。そのマジックバッグと使用目的は同じかな。これは空間に直接ものが入れるんだけど、無限過ぎて何を入れてたかよく忘れるんだ。…今は、」



 どうだろ?とルークさんが丸い穴に上半身を突っ込んだ。「ひえっ!」っと声が出る。 私から見れば今のルークさんの状況は上半身が消失したように見えていて。

 確認し終えたルークさんが顔を出す。



「やっぱり何も入ってないね。時代が違うと空間も繋がらないか……――ん、どうかした?」

「い、いえ…、…魔法って便利ですね」



 めっちゃびびったけどね!



「ドーリーだって魔力があるんだから魔法は使えるんだろう?」



 と、ルークさん。



「あー…っと、使えると言っていいのか」

「?」

 


 ルークが不思議そうな顔をするので、前はかいつまんで説明した魔法訓練部分を話した上で続ける。



「魔力があってもそれをきちんと有効活用出来なければ意味がないんですよねー。そもそも向いてないっていうか…。 その点、召喚魔法は半分他力本願でオッケーじゃないですか? 向こう側が私の魔法陣と魔力を気に入って色々としてくれるんですから。こちらは何も頑張らなくていいし」



 まさに真理。うん、理にかなっている。決してぐうたらなどではない!

 清々しいほどの自己満足思考で頷く私の目の前には、何とも言えない表情のルークさん。



「それを言われると…、俺は他力側なんだけど?」

「――あっ! や、あー…、いや、……すみません」



 いやいやいや、すっかり忘れてた。

 あーもー、だから馴染み過ぎだって! 私もだけど、ルークさんもっ! 

 アワアワとする私にルークさんがフフッと笑う。



「まあでも、確かにドーリーの魔力は心地よいね」

「はっ!? …え…?」

「心地よいし、美味しい」

「美味しい……」

「――いやっ、ほら、今の俺は君の魔力が食事だからね? 変な意味は一つもないよ」

「ああ…」



 そうだった。「美味しい」発言に思わず腕で身を庇い後ずさってしまったが、よく考えて――いや、考えなくてもわかるだろう。一瞬過った私の杞憂などホントこれっぽっちも必要ないって。

 だって目の前のルークさんはただ居るだけで色んな人の秋波を集めてしまうほどの美丈夫だ。勘違いが甚だしくて余計に虚しくなる。

 だけどおかけでスッと頭は冴えた。なのでひとつ気になったことを。



「そんな魔法があるなら、さっきの図書館の時デュランデルもそこにしまっておけば良かったんじゃないですか?」


「――あ、」



 なるほど…と零す勇者ルークは、意外と抜けたとこがあるらしい。




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