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光の勇者ルーク(1)

 

「………、……は…?」



( いやいやいや、ホント今なんて言った? ちょっと無茶振り過ぎない? )



 ルーク·デル·フィンレー·ウェグルトと名乗った男も、それが分かっているのか言った後に少しバツが悪気に頬を掻いた。



「でもそれを証明するってのも、中々難しいね」

「…はあ」



 呆れてもはやツッコむ気も起きず、気の抜けた返事しかでない。

 それでも、自称勇者な男は何か思いついたのか「あっ」と腰に下げた剣に手を掛けた。



( ――!! え、まさかの実力行使!? )



 ビクッと身を竦める私に気づくことなく剣は鞘から抜かれ、部屋に入る日差しが刀身に跳ね鈍く顔を照らす。



「いやっ、ちょっ、ま――


「ほらっ、これ見えるかな?」


 ――って……」



 ビビる私を余所に、テーブルの上にパタンと置かれた抜身の剣。

 男は真ん中辺りを指差す。ここを見ろということらしい。



「……………、…えーっと?」



 何事もなかったふうを装い、言われたところを眺める。

 フラーと呼ばれる溝部分に何か彫っているようだ。



「エノム語、…ですか。 見えにくい…」

「ああ、ごめん。結構酷使してるから。でも、ここらへんとか…あ、危ないから触るなよ」

「んー…、聖…デュ? デュ…ラ、デュランデ……?  


 ……………えっ! 聖剣デュランデル!?」



( ええっ!! ホントに!? )



 それは光の勇者ルークが持っていた聖剣。 勇者亡き後、国宝として奉られていたがウェグルトの滅亡と先の二百年戦争で紛失されたと言われている。――が、……まさかっ!?



「盗んだ!?」

「いや、デュランデル(これ)は俺しか触れないから」



 ごく冷静に返された。

 確かに『光の勇者と不死鳥の聖女』の中にもそんな設定はあった、はず。

 だけどこれが本物だと言う確証はない。だって実物を見たことないのだから。

 でももし、これが本物だとするなら。



「……あの、触ってみてもいいですか?」

「あー…、おすすめは、しない」



 触れて欲しくないという苦い表情の答えはどっちか?

 偽物だから? それともさっきチラッと言われたように、触れると危ないから?

 まあ取りあえず試してみようと、伸ばした指先が刀身に触れるかふれないかで、――バチンッ!と大きな音が鳴った。



「いったぁぁ!!」

「だから…、ほら、手貸して」



 小さなため息と共にあっという間に手を取られ、何かを短く呟かれた。じんじんとした痛みがスッと引いていく。



( これは…っ!? )



「え……治癒魔法…?」

「そう、出来るって言ってただろ?」



 言ってた、言ってたけど。



( いや、魔力あるじゃん!! 詐欺じゃないじゃん!! )



 しかも、デュランデル、らしき聖剣は私を弾いた。

 それなら勇者であることも本当なのか?



( ………うーん、それはちょっと…、どうなのか…? )



 魔力があるなら他人を弾く仕掛けとかも出来るんじゃないか?

 そう、魔力があれば………、


 そうかっ、魔力! というより、魔法!!



「ルークさん!!」



 魔力詐欺ではなかったので名称は戻そう。けどまあそれはどうでも良くて。

 勢いよく名を呼んだことでルークさんがパッと手を離す。あ、そういえば治療中だった。



「あ、ありがとうございました。もう大丈夫です」

「――えっ、あ、うん…」



 ん? 何で驚いてる? いや、戸惑ってる?

 どこか曖昧な笑みを浮かべるルークさんを怪訝に見ながらも今はそれどころじゃない。



「さっき、攻撃魔法も使えるって言いましたよね?」

「ああ言ったね」

「それなら――、もちろん全属性が使えるんですよね?」

 


 それは勇者ルークなら当然のこと。

 火、水、風、土、光、闇、そして聖、が魔法の根本となる属性。治癒魔法を使ったので聖は確定だとしても残り六属性。師匠でさえ光は使えず、水と聖は苦手だと言ってた。

 


「使えるよ」

「あー…っと、そう、ですか…」



 即答。しかもルークさんはデュランデルを腰へと戻すと立ち上がり、「それが確証になるなら見せようか」と私を外へと促した。




□□□




 そして今、私は何を見せられているのか。



「どう? 綺麗でしょ?」

「はあ…まあ…確かに…」



 パカリと口を開け見上げた先、暗い闇にポンッとあがる色とりどりの花は、花火。ただ少し規模は小さい。

 それでも様々な形で光りパチパチと音たて消える花火は本格的で、その背後で立ち上がる水の壁に反射して、キラキラととても幻想的だ。その上に、何処からともなく白い花びらのような雪までも舞っている。


 いやホント、何だこれ?


 もちろんこれ全てがルークさんの魔法のわけだが。

  


 連れ立って外へと出た後、ルークさんは少しだけ興味深げに辺りを見回した。が、ここは街からも外れた森の中。きっとどの時代だろうと対して違いはない。なので早々に興味を失って「ここら辺でいいか」と何もない空けた場所に立った。

 そんな全てが演技だとすると凄すぎる。

 あくまでも私は、まだ完全には信用していないという立ち位置だ。


 ルークさんはまず、平たい土地の四方を土留のように盛り上げ、一部を椅子のように変化させた。言わずとも土魔法だ。

 その後暗幕のような闇でその上部を覆い(闇魔法) 、私をその中、さっき作った椅子へと誘った。そして上がる花火(火魔法と光魔法) 、演出の手助けをする噴水(水魔法)と舞う風花(風魔法と水魔法) 、素晴らしきイリュージョン。


 確かに綺麗だ。思わず呆けてしまうくらいには。

 きちんと六属性魔法を使ったコラボ。うん、合ってるよ? 合ってるけど、…そうくる普通?

