第85話 良いとこ取り
「で、どうするの? 天野くん」
凪風だ。
翔の【ミリアド】が進化したとはいえ、相手は五人の猛者。
一人で突っ込むわけにもいかないだろう、という考えからの作戦の確認だ。
「まずは後ろのサポート二人を崩す! そうすれば豪月も強化消去を打つまでもなく戦闘に集中できる。五対三なら勝機が見えと思う」
「了解」
サポートから倒す、本来なら最初に取るべき作戦だ。だが、三傑が前に陣取っていては実行する事が出来なかった。
そんな中で、翔が言うならば何か考えがあるのだろう、と信じて他の四人はサポートに回る。
「行くぞ!」
翔・凪風・豪月を前衛に、いつもの陣形に戻った翔チーム。
いつもと違う点は、華歩と夢里がすぐ後ろにぴったりと付いてきている点だ。
「そのまま進んでくれ!」
声を上げ、他の四人が前に出る中で翔は一人でその場に留まった。
麗チームとまだ距離がある段階で、宙から【ミリアド】を頭上へ高く構える。
「なんだ!」
「何をする気!?」
向かってくる翔チームに対して迎撃の構えを取る大空と妖花も、翔の不可解な行動に目を見張る。
翔が今手にしているのは『魔法』が宿っているとは言え、あくまでも剣のはず。
((そんなところから届くわけがない……!))
「──! ダメだ、避けろ!」
足を止める二人に声を上げたのは麗だ。
得体の知れない、何か危険な攻撃を本能的に予感したのだ。
「避けてくれると思ってました!」
翔が頭上の【ミリアド】を力の限り振り降ろす。
ズバァァン! と模擬場を二分するのは大きな炎の壁。
高さもかなりのものである炎の壁に、三傑とサポートの男子二人が見事に分断される形となった。
「炎の壁!?」
「しまった!」
翔からすれば、今の【ミリアド】はまるで『魔法』を扱っているような感覚。
それでも普通に『魔法』を放つより遥かに早く、より大きな威力を出せる。
剣という武器の扱いやすさに『魔法』の威力を足し、まさに両方の良いとこ取りをしたかのようだ。
これは『魔法』に関しても扱いに長けた翔だからこそ出来る芸当だ。
「うおおっ!」
こうなれば、後は翔の独壇場。
<瞬歩> <跳躍脚> <攻撃予測>
ようやく使えるようになったお気に入りの一つ、<跳躍脚>も駆使して一気にサポートの男子二人との距離を詰める。
翔とサポートの男子二人は炎の壁を挟んで左側だ。
「こんなもの! 妖花!」
「もちろん!」
当然、炎の壁の右側に分断された妖花と大空は突破口を開けようとする。
だが、
「「──!」」
「いかせません!」
「まだわたしたちは負けてないですよ!」
それを遠くから制するのは夢里と華歩。意地でも翔側へはいかせない姿勢だ。
「ならば!」
麗が逆に華歩たちに距離を詰めてくる。
夢里と華歩は中距離の武器。遠くから相手を止めることには向いているが、接近戦となればどうしても辛い。
しかし、
「──!」
「僕たちを忘れないで欲しいですね」
「この程度のパワーか、清流麗!」
接近戦には凪風と豪月がいる。
そうして三傑をこちらに気を引かせて約十秒。
それだけあれば片は付く。
「「「!」」」
風に乗って流れるように炎の壁が消えていき、翔が姿を現したかと思えばサポートの男子二人はすでに倒れている。
戦闘不能判定だ。
「勝たせてもらいますよ、麗さん」
「翔……! 君は、本当にわくわくさせてくれるな!」
観客席では相も変わらず大きな盛り上がりを見せている。
「すっげえ! まじでなんなんだよ天野翔とかいう奴!」
「いやあー! 麗様負けないで!」
「このままいっちまえ! 一年!」
その中で立見席に二人、国立探索者学校の制服ではない者がいる。
「これはすごいな。あれから武器一つでここまで伸びるとは。前に見た時とはまるで別人だね」
「はっ! 確かに多少はましになったかもな」
少し小柄で金髪、偉そうな口で気怠そうに戦況を眺めているのは大阪からの刺客、皇聖斗だ。
「へー、それでもまだましってぐらいなんだ。言ってくれるね、うちの聖騎士様は」
「やめろよきもちわりーな、友人Aさんよ。でもまあ、そうだな。今作ってもらってる武器も完成すりゃ、さらに差は開くだろうな」
「あの、例の《オーダーメイド》ってところか?」
「ああ、あの名高いじいさんだ。どこで隠居してるかと思えば東京に来ていたとはな。おかげで探すのに苦労したぜ」
「良い勝負になること、期待してるよ」
「はっ! ぬかせ」
翔チームと麗チーム、この学校の頂点同士の対決を見てもなお余裕を見せる皇聖斗。隣の友人Aも何を考えてか、そんな皇を見て不敵な笑みを浮かべている。
そして、一週間にかけて行われた対抗戦はついに終結を迎える。




