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【閑話】勇者であること

ルークさん回。どシリアスです。短めです。


 王子という肩書には国を背負う使命が含まれる。 第一王子には、王太子という、やがて王に代わって国をおさめるという使命が。そして第二王子には、その王太子を助け共に国を担うという使命が。

 それは当然のことであり別におかしくはない。でも第二王子という肩書にはもう一つ使命がある。



 第一王子の補充用(スペア)あること、有事の際の人身御供(スケープゴート)になること。



 まあ実際はそれも仕方ないことだと思う。国という巨大でとても重たいものを背負うにはそういった役割が必要であることは重々承知だ。

 でもそれは同じ王妃という腹から生まれた兄弟間で通じるものであって、王の寵愛だけを受ける側妃から生まれた自分ではむしろ複雑で危ういものだ。

 だからさしあたり、第二王子である自分の使命は、


 突出してはいけない、いらぬ繋がりを結んではいけない、第一王子よりも優秀であってはならない。


 ――それだけ。




 元々体が余り強くなかった母は程なくして儚い人となり、王の関心は王妃へと戻った。だけどそれでも、自分が側妃から生まれた王子だという事実は変らない。

 

 母がなくなっても、王妃は表立ってこちらを疎外することはなかったが、かといって歩み寄ることもなく。自分は第二王子のまま、グラグラと揺れる細い綱渡りのような日々過ごした。


 それは、王妃が新たな王子を産み落とすまで。




「ルーク·デル·フィンレーよ! お前に『勇者』の称号をあたえる! 世界の危機を平定せよ!」


「承りました。ルーク·デル·フィンレー、世界の為、人々の為、…ウェグルトの為に、この身を賭けて魔王を倒してみせます」



 玉座の前に片膝をつき頭を垂れ用意されていた口上を述べる。その場に集まる人たちには皮肉げに歪められた自分の顔は見えないだろう。

 この茶番劇の発端は世界の危機などでなく、第三王子の誕生で第二王子(自分)というスペアが不要になったからに過ぎないと、ここに集まるどれだけの人が知っているのか。

 そして残った方のスケープゴートこそが、俺に課された本当の役割りだということを。


 折しも王の言ったように世界は未曾有の危機の真っ只中であり、遥か昔に存在したという魔物の王が復活を遂げた。ならばと。


 ぽっと出の新興国から若い王子が魔王を倒す為に立ち上がる――、


 そういったパフォーマンスが当然のごとく出来上がった。

 国としては成功すれば万々歳だし、負けても我が国はこのように貢献したと体裁が保てる。しかも王子だ、また違った意味で悲劇の美談だと言われることだろう。


 そんな一連の流れ全てが、誰の手によるものだったかなど問うまでもない。

 顔を上げ壇上へと視線を向ける。王の横に立つ人へと。

 女とは恐ろしいものだ。母もそうであったが、その化粧を施された美しい顔の下にどんなものを潜ませているのか。

 

 たまたま適性が合った剣の技術。母から受け継いた容貌。そしてなまじ全属性魔法が使えるというのもいけなかった。

 結局のとこ、俺は自分自身が決めたはずの「第二王子としての使命」から逸脱してしまったのだ。



 そして『勇者』という称号を与えられはしたが、所詮はただの人間。そんなに簡単に成果をあげれるはずもなく。共に送り出された部隊は徐々に数を減らし、気づけばただ一人となっていた。

 きっと支援どころではなくなったのだろう。

 魔王が復活してから八年――、それ程経てば世界は危機どころではない。あるのは絶望だ。


 けど俺はむしろ清々とした気分ではあった。

 元々唯一血の繋がりがある王とも、母方の親族ともに預ける情はない。その上歪な立場からは開放されたし、既に『勇者』という存在を気にするものもいない。

 誰もがただ必死で、生き残る為だけに生きている。


 

 幸いその仇となった全属性魔法が使えることで生きていくことに支障はない。魔王を追いながら、壊れた廃屋で眠り、狩りで飢えをしのぎ。街があれば仲間を募り共闘し、一人であれば策を練り敵と戦う。淡々と繰り返す闘争の暮らし。


 時折、ふと思う。

 何故俺は戦っているのかと。


 別にそれを強いる者はいない。俺などきっととっくに死んだと思われている存在だろう。

 戦うことに意義などもはやないのに。





 周りには葬った魔獣たちの骸が転がる。血の匂いと何かわからない体液のすえた匂い。次々と襲いかかってきた魔獣の数は多く、すべて倒し終えたがさすがに疲れた。

 デュランデルを杖に枯れた木に寄り掛かるとズルズルと腰が落ちた。

 死体が散乱する側は匂いに釣られ再び魔獣が湧く。本来なら早く移動しなければならないが、とても疲れていて動く気力もない。

 ――は…、と息を吐いて空を仰ぐ。たとえ濁った空であったとしても死体を見てるよりはいい。


 茶色とグレーが混ざったような空に何かが飛んでいる。鳥型の魔獣だろうか?

 奴らはとても目がよく見つかるとまずい相手だ。だけど何となく目が逸らせずにその飛ぶ姿を追う。

 とても高い位置でくるくると何度か旋回した鳥影は、こちらに気づいたように見えたが結局そのまま飛び去っていった。


 俺はデュランデルを持つ手に力を入れると立ち上がる。



 ――戦う意義?

 

 そんなものなどなくて当たり前だ。


 たぶん俺は見返してやりたいのだ。

 生き残って、自分を顧みなかった奴らに。 

 そこに崇高な使命などない。そう、ただの私怨だ。


 だから、生き残る為に元凶である魔王を倒す。


 急に降って湧いた突飛な考えに笑う。

 とても成功するとは思えない無謀な考えだ。 

 でもそれでいいと思った。

 生きると言いながらも死んでもいいと。



「…どうせもうここには自分が命を掛けても守りたいものはない」



 思考はてんでばらばらでとりとめもなく、矛盾する思いを抱えて一歩踏み出す。

 魔王の元へとたどり着ければ何かが変わる気がした。




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