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師匠と弟子、そして(1)

中々進まないので取りあえず出来てるとこからアップしていきます。


 あれから一週間ほど経ったが、ルークさんがいなくなっただけで私の日常は大して何も変わりはしない。

 だって私が何を考え何をしようとも、毎日は勝手に過ぎてゆく。



 師匠との二人生活に戻り、日々に消耗される日用品のあれこれを買いに街へ行った帰り、素朴な小花を咲かせる草が群生しているのを見つけた。



( ――あっ、あれって… )



「 ね! ルークさんっ、あれってヒメ―――…」



 言葉を放った先、ぽっかりと空いた傍らに、私の声は中途半端に飲み込まれて消える。


 そうだ、彼はもうここにはいない。



 変らないはずの日常にちゃっかりと食い込んで度々顔を出す存在感に、私は顔をしかめ深いため息をひとつ。



「……あー…っと、ヒメグルマ草だよね、そうそう」



 せっかくなので、採取しようと使えそうな木の棒を拾い、ルークさんがやっていたようにそれでもって根から掘り起こす。

 だけど三株ほど起こしたところでピタリと手を止めた。

 持って帰ってどうするんだ? ――と。

 道具はあるが私はこの草を薬にする知識などないし、師匠なら出来るだろうがそれもまたどうなのかと。


 暫く迷った後、結局は埋め戻した。



( ……何やってんだか、もう… )



 ぽいと棒を放り投げ、座り込む。そして後ろ手につき背を反らし見上げた空は澄んでいて青い。

 師匠が言うには夜半からは雨が降るらしいが、そんなことを感じさせないほどいい天気だ。とても目に染みる。



「……ホント、何やってんだろ」



 今度は声に出し呟いたそれは、そんな青い空に溶けた。

 ()()()()、ほぼ連日続くいつもの夢は少しだけ内容を変えた。

 根本的なとこは変らないが私の視点は空にあり、そこから想い嘆くのだ、()()()()を探して。


 …そう、()()

 いままでのように誰か、でなく、相手。定まった人物像。誰かなんて言わずもがなだ。



 いつまでルークさんの面影を引きずってしまうんだろうか。

 ただ…、普通に好意を持っただけの相手だ。別に家族でも恋人でもないし、愛を語らいあったわけでもない。

 どんだけチョロいんだ私の情緒。そりゃあため息も出る。


 「はあぁー」と零したため息の先の高い空を鳥が横切る。餌でも探しているのか頭上をくるり旋回し、こちらを見下ろしているようにも見える。

 言うならば私の夢の視点はあんな感じか。

 でも何で急に鳥目線 (たぶん)に変わったんだろう? 

 確かに私の名前の原点は鳥型の魔獣ドードーだけど、だからといって流石に関係ないだろうし、そもそもドードーは鳥型だけど飛べやしない。


 そんなことを考えながら大きく旋回する鳥影をぼーっと眺めていたら、その視界の中に丸い何かが急に入り込んだ。



「――ふおわっ!?」

「ぴゅぃっ!」



 私の驚く声に合わせて声を上げた丸いもの。勢いよく起き上がった私を避けるようにピャッと横に飛んだそれは、ふわふわと赤く、よく見れば埋もれるような黒い小さな目とこれまた小さな嘴が付いている。

 それは座った私と同じくらいのサイズの、真っ赤な綿毛にしかみえない魔獣ドードーの幼鳥。



「え…、いや……、えっ? 子…ドードー…?」

「ぴっぴぃ!」



 バクバクする心臓を押えてそう声を出せば、言葉が理解出来ているのか、短い羽をそうだとばかりにサッと上げる。



「や、そんなに元気に返事されても…、てか子ドードーが何でこんなとこに? あんたの生息域はもっと森の奥でしょうが」

「………、ぴぃぴ?」

「迷子…? え、ダメじゃん! 親ドードーは!?」

「ぴいぃー」



 知らないって…!

 こんな人里まで親ドードーが探しにきたら迷惑極まりないんだけど!? ――の前に、私なんでナチュラルに会話してんの!?

