第3話 親友の裏切り6
◆Side:ガイウス
イーサンは……アイツは調子に乗り過ぎた。
なにが勇者だ。
ふざけるな。
アイツばかりが評価され、賞賛され、栄光を掴んでいる。
面白くない。
俺だってクルセイダーだぞ。
幼馴染とはいえ、この扱いの差はなんだ。
アイツは仲間のことをなんとも思っちゃいない。自分と世界のことばかりだ。
そんなヤツを勇者として認めるわけにはいかない。
俺は、仲間にこっそり相談した。
「みんな、相談がある」
「なんだよ、ガイウス」
プリーストであるマクシミリアンが祈りを邪魔され、怪訝な顔をする。
「すまんな。どうしても話しておきたいことがある」
「話しておきたいこと?」
「そうだ。イーサンのことだ」
「分かった。キャロルも呼んでこよう」
しばらく待つと、賢者のキャロルがやってきた。面倒くさそうな表情で現れ、こちらを睨む。
「なによ、話しって」
「すまないな、キャロル。イーサンのことについて話したい」
俺は、イーサンに不満があること。
幼馴染として信用できなくなったこと。
利用され、捨てられるかもしれないなど話した。
「どうかな。イーサンは、私を窮地から救ってくれたし……その恩があるわ」
キャロルはイーサン寄りか。
想定内ではあった。
だが、出来ればコイツもこっちの味方につけておきたい。
だから俺はウソをつくことにした。
「キャロル。イーサンはお前のことなんて全く考えちゃいないぞ
「え……」
「前に聞いたんだよ、キャロルのことをどう思っているか。ほら、お前、イーサンのことが好きだろ?」
「う、うん……。魔王ハティを倒したら、告白しようかなって思ってた」
「けどな。イーサンには別の女がいるんだよ」
「…………うそ」
「うそじゃない。本当だ。お前を捨てて、その女とハッピーエンドってわけだ!」
「…………そんな」
涙を流し、酷く落ち込むキャロル。よしよし、これでコイツもこっち側だ。
「そういうことだ。この先のダンジョンでイーサンに奇襲をかける。だが、単に襲っても負けるだろう。そこで大ボスであるギガントアイアンゴーレムを使う」
「……分かった。私も協力するよ」
「ありがとう、キャロル」
馬鹿女で助かったよ。
こんな美人をイーサンに渡してなるものか。
どうせなら俺の女にしたい。
「ガイウス、自分はまだ同意していない」
「おいおい、マクシミリアン。俺について来た方が長生きできるぞ?」
「なんのメリットがある」
「俺たち三人が英雄になれる」
「…………ふむ。イーサンに独り占めされるよりはいいか」
「お前は賢いな、マクシミリアン!」
マクシミリアンも賛同してくれた。
これでイーサンを裏切る算段はついた。
――そして、俺はイーサンを背後から襲い、ギガントアイアンゴーレムの生贄に捧げた。
もうヤツは生きちゃいないだろう。
勇者であろうと、重症を負ってあのゴーレムを相手にはできない。
これで英雄は俺たち。
アイツではない。
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◆Side:イーサン
迷宮を抜け、魔王の間に足をつけるガイウス一行。
ここまで来たか。
どこで情報得たのか知らんが、こうしてまた会うことがあろうとはな。
殺されかけた恨みは募りに募っている。
多分、ガイウスも俺を恨んでいたに違いない。
けど、それよりも友情を裏切った行為に腹が立った。
子供の頃から一緒だったのに。
……なぜ。
部屋を出ようとするとハティに止められた。
「イーサン、お前に渡しておきたいものがある」
「なんだ」
「なぁに、これから私の部下となるのだ。それらしい衣装をしてもらわねばな」
石を投げてくるハティ。
俺はそれをキャッチした。
これはヴァイスクリスタル。
円を描くと中からアイテムが出てくる。
【アルターアーベント】
鎧・アーマー。
この装備は破壊できない。
闇属性が付与されている。
装備者の攻撃力と防御力を10倍にする。
【アルターツァイト】
靴・シューズ。
この装備は破壊できない。
移動速度と跳躍力を大幅にアップする。
通常の状態異常を無効化する。
10秒間に一度、HPを5%回復する。
【アインスト】
腕・ガントレット。
この装備は破壊できない。
火・風・水・地の魔法耐性が50%アップ。
種族人間に対し、50%の追加ダメージを与える。
【ミッターナハト】
イヤリングアクセサリー。
防御力が少し減少する代わりに、魔力を永続的に底上げする。この装備を代償に、一度だけ蘇生できる。
【アルターネーベル】
指輪アクセサリー。
魔王城クロンハイムへ帰還できる。
装備者の聖属性耐性向上。
「こ、こんなにいいのか……?」
「構わぬ。お前は我が最高幹部のひとり。報酬の先払いだ」
まあいいか。
相手は一応、ガイウス。
腐ってもクルセイダーである以上、油断はできない。
俺はありがたくアイテムを装備した。
見た目がガラリと変わり、勇者とうよりは暗黒騎士のような雰囲気に変貌した。これで完全に闇落ちだな。
「では、行ってくる」
「私も同行しよう。お前の運命をこの目で確かめたい」
「分かった」
ハティを連れ、俺は外へ。
長い通路を歩き、迷宮との境へ辿り着く。
迷宮の中には死ぬほどモンスターがあふれているが、ここまではやってこない。
やがて、ガイウスたちが到着した。
「ここが魔王の間か……。ん、誰だ!」
こちらの存在に気づくガイウス。
だが、俺であるとはまだ認識していないようだ。それもそうか、生きていないと思っているだろうし、姿も違う。
「ガイウス……この先は通さん」
「……! イーサン! イーサンなのか!?」
「違う。我が名はナハトズィーガー。魔王の前に、この俺が相手になってやる」
「やっぱり、お前……イーサンだよな。クソッ、生きていやがったか! ほら、マクシミリアン、キャロル! コイツはこういうヤツだったんだよ!!」
必死に叫ぶガイウス。
「そ、そんな……うそでしょ、イーサン!」
キャロルも信じられないと俺の名を口にする。
お前は俺を見捨てた。
「……は、話が違うぞ、ガイウス! イーサンは死んだんじゃないのかよ!」
青ざめるマクシミリアンは、ガイウスの腕を引っ張っていた。
「う、うるさい! 離せ、マクシミリアン! け、けどな……コイツを倒せば魔王とも戦える。それでいいだろ!」
「いいわけあるか! あのイーサンはもう勇者の姿ではない。まるで魔王だぞ!」
「馬鹿。俺たちは魔王を倒すためにここまで来たんだろうが。怖気ついてどうする!」
「だ、だが……」
「イーサンが生きていたのは意外だった。けどな、こちらも“秘策”がある」
「やるんだな……アレを」
「そうだ、マクシミリアン! 相手が元勇者だろうが、容赦はしない。魔王もこの城も全部ぶっ潰して、俺たちが真の勇者となるのだ!」
懐からなにか取り出すガイウス。
なにかをする気だ。
その前に叩き斬る――!