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ポンコツ召喚士と怪しい男(2)


「えー、ちょっと待って待って、どーゆーこと? 人…だよね? ――え、まさか死んでる!? あ、いや息してるわ…って、まつ毛ながっ!? ちょっ、師匠級に美形じゃん! やっぱ精霊さんとか!? いやいやいや、うっすら髭跡見えるし違うよね? うーん、髭生えた精霊とかないわー」



 盛大な独り言がうるさかったのだろう、召喚しちゃったかもしれない(仮定)男性が一瞬ピクリと身動きした。



「!!?」



 瞬時にズササーッと距離を取り柱の影に入り身をひそめる。

 しばらくそのまま眺めていたが起きたわけではないらしい。ほっと息を吐く。



( ……いやいや、ほっとしてる場合じゃないって! )



 うん、脱線した思考を戻そう。ついでに声に出すのも厳禁だ。

 だからここから先は心の声でどうぞ。

 

 ――では。



( えええぇー、人間召喚しちゃったってこと!? でも、そもそも人って召喚出来るの!? だって意味なくない? 人なんてなんにも出来ないじゃん! 召喚するまでもないよね!? 自分でやればいいわけだし。ただのお手伝いなら普通に頼みに行くって! )



 どうしても脱線気味になる心の独り言に、「いやまてよ」と物申すのも私。



( もしかして…、やっぱり人じゃないとか? )



 精霊、神霊、幻獣にはどうしたって見えない。が、魔獣の中には魔物って呼ばれる人型のものがいるらしい。しかももう少し前の時代には魔人や魔王と呼ばれる者もいたと言う。



( ……ふむ、あり得ないこともない? うん、それなら召喚しちゃってもおかしくないよね? )


「――…なぁ、」


( いやでも待て、早計は良くない! それで何度師匠に怒られたか! )


「…なぁ、君」


( 他のパターンも吟味して )


「…おーい」


( 吟味して……… )


「おーい?」


( 吟………… )


「おーい、聞こえてる?」



「―――ああっもうっ!! 何っ!? うるさいなぁさっきから! 人が一生懸命考えてる時に邪魔しなっ…、…………………え?」

「ああ、やっとこっち見たな」

「………は………?」

「ちょっと教えてもらってもいいかな?」



 なるほどー、閉じてたからわかんなかったけど、瞳の色は見事な蒼玉(サファイア)かぁ。いやー、輝く金の髪にサファイアの瞳とか、どこの王子様やねーん。

 と、心の中でツッコむ(半分逃避)が、きっと今はそんな時でない。



「は………、えぇ……、えぇぇェェェー!!?!!」



 一瞬で思考を戻し、後退ろうとしたがそういえば既にしていた。つまり逃げ場なし。

 そろりと顔を上げる。王子様(仮定)顔が若干困惑気味にこちらを見下ろしている。

 その顔は、確かにさっきまで魔法陣に横たわっていたそのご尊顔だ。



「――あ、ああああの、え…えぇっと…っ!」



( どうしよう!どうしよう!どうすればいい!? カモン師匠! 助けてヘルプ・ミー!! )



 こういう時だけ助けを求めんな!って絶対言われる案件! しかも自業自得が追加!!

 いやいやいや、でも待って! 結局、私が喚んじゃったんだよね? そうだよね? …たぶん。

 ドラゴンさんの時は手違い感が否めなかった上に言葉も理解出来なかったけど。

 今、この人ちゃんと喋ってたよね?



「あ…………あ、あのぉ…」

「ん、何?」

「――くっ!!」



 挙動不審だろう私を怖がらせないようにか、柔らかく微笑むご尊顔が眩しい。うぅ、目がっ!

 だがしかしやっぱり言葉は通じるようだ。

 なるべく目を合わせないようにしながらまずは尋ねる。



「あのー…、人間、ですよね…?」

「は…?」



 まさかの第一声がそう来るとは思わなかったのか、王子(仮)は明らかに面食らった様子で。



「ああっ、いえ、すみません。別にそんな深い意味があるわけではなくてですね、あー…、その、ちょっと聞きたかったというか…、ホントに人間なのかなぁーって…?」



 いや絶対不自然やん。なんて残念な私のコミュニケーション能力。でもそこはハッキリさせとかねばならない。

 パチパチと数回目を瞬かせた後、王子(仮)はふっと表情を崩した。くっ、格好いい…っ!



