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第9話 夢里

 少女が待ち構えていた第1層の門の前に男が現れる。ダンジョン街でこの男を見かけたこの少女は、少しだけ先回りをしていた。


(来たわね)


 階段を下って来た先、目的の男の顔が見えた瞬間、その場で待機していた黒いフードを被った少女は声をかける。


「あなた、今一人?」


「ん?」


 まぬけな返事のあと、少し不思議そうな顔をした男は答える。


「そうだけど。どうかした? 迷子?」


「そ、そんなわけないでしょ!」


(はっ、しまった)


 少女は若干気にしている身長の小ささから、迷子扱いされたことに少し大きな声を出してしまう。初対面からこんなことでは、彼女の目的であるパーティーなんて組めたものじゃない。


「あの、いきなりなんだけどさ……パーティー、組まない?」


「え? うーん、そうだなあ」


(やっぱり、いきなり誘われて快く承認してくれる人なんて……)


「いいよ!」


「! ……え、いいの?」


「うん、いいよ。予想外だった?」


「ええ。組んでくれるのなら嬉しいのだけど」


「?」


 少し間を置いた後、黒いフードから顔を出した茶髪の少女は自ら名乗る。


「良いのならこちらとしても助かるわ。私は夢里(ゆり)星空(ほしぞら) 夢里(ゆり)よ。よろしく」


「こちらこそ。天野(あまの)(かける)です。よろしく!」


不用心(ぶようじん)過ぎる。前に戦闘を見た時とは大違い。間抜けな振りをしてこちらの様子を(うかが)う作戦? いえ、それにしては……)


 彼女こそ、第1層で陰に隠れて翔の戦闘を見ていた人物であった。

 その時の様子とは全く違った翔の姿に、様々な考えを巡らせて深読みしてしまう夢里だったが、対して翔の思考は単純明快。


(現代で女の子とパーティー組めるなんてラッキー! ちょっと迷った振りをしたのも、警戒してますアピールになって良かったかな。おれとしては即答でオッケーだったんだけど!)


 こうして、二人は仮のパーティーとしてダンジョンへ潜ることになった。




◇◇◇





「あなた、何も知らないのね」


「いやあ、ははは」


 パーティーをさっさと結成し、早速狩りにいこうと考えていた夢里は、思いがけないところでつまづいている。

 翔がパーティー勧誘から参加の仕方、何から何まで知らなかったことに対して(あき)れた態度を示す夢里。今は第1層の門を閉じ、人口階段側で説明を行っている。これならば、魔物が来ることはない。


(ますます怪しい。こんな初心者ですら知ってる事を知らないような人が、どうしてあんなに強いのかしら)


「そういえば、どうして星空さんはおれをパーティーに?」


「夢里よ。私もあなたの事は翔と呼ぶ。いざという時、短い方が良いわ」


「う、うん。じゃあ、ゆ、夢里」


(いきなり女の子を下の名前で呼ぶのは慣れない!)


 暗いダンジョンの中で(ひそ)かに顔を赤らめている翔であった。


「そうね。戦闘で迷惑になる前に言っておくわ。私は“銃使い”よ」


「うんうん。それで?」


「……は? それでって、言いたい事わかるでしょう?」


「?」


 少し右に首を傾けた翔の頭の上に、いくつもクエスチョンマークが並ぶ。


「はあ、本当に分かっていないようね。いいわ、じゃあ今日は私がダンジョンについて教えてあげるから! ちゃんと聞いて」


「本当に! ありがとう!」


(どうしてパーティーを誘った私が一から色々教えてるんだろう。誘う人、間違えたかなあ……)


 また説明するのかあ、と肩を落とす夢里。彼らがやっとダンジョンへ潜り始めたのはもう少し後であった。

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