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 俺たちは何尚屋(なんなりや)に戻ってきた。


 あの後のこと。

ねね子は腕を組んでいたのを辞め、次は俺の手首を掴んだ。

そのまま呆然として身動きが取れなくなってる俺をズリズリと引きずって帰ってきたのだ。


 帰りがけ、ねね子は「まつりくん、大丈夫?」とか「まつりくん、ちゃんと説明してあげるから」などと声をかけてくれていたが、俺はなんの反応も出来なかった。


「とりあえず座って」とねね子は俺をソファに座らせ、店の奥の方へ引っ込んで行った。

頭の中が混乱して何が起きたか分からなくなっていたが、少しずつ先程起こった出来事をまとめることが出来た。


最初ねね子にバイト兼助手にスカウトされる。

路地裏に連れてかれて、謎の刑事2人組と知り合う。

その二人とねね子は謎のターゲット黒猫とやらの話をする。

なんのためか知らないが急に彼氏役に抜擢(ばってき)

腕組んで歩いていたら、俺が黒猫らしき女性を見つける。

その人が横を通ったとき、ねね子が伸びをする。

ねね子の指が黒猫らしき女性の首に触れる。

黒猫らしき女性が死ぬ。

ねね子怖がる。

溝ノ口さん登場。

目が合ったが無視される。

黒猫らしき女性の両脇にいたマッチョが逃走。

ねね子に引きずられて何尚屋(なんなりや)へ帰宅。


 こんなもんか。


やっぱりどこか冷静な自分が居た。


うーん、黒猫らしき女性が死んだのって事故じゃないよね?

