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ポンコツ召喚士と怪しい男(3)


「ドーリー、一度確認したいんだけど、いいかな?」

「――あっハイ、どうぞどうぞ!」



 待ってる間の手なぐさめを放り出し、いそいそと顔を上げればルークさんが不思議そうに私の手元を眺める。



「…それは、魔法陣?」

「えっ、あ、そうです。その草案的な?」



 暇つぶしに魔法陣の落書きをしていたのだが。



「それ、使ってるのは聖エノ厶語とメルーカト図法第三式だよね?」

「はい、よく知ってますね! ちょっとアレンジしてますけど。 え、もしかしてルークさんも召喚士なんですか?」

「いや、俺は違うよ。 でもそうか…」

「……?」



 それについてルークさんがそれ以上の話題を振ることはなく、取りあえずは居間へと移動した。




「お茶でもいれますか?」

「あ、いや大丈夫だ。それより君も座ってもらえるかな? まずは話しをしよう」

「……はい」



 何だか少し改まった様子でルークさんが着席を求め、内心ひやりとする。やはり勝手に召喚されたことを怒っているのだろうか?

 ならば、ここは先手必勝! もう一度しっかり謝っておこう!



「あのっ! ホントにすみませんでした!」

「え?」

「それでですね! あの、ルークさんはどちらにお住まいですか? 近くなら馬車を手配しますし、もし遠くなら…、うーん、私では転移魔法が使えないんですけど……。――あっ、そういえば強制転移のスクロールならあります! でも、強制ってどうなんだろ?」

「あー…、や、ちょっと待って待って」



 落ち着けというようにルークさんが手のひらを見せ、その指の隙間から見える整った顔は、怒っている様子はなく若干下がり眉だ。



「俺、転移魔法使えるから大丈夫だよ」

「はあ………て、ええっ!? じゃあ、ルークさんは魔法使いなんですか!?」

「うーん、それも少し違うかな…。 あ、いやそんな話しでなくて。 ……なぁ、ドーリー、今って何年だろうか?」

「え……?」



 いや転移魔法が使えるって、()()()()()で済ませないんだけど?

 でもって、それより何でそんなことを?



「…えっと、オルトア公国歴三六六年、神聖ローダニア共通歴で言えば一二九五年ですね」

「………なるほど。 と言うことはここはオルトア公国ってことだよね?」

「そうです。北にデルルーニア、南にナムンで、西にはアルジャナ。東は大ニトア洋に面してますね」

「そう…」



 頷いたルークさんは先ほどと同じように難しい顔で考えるように黙り込んだ。でも程なくして顔を上げ、



「ドーリー、君はウェグルト帝国って知ってるかい?」



 と、尋ねる。



「ウェグルト…、ですか?」

「知ってる?」

「そりゃー知ってますよ、いくら勉強嫌いでも。オルトアだって二百年戦争前まではウェグルト帝国だったんですから」

()()()?」

「え、そんなこと聞きます? デルルーニアもナムンもアルジャナもこの周辺全部が、元はウェグルト国じゃないですか。 凄い大帝国ですよね、滅んじゃったけど」

()()()? いや――、ウェグルトは…、滅んだ…?」

「だからこその二百年戦争ですよね? ――え、本気で言ってます?」


 

 ウェグルト帝国とは、神聖ローダニア歴初期の頃から続く、世界を統一出来うる程の力を持つ大帝国――だった。


 そう、その寸前で滅んだ、今は無き国。


 理由はたくさんあったみたいだけど、滅んだものは滅んだのだからそれは今更な話しで、その後に起こったのが領地戦争。二百年もの間争いが起こり、このままでは人は滅びてしまうと偉い人達が話し合った末に出来たのが今の国々だ。

 国によって話しの内容は変わるだろうけれど大体は一緒。 ウェグルト帝国の滅亡からの流れは「戦争ダメ、絶対!」の教訓として、小さな子供にも語られるもの。それを知らないなんて……。



( ええっ、ルークさんてば実にはバ◯なの!? 私でも知ってる史実だよ!? )


 

 残念なものを見る視線になっていたのだろう。ルークさんがコホンと咳払いをした。



「…もうひとつ確認したいんだけど」

「…はあ」



 さっきのも確認だったのか。でも暦やなくなった国が確認って…。

 残念な眼差しのままの私に、ルークさんはもう一度軽く咳払いをしてから言う。



「ンン…っ君が、期限として魔法陣に込めたのは師匠?って人が帰ってくるまでで間違いない?」



 今度はまともそうな内容だが。



「はい、そうです。 だから今日をいれると六日間ですね」

「じゃあ順当に行けば六日後には元に戻れるというわけか…」

「――えっ!?」

「………、『え』?」



 驚きは疑問で返され、また困惑が生まれる。



「…えーっと、ルークさんは期限までここにいるつもりですか?」

「そうなるね」

「え、何で!? あっ、いえ、別に追い出そうと思って言ってるわけじゃないですよ! でも転移魔法使えるんですよね?」

「…ああ、使えるね。何なら攻撃魔法も治癒魔法も補助魔法も使える」

「えええっ!? そんなの師匠と……っ、じゃなくて!」



 今さらりと凄いことを言われたけど、取りあえずはスルーだ。



「それならっ、転移魔法で戻った方が手っ取り早いじゃないですか」



 私史上稀に見る正論なのに、ルークさんは困ったとばかりに眉を下げた。何故に?



