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【閑話】その重みが当然となるまで

勇者と不死鳥がちゃんと出会えてた世界での話し。(ifではない)

 

 変わった鳥に懐かれた。


 行く先々にいて、気づけばいつも近くでこっちを見ている。よく見かける鳥ならばそれもあるかもしれないが、そこそこ大きく、真っ赤な体に同色の長い尾っぽと冠羽、瞳はオパールのように複雑な色を放つ。今まで一度も見たことのない、どう考えても珍しい部類の鳥だろう。


 今も野営の為に焚いた火の明りが照らす範囲ぎりぎりからこちらを眺めている。火を怖がることもないし夜行性なのだろうか?



「変な鳥だな…」



 呟やきに反応したのか鳥は僅かに首を傾げる。まるで話かけられたのがわかったような動作だ。思わず笑って、携帯していたドライフルーツを放り投げればそれには見向きもせず、ならばと、夜食用の肉を割いて与えてみれば嬉々として嘴をつけた。肉食だったらしい。



 そしてその後も鳥のストーキング行為は続いている。本当に変な鳥だ。

 ただ普通の鳥ではないことは徐々にだか理解した。まず移動の際、転移魔法を使う場合があるにも関わらず、転移先にちゃんと付いて来ている。

 たまたま同じ種の違う個体がいるのかと初めの頃は思ったが、観察眼は他より多少はあると自負するその目で見た限り、同一の鳥だという結論に至った。

 つまりは、同じく転移が出来るか、探査、もしくは追跡能力があり尚且つもの凄く速く飛行出来るかだ。その時点で既に普通の鳥でない。


 それともうひとつ。

 共にいる時に、魔獣や魔物に襲われることがある。だけどこの鳥…らしきやつは全く動じることもない上に、何ならこちらの加勢にまで入る。羽ばたきから、開けた嘴から、燃え盛る炎を放って。

 要するに、魔獣――なのだろう。割りと強めの。

 弱い魔獣や魔物が姿を見せなくなったのはきっとこいつのお陰だ。



「お前、名前は? 高位の魔獣なら喋れるやつもいるって聞くけど、喋らないか?」



 相変わらずこちらを見て首を傾げるだけで、鳴き声ひとつ上げない。



「うーん、見たことない魔獣だけど見た目は普通に鳥だしな。 …まあ、気が向いたら調べるか」



 独りごちてる間も鳥はじっと聞いているように見えた。だからもう一度声をかける。



「おいお前、何者かわかったらちゃんと名前で呼んでやるからな。 今は取りあえずそのままだが鳥って呼ぶぞ。それと、俺の名前はルークって言うんだ」


 

 なんて挨拶をしてみる。だけど鳥は目を瞬いて首を反対側に傾けただけ。



「……ふっ、何やってるんだろうな、魔獣相手に」



 自嘲の声が零れた。城を追い出されてから三年、とうとう一人になり会話というものに飢えていたのかもしれない。

 かといって積極的に人と関わり合いたいとは思わないが。


 丁度いい聞き手役が出来たと思えばいい。飽きたら勝手に何処かに行くだろうけど、それまでの、束の間の相棒が出来たわけだ。






 束の間――と、そう思っていたのだけど。


 半年経った今も鳥は自分の側にいる。そしてその距離感はさらに近づき、時折人の肩を陣取るようにもなった。お陰で左側の肩当てだけが爪で傷だらけだ。



「お前…、最近食べ過ぎじゃないか?」

「!!」



 当然のように左肩に止まる鳥にそう話せば、やはり言葉はわかるようで憤慨したように嘴で小突かれる。



「ごめんごめん、痛いって。 だけど明らかに肩の負荷が増えてると思うぞ」



 追加の言葉に今度はガーンという顔をする。意外と表情が豊かだ。

 怒ったのか拗ねたのか、はたまた重さに気を遣ったのか。鳥はサッと飛び上がると近くの木の枝へと移った。

 そこから恨みがましい視線が降りてきて「ははっ」と笑ってしまう。国を出てから笑うことなどほとんどなかった生活に、訪れた安らかとも感じれる平穏。戦闘に明け暮れる日々は変わらないが、心が癒やされるように感じる。