だってねね子が首触ったし。


 え、ねね子は、、人殺し、、。


 自分が混乱している原因はこれか。

知り合いのおもしろそうな変な女の子が人殺しかもしれないという可能性。

いや、おもしろそうとか言ったら喜びそうだから辞め。

今日知り合ったばっかりなのに知ったかぶりしてるのも辞め、だ。


 でもやっと自分の中で整理が着いた。


「はぁー…」

頭を抱えて、大きく息をつく。

なんなんだ、この一日は。


「まつりくん、大丈夫?」

真っ暗な思考回路の途中、ねね子の(こえ)が聞こえて顔を上げる。


 ねね子は微笑んで、俺の前に湯気が上っている湯のみを置いた。

「…ありがとう」

中身を確認せずにねね子に感謝を告げる。

めちゃくちゃ声が小さかったのには自分も驚いた。


ねね子は「うん」と呟いて、向かい側に同じ湯のみを置き、その前に座った。

「ねね子、」

「うん?」

 ねね子は湯のみを温かい飲み物を啜っていた。


「さっきの、あれ(・・)は、なに?」


 どこから言えば、聞けばいいのか分からなかった。

今、頭に浮かんでいるあれ(・・)とは黒猫らしき女性のことだ。


「うーん、どこから言えばいいんだろう」

 ねね子は湯のみを置いて呑気な声色で首を傾げた。

「…俺もどこから聞けばいいかわかんないんだけど」

「そうだよね〜」

苦笑いをした俺。

ねね子は真逆な顔で笑った。


「んと、まつりくんが言ってるあれ(・・)さ」

「うん」

黒猫(・・)だよ」

黒猫という言葉がとても重く、空気が重くなった。しかし、俺の言ったあれ(・・)の意味を分かってくれたねね子に少し心を許した。


「…やっぱりそうなんだ」


「でも死んでない」

「え、」


 死んでない?ねね子が触って倒れたのは死んでない、


「うん、大丈夫だよ。気絶しただけ」

その言葉はとても軽く、今度は空気を吸いやすかった。


「…そっかそっか、じゃあ良かったよ」

「ふふっ、まつりくん。それ心配してたんでしょう?柄にもなく優しいのね」


 口元に手を当てて、笑うねね子を見て恥ずかしくなる。

優しいなんて言われたのは小学生以来だ。

「別に、子供扱いすんなよ」

言葉から出たのは生意気な言葉だったけど、ねね子はまたにこにこと笑ってた。

その顔を見るとなんか体の緊張が解けてきた気がした。


 ふと、気絶しただけってなんで知ってるんだろうと気づいた。

ここに来るまでに樹さんや溝ノ口さんには会ってないし。

そうだ、溝ノ口さんが急に他人になっちゃったりしたんだ。

また訳分からなくなってきた。


「まつりくん?頭の中の混乱、大丈夫かい?」

クスクス笑って顔を覗き込んできた。


「さっき説明するって言ってただろ。早く説明しろよ」

 自分はよく分からないのにねね子は全てを知っているようで何故か悔しかった。

口悪くてごめんなさい、なんて言ってやらないけど。


「年上にそんな態度をとるんだね、君は」

はぁ〜とため息をついて外国人のWhy?のようなポーズをした。

俺はガン無視だ。


 口悪く態度悪くして少しの後悔をしても、ねね子は小馬鹿にして笑ってくれる。

意外にもそれが心地いいと感じる。


「しゃーないね、説明しますか」

姿勢を正し、座る位置を戻した。

「はい、お願いします」

俺が頷くように頭をさげると、またねね子は笑った。

「まずね、今日のターゲットはコードネーム黒猫」

「…はぁ、???」

「…その前からか」


 俺の全く理解してない顔を見て、ねね子は人差し指をこめかみに押し当て考えた。

「んーと、まず何尚屋(なんなりや)は依頼人様の依頼を引き受ける店、ってのは分かる?」

「うん、さっき聞いたからね」

さっきと言っても遠く、とても前な感じがするが。

「依頼人様が御国(おくに)のときもあるの」

「お、国?」

 国って、どういうことだろうと聞く前にまたねね子が話し続ける。

「国、政府、警察。そんなところよ。そこらへん、どこからの依頼でもだいたい警察が直接依頼しに来るんだけどね。それが樹さんと溝ノ口さん」

「…樹さんと溝ノ口さんがお国と何尚屋(なんなりや)の窓口ってわけか」

必死こいてやっとの思いで答えにたどり着く。

「そーゆーこと!理解早くて助かるわ〜」

ねね子は嬉しそうに頷いた。

「プラスで言っとくと、何尚屋(なんなりや)は不思議な内緒のお店、っていうので通ってるから。そこらへんよろしくねー」

また意味わからんことを言って、手をヒラヒラさせた。


 そのまま、話を続けるねね子。

「それで今回、依頼を頂いたの。黒猫を捕まえたいから手伝って欲しい、とね」

「…なるほど?」

なんか、話を聞けば聞くほど現実味があるようでないような気がする。

だから、俺の脳みそが混乱するのか。

「だから、ターゲット」

「ターゲットの意味は分かった。理解した。でもコードネーム黒猫って何?何者なの?」

「えっとね、黒猫は詐欺グループのボスなの」

「詐欺!ボス!あの人が、?」

「そ」

 あの美人オーラ半端ない人が?!

またまた驚きだ。

 俺の頭の中では、あんな美人なのに詐欺に手を出してしまうんだ、と思っている細胞しかいない。

頭の中では、もしかしたら人違いかも?とか全く別の意見を持つ細胞もパラパラ出てきたくらいだ。

 両脇のマッチョがボスだという方が納得できた。


 ねね子は湯のみをもって啜った。

「背が高くてスタイル良くてボブヘアの美人さんがね〜。でも正真正銘の黒猫だから」

 チラリと俺を見てニヤと笑った。

なんか嫌な気がした。

「あんな美人でも詐欺するんだってよー、まつりくんも騙されないよーにね」

湯のみに顔を近づけたままニヤリと悪い顔をした。

「騙されねぇよ!」


 人は見かけによらない。改めて学習した。



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