 

 私の複雑な表情に気づいたのかルークさんが尋ねる。



「お気に召さないかな?」

「――あ、いや、綺麗です! 綺麗ですけど、もっとこう…、バー!とかゴオー!とかドカン!的な攻撃魔法が披露されるのかと」

「――ああ、なるほど…」



 少しだけ残念そうな声は、このイリュージョンに食いつかなかったからか、私の感性が残念だと言いたいのか。

 パチンっとルークさんが指を鳴らすとイリュージョンは何もなかったかのように全て消えた。



「なんかすみません…」



 取りあえず謝る。

 


「いや、女性はこういうのが好きだと勝手に決めつけていた俺も悪い」

「………」



 うん、それってやっぱり私の感性が残念だと言ってるよね。 でもまあ。



「むしろ逆にド派手な攻撃魔法とか披露されても引いてたかもしれませんけど」

「そう?」

「だってそれでの凄さって、結局は攻撃の為のものでしかないですよね?」

「そう…、だね」

「だったらいいんじゃないですか? こーゆー方が。 攻撃魔法と言われるものが一切の攻撃性を持たないってのもまた面白いですし。それはそれでありかと」

「………なるほど」

 


 再びの「なるほど」の声には苦笑と安堵があった。



 ところで、望み通りの全属性魔法を見せられた上に、デュランデルらしき聖剣を持つルークさんを、勇者ルークと認めるべきかどうか?


 ………と、そこで思った。


 そもそも論点がずれている。


 ルークさんに言われたように勝手に召喚してしまったのは私だ。そこは揺るがない。

 そして帰れないとのことだが、期限になればどちらにしても戻ることにはなるし、魔力があるのも本当。しかも全属性魔法使用可だ。そんな人が、私を騙してまでここに残るメリットなんてあるのか。いや、ない。



( 師匠の美貌だったら騙してでも一緒にいたいとかあるだろうけどねぇ… )

 


 でも師匠を騙した時点でメリットどころか人生が終わること間違いないが。まあそれは余談で、このルークさんも方向性は違うけど師匠にも匹敵する美形だ。



( ……………うん、やっぱりないな )



 だから本当に純粋に戻れないのだろう。その原因がどうであれ。

 そうとなれば、私自身、出来る範囲で責任を取らなくてはいけない案件だ。



「あのー…、取りあえず家に戻ります? 部屋も案内しますね、ちょっと片付けないといけないですけど…」



 師匠との二人暮らしには大き過ぎる屋敷。なので部屋は余っている。余っているというか放置しているというか。

 そう話せばルークさんはパチリと目を瞬かせた。



「信じてくれた?」

「あー、いや、それは…」

「…信じてなさそうだね、…いいの?」

「でも否定する要素もないですし、そもそも私のせいですし」



 その通りだと言われてもおかしくない今更な結論に、だけどルークさんは小さく笑って「ありがとう」と言った。

 



□□□




 余ってた(放置してた)部屋を手伝ってもらい二人で軽く片付けた後。



「あー…、ちょっと、いいかな?」

「はい?」

「いや、実はここに喚ばれる前しばらく野宿生活で、…いやっ、川や水魔法で体は拭いてたんだけどねっ」

「ああ――、お風呂ですね?」

「…すまない…」


 

 お風呂場に案内する。



「取りあえず適当に着れるもの探して来ますね。あ、タオルは棚の三段目にあるんで」

「何から何まで、すまない…」

「いえいえ、もともとこっちのせいですし…」



 恐縮されると余計にいたたまれずに「じゃあっ、ごゆっくり」と早々にドアを閉めた。

 さて、服、服…っと。

 ルークさんは師匠と背丈は変わらなそうだが体格は大分良い。着れるものあっただろうか?

 考えながら数歩進んで――はっ!と思い出す。



「ルークさんごめんなさいっ、忘れてました! お風呂っ、水の魔石が―――」



 引き返し、バンッ!と勢いよく扉を開けて、驚きで中途半端に言葉を飲む。目の前にあったのは見惚れるほどの僧帽筋! 素晴らしい!

 ……て、違う違う、そうじゃない。驚いたのはそこじゃなくて。



「……ルークさん…、その背中……」

「ん? え、ああ、これか…」



 ルークさんの背中には両側に広がる翼のような赤いアザ。本人からは見えない場所だけどそこにあることは承知らしく、何故か少しだけ恥ずかしいそうに言う。



「実は子どもの頃脱走常習犯でね。城から脱走ばかりしていて。これは木に飛び移るのに失敗して三階から落下した時の怪我の跡で、三日三晩意識を戻さなくて…。周りには迷惑を掛けた上に、意識が戻ったら戻ったで凄く怒られたよ」



 子どもの頃あるあるだよねと、ルークさんは照れたように頬を掻くが、



「いや、それ、勇者の証だから!!」


 

 と、私は膝をつく。



「え?」

「勇者ルークは背中に翼のアザがあるんです! 神に選ばれたっていう証がっ!」

「いや、でもこれ怪我の跡だし…」

「そこはどうでもいい!」

「あ、ごめん…」

「もぉ、ホント何…、ルークさん、マジ本物じゃん……」

「あー…、えーっと、ごめん…?」



 嘆く私に勇者ルークが申し訳なさそうに謝る。

 

 そう、どうやら私は勇者(本物)を召喚してしまった。


 ……みたいです。


 


 ちなみにルークさんは魔石がなくても魔法が使えるのでお風呂にお湯をためれました。


 ………いや私、ただの痴女じゃん!




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