 明らかに会話が成立してると思われる。



「え…、どういうこと…? 私ってやっぱりドードーなの…?」



 そんなわけないと思いつつもそんな言葉が口をつく。子ドードーは短い羽を伸ばし私の肩にポンと置いた。



「ん、ぴっ」

「『よ、兄弟』じゃないから!」

「ぴょぁ?」

「首傾げない! 全然似てないでしょーが! それと、そもそも首なくない? 」

「ぴぃ!」

「事実じゃん!」


「――へえ…、随分と、楽しそうだなお前ら?」



 ガシリと、唐突に頭が掴まれた。

 私と子ドードー共々に。

 ギリギリと掴むその手が誰かなんて、既に声でわかっている。



「…い…、やだなぁ…、師匠、楽しそうだなんて…。それに割かし痛いんですけど…?」

「び…ぴぴっぴ…?」

「何言ってるかわかんねぇ。おいドーリー、お前の兄弟は何て?」

「兄弟じゃないですし!」

「違いがわからん」

「そんな馬鹿な!」



 ブンブンと首を振って魔王の爪(アイアンクロー)から逃げ出せば、もう反対側の手は子ドードーのもふもふ頭をワシワシと撫でている。え、何その仕打ちの差? その上にうずうずとした師匠の顔。

 ………言っときますけど、(ウチ)では飼えませんからね。


 そんな師匠の手がふいに止まり、チラッと顔を上げた後短く舌打ちをする。



「…チッ、時間切れか…」

「――ん?」



 時間切れとは?

 師匠が顔を向けた方へと視線をやれば、森の際には赤い巨体。



「――!! まさか…、親ドードー!?」

「ぴっぴーぃ!!」

「あ、やっぱりあんたの親か! えっ、でもヤバくない、この状況?」



 現在子ドードーは師匠に捕獲されてるとも言える状態だ。実際頭を掴まれてるしね。 魔獣がどうかはわからないが、野生動物で言えば親は子を助けようと向かってくるだろう。



「ちょっ、師匠、早く…っ、早く放してあげて!」

「はっ、ドードー如きどうとでもなる」

「いや、どうとでもって…、言っときますけど子どもの目の前での暴力はアウトですから! 」



 師匠が微妙な顔を向けるが、それは絶対ダメなやつだから!

 さらに子ドードーの開放をせっつけば師匠はもの凄く残念そうな顔で手を離した。

 走るというより転がるがぴったりな動きで母親の元へと駆け寄った赤い綿毛を親ドードーが自らの大きな羽の下へと隠す。そして子どもの点目とは違い猛禽類の目がこちらを見た。



「うわぁー…怒ってる…? 子ドードー返したけどやっぱりダメかぁ。 ね、師匠ー、どーします?」



 暴力での解決はなしとして、逃げるか、謝るか。子ドードーとも意思の疎通が出来たのだし、親ドードーともワンチャンいけるか。

 だけど親ドードーはこちらを見つめたままで微動だにせず――というか、()()()()でなく()()見てないか? え、ピンポイント?

 


( ちょっ、何!? 弱い方からやっちまおうってこと!? )



「…まあ、そうなるのか…」



 ひえぇー、と慄く私の横で師匠がポツリと呟く。

 だけどこのタイミングでそれは、とっても聞き捨てならない言葉だ。



「今、そうなるって言った!?」

「は?」

「やっぱり私だけ集中攻撃決定!?」

「いや…何言ってんだ? ちょっと落ち着け」

「落ち着けるか!」



 尚も師匠に詰め寄ろうとしたら「ぴっぴー」と子ドードーの声がする。それは、「じゃあねー」という別れの挨拶で。

 ――え?と思い振り返れば、短い羽をパタパタと振る子どもを促し親ドードーは既に背を向けていて、もう一度だけチラリと私を見ると、まるで挨拶でもするかのように軽く頭を下げて去っていった。



「………え? ……帰った…?」

「そりゃあ、なかなか帰って来ないお前と違って用が済んだらさっさと帰るだろ、普通」



 何だか軽くディスられた気がするがそれはスルーだ。



「挨拶…されましたよね…? …えっ、魔獣に?」

「あー…」

「あ、そっか、師匠が元魔王だからですかー」

「…や、あれはお前にだな」

「何で?」



 怪訝に尋ねる私に師匠は何とも言えない顔をする。あの、色んなものを混ぜ込んだ結果の顔だ。

 これは有耶無耶にされるパターンかと思ったけど、師匠は腰に手を当て深く息を吐き、「まあ、もう勇者もいないからいいか」と、独り言のように呟く。


 勇者――の部分で反応しそうになった体を誤魔化し、何気ないふうで更に尋ねた。



「…ルークさんが、関係あるんですか?」

「あると言えばあるし、ないと言えばない」

「――え、どっち?」


 

 何だそれ、全く煮えきらない。

 師匠は私を見下ろし言う。

 


「まあでもなんだ、取りあえず戻るぞ。 こんなとこで話すのもあれだしな」

「話すって…、…何をですか?」

 


 ドードーのことか、ルークさんのことか。

 それともはぐらかされていた全部か。

 胡乱な目を向ける私に、師匠は腰に置いていた手を外し今度は胸の前で組むと、フフンと笑った。



「何でも聞いていいぞ、答えてやる」





 

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