「そうしたいのは山々なんだけどね、どうもそう上手くはいかないみたいだ」

「何で?」



 思わずストレートに尋ねてしまったが仕方ないと思う。だって転移魔法は一度行ったところなら軌跡が残りどこからでも何度でもいけるものだ。しかも今さっきまでいたとこなら問題ないはずで。

 じゃあ上手くいかないとはどういう意味か?



( …魔力があるだなんて、全部嘘か… )



 答えとしてはそれが一番妥当な気がする。さっきの攻撃魔法や治癒魔法の件も真っ赤な噓だろう。


 なるほど…、さてはこいつ詐欺師だな?

 この顔の良さなら騙される人も多かろう。

 でも私は顔の良さには耐性がある。師匠という耐性が! 性格がアレでも!


 さて、じゃあどうしようか?

 ここはガツンと言うべきか、騙された振りをするべきか。

 目の前の相手を半目で見る。優男と言える風体だが体付きは意外にがっしりしていて、腰には明らかに使い込まれた剣を携えている。うん、力では無理だ。運動音痴だし。

 何が目的かはわからないけど、やはり騙されたままを装って、後でこっそり街の自警団に知らせよう。


 そう結論づけたところで、先ほどの答えが返る。



「俺がいたウェグルト帝国が、今はないのならどうしようもない」




「……………………は………?」



 今なんて? 



「滅亡したんだろ?」


「いやいやいや……」


「ん?」


「いやっ、さすがに無理過ぎない!? そこでそれを出す!? ――うん、確かに伏線は回収したね、したけども! 真実味一切ないよね!? え、それでいいの? 騙されずらいって! もう少しこう……って、何言ってんだ私!!」



 そう、何言っちゃてんだよ私。突拍子もない設定に思わずツッコんじゃったよ。

 ハァーと大きくため息を吐く。



「…もういいですよ、目的はなんです…?」

「目的?」

「お金ですか? ここに置いてるのはあんまりないですよ、師匠が管理してるから」

「お金? いや、目的と言われても、呼んだのは君だよね?」

「………」



 …そうだった。



「それはそうですけど! じゃあ強制転移スクロールで、」

「うん、だから転移魔法は使えるけど、国がないから無理だって言ったよね?」

「え、まだそれ言うんですか?」

「……見事に信じてないね」

「そりゃそーでしょう!」



 即答すれば深いため息が返った。そして。



「………神聖ローダニア歴三五九年、世界を未曾有の危機が襲う」

「――え? 何です、急に…」



 急な話しの展開に不審を零せば、



「いいからしばらく黙って聞いていてもらえる?」

「あ…っ、はい…」



 師匠ばりの圧の強い笑顔で返されて頷いてしまった。これだから顔のいいやつらは…。


 不満顔ではあるがこちらが聞く体勢に入ったのがわかったのか、詐欺師(決定)な男は少しだけ笑み()を緩めて話しを続けた。

 


「…太陽は、長期に渡り分厚い雲に隠れるかまたは延々と沈まぬ灼熱を与え、異常気象に大地は乾き水は濁り人は憂いた。

 それは五年も続き、疲れ果てていた人々に更に追い打ちを掛けるかのように、過酷な環境に直ぐに順応し急激に数を増やした魔獣たちが人への攻撃を激化しだした。 ……それでも、逆境の中で人は頑張った。完全に元には戻らない疲弊した世界で魔獣と戦いながら諦めずに頑張った。

 だけどそれも魔獣の中から魔物が生まれ、更にその中から魔王と呼ばれる者が生まれるまでで――…」



 話しは続いているが、その続きは知っている。いや、大概の人は誰でも知っているだろう。

 子どもの頃に誰もがワクワクと目を輝かせ読んだ冒険譚。 


 『光の勇者と不死鳥の聖女』

 

 魔王によって蹂躙された世界を救う為に、当時出来たばかりの新興国であったウェグルト帝国の若き王子が立ち上がり、長い旅と苦難の末に仲間と世界を救った――、そんな話し。

 昔、街でやっていた劇を見てドツボにはまり、師匠に懇願して本を買ってもらい何度も読んだ。



「……何で急に『光の勇者と不死鳥の聖女』なんだか……」



 大好きな本だけに、ボソッと漏らしてしまった声の向こう側で、パチリと目が瞬いた。



「光の…勇者……、不死鳥の、え、聖女?」

「――の、話しですよね?」

「………、……知ってる?」

「もちろん知ってますよ! 何度も読みましたもん。たくさんの英雄たちが出てくる、実話を元にした爽快冒険譚でしょ。 …えっと、ウェグルトの第二王子勇者ルークが主人公で、不死鳥を従える聖女ルリア、エルフの弓使い“至高の森(ドルトメントハイズ)”に、ドワーフの戦士ロウ·ロウでしょ。それから放浪の賢者、」

「あー…、ちょっと待って」

「まだたくさんいますよ?」

「うん、でも待って。 もう一度聞いていい?

光……、の勇者は?」

「ルーク」

「俺の名前は?」

「ルーク·フィンレー。 ……何ですか? ご両親も勇者のファンだったんですか?」

「そう来るか…。 じゃなくて、それ俺だから」

「は…?」



「俺の名前、ルーク·デル·フィンレー、ラストネームはウェグルト。ウェグルト帝国の第二王子だよ」



「……………………は………?」




 今……、…なんて…? (二回目)




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