「ハハ、いや別にいいんだけど。さすがに面と向かってそんなことを尋ねられたことはなかったからね、少し驚いた。 で、答えなんだけど、両親共に人間だから必然的に俺も人間だろうね」

「あー…、ですよね…」



 ということはやっぱり私は人間を召喚したってことだ。ホントどういうこと? もう完全にお手上げだ。



「何だか複雑な表情してるね?」

「――え?」



 そうだった、まだ会話は続いてた。

 見上げた先には苦笑を浮かべる麗しい顔。どんな表情でも似合うってずるい。



「納得いってないように見えるけど、俺って怪しい?」

「あ…っ、や、そんなことないですよ!」

「ああ、そういえば名乗ってもなかったよね。 俺はルーク、ルーク·フィンレー。君は?」

「あ、私はドーリーです! ただのドーリー。名付け親は師匠なんですけど、名前元ネタは魔獣ドードーです!」

「――んん?」



 私の渾身自虐ネタに、王子(仮)もとい、フィンレーさんが固まった。ついでに中途半端な笑顔で私も固まった。……何言っちゃてるの、じぶん。

 ピシリと固まっていれば、コホンと一つ咳払いをして「あー、ちょっと聞いていいかな?」とフィンレーさん。

 あえて触れない優しさ。対応が大人過ぎて泣ける。だけど。



「あの魔法陣なんだけど」



 振った先は優しくなかった。


 さっきまで自分が寝転んでいた床に広がる、淡く光る魔法陣を指差しフィンレーさんは言う。



「えーっと、あれ、召喚魔法陣だよね?」

「あー、ですね…」

「君が?」

「うえっ!? えっ、な、なんで!?」

「だって今君しかいないようだし、その格好は…」

「格好…」



 言われて自分の姿を見下ろす。いつも着ているだぼっとしたフード付きのローブ。魔法使いが着てそうなザ定番なローブだ。

 実際、師匠のを丈を切り詰めた物で、楽だからとこればかり着ていた。だってめんどくさいじゃない。

 うん、これはオシャレに目覚めれなかった自分が悪い。

「それに――」とフィンレーさんが続ける。



「あの魔法陣から感じる魔力と、君の魔力が同じだからね」



 間違えようがない。と、クスリと笑う。その言葉に、私は大きく目を見開いた。



「――えっ!?」

「ん?」

「魔力って、フィンレーさんわかるの!?」

「いやわかるでしょ、そんなの。 それよりフィンレーさんって…、ルークでいいよ」

「えっ、いや、じゃあ、ルークさんも魔力があるってこと!?」

「そりゃ、まあ…。 多かれ少かれ誰しも魔力は持ってるでしょ」

「えっ!?」

「え?」



 私の驚きにつられてフィンレーさ…、もといルークさんも蒼い目を開く。



「だ、誰しも?」

「むしろ持っていない人の方が少ないじゃないか?」

「ええ!?」

「……え?」



 どういうことだろうか?

 私は他の人の魔力なんて感じれないのでよくわからないけれど、みんな魔力を持ってるってこと?

 でも一般的に普通魔力を持ってないのが常識で、師匠も魔力を持ってることは他人には言うなと言っていた。

 じゃあルークさんがカマを掛けた?

 チラリ見したルークさんは私の驚きに対して、さっきから何度も見ている困惑顔。これが演技がどうかなんて私にわかるはずがない。

 

 師匠には「この馬鹿ドーリー!!」と絶対怒られるやつだが、いい加減考えるのがめんどくさくなった。なので全部正直に吐いてしまおう。召喚しちゃいましたすみませんと。

 ルークさん悪そうに見えないし、たぶん。

 そう! 世の中なるようにしかならない!

 



□□□




「――と言うわけで、


 悪気があったわけではないんですよ! ただちょーっと試してみたいっていう好奇心に負けたと言うか…。 あっ、でも別にルークさんを指定して喚んだわけじゃ…――て、聞きてます?」

 


 前回私が延々と披露した回想をかいつまんで話してみれば、最初はあった相槌は段々となくなりルークさんはいつの間にか黙り込んでいる。

 片手で口元を覆い、僅かに眉を寄せて俯く姿は大変格好いいが、何か気になることがあったのだろうか? それか、気に触ることを言ってしまったか?



「あのー…、ルークさん?」



 恐る恐る呼び掛けるが無言だ。ただ表情的には後者ではない気がする。

 どちらかと言えば考えに集中しているような?

 何が引っかかったのか正直全くわからないし、頭脳面についてはハッキリキッパリ自信がない! と断言出来る私は、邪魔しちゃいけないのでしばらく黙っておこう。

 ついでに、この後どうすればいいかを代わりにちゃちゃっと決めてもらいたい。

 丸投げ万歳!!

 駄目人間と呼ばれてもいい!!

 



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