 魔獣と人は相容れないものであるのに。


 勇者という立場上あまり宜しくない馴れ合いではある。だけど、この鳥がそこら辺の内情を理解してるのかまではわからないが、自分以外の人前ではすっかりと姿を隠す。

 最悪バレたとしても使役してるのだと答えればいいし、指摘されて、魔獣だと気づかれないのであればペットだと言えばいい。

 そんなふうに考えていたら木からまた肩に戻った鳥に再び小突かれた。






 爪被害で肩当てを二度ほど入れ替えた頃。通りがかりの神殿が、魔物の襲撃を受けているところに出くわした。 

 重さを気にしてのダイエット目的か、ここ最近は戦闘になると俄然やる気を見せる(相棒)と共に、襲撃はあっさりと退けることが出来た。そう、それ自体は大して難しいことではなかったのだけど。



 「……………は…? 聖獣…?」



 助けた神殿の神官たちが相棒を見て一斉に平伏し、おまけに涙を流すわと、何事だと怪訝に尋ねた結果――、相棒は不死鳥ルリアーシアという聖獣なのだと言われた。

 そしてここは天の神(興味がなかったので名前は覚えていない)を祀る神殿で、不死鳥はその神の使いだと言う。



「神の使い、聖獣、不死鳥…、……ルリアーシア?」



 驚きを以って肩に止まる相棒に視線をやれば何となくドヤ顔をしている。



「えーっと…、魔獣じゃなかったのか、お前…」

『違うし!』

「え?」

『私だよ、私。今喋ってるのは』

「……は?」

『うーん、やっと話せるようになった!』

「え……?」


 

 ふいに聞こえた声は少女らしく明るく澄んだもの。

 空耳かと思ったけれど、あまりにもタイミングよく返事が返るし、話せるようになったと告げたところでバサリと羽を広げられた。

 えーっと…?

 

 困惑のままに肩に止まる相棒を見ていれば、「あのー…」と声がかかる。視線を戻すと自分と似たりよったりの表情の神官たち。



「何事か、ありましたでしょうか…?」

「あ、いや、こいつ…じゃなくて、聖獣が急に喋るから」

「ええっ!? 聖獣様の声が聞けるのですか!?」



 なんと! まさか!

 大量の驚きの声が上がり眉を寄せる。



『ルーク以外は聞こえてないよ』

「え?」

『私の声』

「そうなのか?」

『うん、必要ないしね』


 

 感じた疑問にツンと済ました顔で答えた相棒、…もとい聖獣ルリアーシアは続いて急かすように言う。



『それよりさっさとここから離れよう。ここは神様の気配が強過ぎる』

「神様ったって、お前はその使いなんだろ?」

『…あー…、今はちょっとね…』 



 元々、鳥にしては豊かだった表情が言葉を伴ってさらに多様化した。

 どういった了見か、苦い表情で曖昧に言葉を濁した聖獣は、チラリと、歓喜と畏怖にざわめく人々を見て小さな息を吐く。



『ルークは人とあまり関わりたくないんでしょ?』

「ああ、まあ…」



 こちらも負けずに苦い表情で頷く。



『だったらやっぱし早く行こう。 このままじゃあ神様の代弁者にされるよ』

「――! ……それは、ちょっと…」

『でしょ? だから()()()()だよ!』


 

 それはたぶん意味が違うと思いながらも、彼らには悪いが直ぐに転移魔法でその場から逃げ出した。

 そして適当に飛んだのでよくわからない平原に出た。

 


 

「喋れるなら何でもっと早く言わなかった?」



 取りあえず手近な森へと移動し野営の準備をしながら木の枝に止まる聖獣に言う。



『名前』

「は?」

『私の名前』

「……ルリアーシア…?」

『うん』

「………いや、だから何?」



 思わず突っ込むと、聖獣――、ルリアーシアはフワリと降りて来て定位置である左肩に止まる。



『だからさ、名前がキーワードだったの。呼ばれないと繋がらないし本来の力も出せない』

「それなら教えてくれたら良かったじゃないか」

『……喋れないのに?』

「あ……」

『……私ってもう少し有名だと思ってたよ…』

「いや――、ほら、俺の国は違う神を信仰してたから。………悪かったって」



 しゅんと肩(羽)を落とすルリアーシアにお詫びと夕食の干し肉を進呈すれば機嫌は直ぐに回復した。現金な聖獣だ。

 


