表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

第1話 勇者追放

 巨大ゴーレムを前に、俺は仲間に背後から襲われた。



「死ねえ、イーサン!」

「――ガハッ!!」



 ギリギリで回避したつもりが、腹部に槍が刺さった。口から血を吐き出し、俺は死にかけた。


 う、うそだろ……よりによって、一番信用していた親友に裏切られた。



「フハハ、苦しそうだな……イーサン」

「……ガイウス、てめぇ……」



 ガイウス・フェイルフレンドは、村で一緒に育ち、今日まで苦楽を共にしてきた仲間。クルセイダーであり、今まで俺の盾として守ってくれていた。なのに、なぜ……俺を刺した。


 他の仲間も笑って見過ごしている。


 コイツ等……最初から俺を裏切るつもりで……!?


 クソッ、目の前には巨大ゴーレムも迫っているっていうのに。



「イーサン、あとはお前でなんとかしろ! もっとも、助からないだろうがな!」



 もう一人の仲間、マクシミリアン・フェイクウェルが悪魔のような笑みで俺を見下す。プリーストのする顔じゃねぇ……。コイツこそ邪悪そのものじゃないか。



 みんな倒れている俺を置いて、去っていく。



 クソ、クソ、クソオオオオオオ!!



 ズシン、ズシンと俺の方へ迫ってくる巨大なゴーレム。

 こんな土くれ、俺ひとりでなんとかしてやらァ!!



「うおおおおおおおおおお……!!」



 俺は勇者だ。

 世界を救う男なんだ……!!



 ▼△▼△▼△▼△



 魔王城の前にある高難易度ダンジョンを踏破した俺。ギガントアイアンゴーレムをぶっ倒し、生還した。


 街へ戻ると、人々は俺を見て青ざめていた。


「お、おい……」「勇者様の腹部に槍が……」「大丈夫なのかよ」「いつもの仲間はどうした?」「なんでも裏切られたって話だ」「勇者が死にかけているぞ」「いいのか、あれ」「誰か治療してやれよ」


 なぜお前達は俺をそんな目で見る。

 なぜ、俺を助けない……。


 俺は今まで人間の為に尽くしてきた勇者だぞ。


 だ……誰か……せめて、水を……。



 その場に倒れ、俺は力尽きた。



 クソ……誰も助けてくれない。

 疲れ切った中、街の役人が現れた。


「勇者イーサン、これを見ろ」

「な、なんだ……」

「これはお前の手配書。お前は世界中の敵であり、お尋ね者」


 は……?

 なんで、どうして……そうなった?



「い、意味が分からない!!」

「手配書にはこう書かれている。イーサンは“偽の勇者”だとな! よって人間界を追放するとな」


「追放……だと」


「お前は人々を欺き、裏金を得ていた……そうなんだろ!?」



 ふざけるな、そんなことをするワケがない!

 ……チクショウ。


 恐らくはガイウスの仕業だ。


 俺をハメたんだ。


 許せねえ……!



 このままだと捕まって処刑される。



 そんな屈辱を受けるくらいなら、俺は単身(ひとり)で魔王城へ乗り込む!