「話せるなら聞くんだけど…、そもそも何で俺に付いて来たんだ?」

『んー…、キラキラ綺麗だったから?』

「キラキラ…」

『そう、前はもっともっと沢山そんなものがあったのに段々と無くなっていったでしょ?』

「…えっーと、それは?」



 ちょっと意味がわからない。

 眉を寄せる自分に、何でわからないかなと呆れた顔をするがわかるわけない。

 ルリアーシアは器用に羽を曲げて腰(?)に当てて言う。

 


『地上だよ、この地上のこと! 神様はあまり地上のことを良く思ってなかったから興味がないふうにしてたけど、私、空から下を眺めてるの好きだったんだよね。 でもいつからか何か嫌な感じになり出して…』



 その言葉に「ああ…」と頷く。たぶんそれはこの世界に危機が訪れたからだ。



『それでしばらく眺めるのを止めてたんだけど、久しぶりに見下ろしてみたらキラキラしてるルークがいたの。だから嬉しくなって近くで見ようと勢いで降りて来たっ』

「勢いって…」



 要するに神様の許可なく勝手してるということだろう。それでさっき神様について曖昧に誤摩化したのか。

 それにしたってキラキラの意味がよくわからない。思いつくとすれはこの金髪か。だけどまあ悪い意味ではなさそうなので良しとしよう。

 


「で、戻らないくていいのか?」



 神様という存在が実際どんなものかはわからないが、自分の使いが出奔したままというのは流石にまずいのでは? と思い言ってみる。



『でも…、戻ったら絶対二度と地上眺められなくなると思うんだよね』



 と、ルリアーシアは苦い声で返した。神様は意外と独占欲が強いらしい。

 それにさ、とルリアーシアは続ける。



『喋れなくてもずっと話しは聞いてたんだよね。 それで、ルークは地上を前みたいに戻そうとしてるんだよね?』

「あー…まあ、意味的にはそうだな」



 魔王を倒せば世界は元に戻る。それはルリアーシアが言うとこの、地上でも間違いはない。



『うん、ならそこまではずっと一緒にいようかな。 私の好きなキラキラ綺麗なもので満たされた地上を見届けるまで、特等席で見守るのもいいかなって』

「…特等席…」

『そう、特等席 』

「…重いし、割りと邪魔――、」

『言うほど重くないし!邪魔とか言わない! だって! ここなら絶対に見逃さないでしょ、終わりと始まりを』



 特等席であるらしい、肩からこちらを覗き込むようにルリアーシアが言う。



「終わりと始まり、…ね」

『うん、そう』

「俺の側がその特等席になるって?」

『そうだよ』

「………」



 あっさりと言われて、本当にそうであればいいと思ってしまった。



「………それまでに、何回肩当てを新調しなきゃならないんだろうな」

『はっ! そんなの些細なことだよ。私がいるってことの方がずっとずっと重要だからね。 なんてったって()()だから!』



 誤魔化すように口にした軽口に、根拠になってそうでなってないことを高らかに返すルリアーシア。呆れながらも「ふはっ」と笑いの息が零れた。



『…そこ笑うとこじゃないから』

「ああ、ごめんごめん」



 ジトリと睨むルリアーシアの向こうに見える、いつもなら灰黒色の夜空は雲が切れ、僅かだが星が見えた。

 久しぶりに眺めた星空。これも、「聖獣だから」ということだろうか。


 そうであるかもしれないし、そうでないかもしれない。けど本来の力を取り戻したらしい聖獣から感じれる力は、そんなことも可能なのではと思わせるほど澱みなく清々しい。



「ああ、よろしく頼むよ、相棒。…いや、ルリアーシア」


  

 自分の返事に気を良くしたのかルリアーシアの体が淡く光る。焚き火よりも柔らかい明りは暗闇を灯火のように優しく照らし、それはとても心地よく。

 何にせよ今日はよく眠れそうだ。

 




□□□



挿絵(By みてみん)



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