 懐からアイテム『アオベの葉』を取り出した。これは特殊な転移アイテムであり、どこでも使用可能だ。

 魔王城前までは移動できる。



「転移・魔王城前……!」

「イーサン、貴様ああああああ!!」



 俺を捕まえようと役人は向かってくるが、その前に転移できた。



 ▼△▼△▼△▼△



 ギガントアイアンゴーレムの棲息していた渓谷を抜けると、その先に魔王城・クロンハイムがある。

 この先は魔界にも通じるシュヴァルツヴァルトがある。

 魔物が好んで住む暗黒世界だ。


 俺は高レベルモンスターから隠れながら、先へ進んだ。


 いちいち相手にしていたらキリがないからだ。


 ついに魔王城・クロンハイムに潜入した。

 城内にある『モンスター迷宮』のことは、ある賢者に聞いていた。情報通り。迷宮にはヤバイモンスターがわんさか。いわゆるモンスターハウスと化していた。


 通常ならアレを討伐しながら向かうしかない。だが、ここを簡単に突破する方法を俺は知っていた。


 普通に迷宮を歩くのではなく、天井を歩けばいいと聞いていた。


 ジャンプして天井へ。


 すると足がついた。

 やっぱり、そういう仕掛けなんだな。


 これなら簡単に魔王の元へ辿り着ける。


 急いで走っていくと、魔王の部屋が見えてきた。


 大きな扉を開けると、そこには――。



『……よくぞ来た。勇者イーサンよ』



 少女の声がした。

 噂通り、魔王は女か。性別なんてあるのかも分からないけど。少なくとも人間基準で言えば少女で間違いない。



「お前が魔王ハティ!」

「そう警戒するな、勇者よ」

「なに……?」



 聖剣を構えていると、闇から魔王が姿を現した。


 黒いシスター服に身を包み、赤い宝石のみついている指輪、イヤリング、ネックレスをしていた。微かに見える銀の髪は、この世のものとは思えない輝きを放つ。


 なんて美しさだ……魔王とは思えない。


 まさか、こんな若い少女だったとは。

 はじめて見る姿に俺は、ただただ驚いた。



「イーサン、お前は仲間に裏切られ、世界に裏切られた……だろう?」

「な、なぜ知っている!」

「分かるさ。ギガントアイアンゴーレムを通して見ていた。それに、街の出来事も使い魔で監視していた」


「ずっと見ていたのか」


「それより、イーサン。お前は不運だな……親友と思っていた相手に殺されかけて」

「だ、黙れ! お前を倒してやる。それで世界は救われるんだ」


 けれど魔王ハティは、覇気もなく冷たく笑うだけだった。

 コイツ……殺気がまるでない。

 まるで対話だけを望んでいるような、そんな態度。


「わたしを倒す? その深く傷付いた体で挑もうなどするな。弱体化した勇者を倒したところで、なんの価値もない」


「なんだと……!」


「そんなことよりも我が軍門に下れ。お前は薄々気づいているはずだ……自分の心の奥底に“闇”が根付いている、と」



 ……そうだ。

 俺は仲間と世界に裏切れた。

 それからというものの、聖剣は光を失い……俺自身も力を失っていた。今の状態では魔王を倒すことなどできない。そんなことは分かっていた。

 それでも俺は世界の為に……と。


 馬鹿だ。


 なぜ世界を救う必要がある。

 こんな世界は……もういらない。


 いっそ魔王に支配されてしまえばいいのだ。


「魔王ハティ、お前のしようとしていることは世界の支配、間違いないな」

「そうだとも。我が正義の為に人間界を支配する」

「正義――か。魔王が正義を語るとはな」

「こちらにも大義名分がある。それを分かろうとしないのは人間の方だ」


 まあいい。俺にはもう人間を守る意味なんてないのだから。


 勇者は必要なくなった。

 必要とされなくなった。


 なら、俺は好きに生きるよ。


 ずっと縛られてきた人生だ。こんな時こそ、俺は好きなようにする。



「魔王ハティ、俺はあんたの軍門に下る。忠誠を誓うよ。この聖剣イルミナリウスにもな」

「よかろう。お前には『ナハトズィーガー』の位をくれてやろう。最高幹部を超える地位だ。不満はなかろう」


「夜の王か……分かったよ。で、なにをすればいい?」

「まずは手当をしてやろう」



 手を向けてくるハティ。俺は警戒するが、なぜか治癒魔法が飛んできてビックリした。魔族がハイネスヒールだと……?


 驚くべきことに、俺の穴の空いた腹が完治した。


 ありえない……魔族がここまでの高位治癒魔法を扱えるなんて。いや、ないことはないか……。いや、だがこれは……神聖すぎる。



「今のは聖者や聖女クラスの治癒魔法だったぞ」

「そうさ。わたしは魔王だが、治癒魔法が扱える。だが、不思議なことではない。ボスクラスともなれば、大抵のモンスターは回復していただろう」


 確かに……ピンチになれば、どのボスモンスターも自己回復をしていた。けど、ここまで人間らしい回復スキルを使うモンスターは存在しなかった。いたとしても、ほんの一部。


 魔王はその一部だとでもいうのか。



「いったい……」

「今は休め、イーサン。お前の心身が疲弊しておる」

「そ、そこまでの気遣いをしてくれるとはな」

「無論。お前は特別さ。今は休め」

「……分かった。従う」


 今は魔王城でゆっくりと休もう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