第81話 最終戦
翔率いる一年Aクラス・Aチームは三年Bクラス・Aチームに勝利。
その興奮も冷めやらぬまま終業し、彼らは今日もダンジョン街へ赴く。
「ごめんごめん、遅くなったよ」
いつものカフェでまったりしている中、凪風が遅れてやってくる。
「例のファンクラブか、まったく」
「ま、まあね……」
バツが悪そうに目を逸らしながら正直に答える凪風。
「あれー、羨ましいの? 豪月くん」
「ふん、そんなのではないわ」
夢里の問いにそっぽを向く豪月。
実に男子高校生らしい反応だ。
「あはは。ていうか天野君は?」
「かーくんなら気になる事があるからって、祭ちゃんのところに行ったよ。作戦会議の時間までには戻るって」
「ふーん」
なんとなくいつものカフェに集まったメンバーだが、予め決めていた作戦会議の時間までは少し空いている。
「あ、私もそろそろ予約の時間だ。行こっ、華歩」
「本当だ。じゃあ、また後でね」
華歩と夢里は武器の調整する店で予約をとっていたようだ。
「……どうする?」
「……潜るか」
「そだね」
暇になった凪風と豪月はダンジョン入口へと向かった。
一方、翔は祭のオーダーメイド店に来ていた。
「【ミリアド】のさらなる段階?」
「うん。何か知ってることはないかなって」
翔は三年Bクラスと戦った時に掴んだ、“【ミリアド】にはもう一つ上の段階がある”という感覚について知るため、製作者である祭を訪ねていた。
この武器の真価をまだ発揮できていない、翔は確かにそう感じていた。
ただ、それは翔自身もはっきりとしていない感覚であり、言葉に表すのが難しいようだ。
「うーん……。作った側としては、天野さんの希望通りになれば良いなって思って作っただけだからなんとも……」
「そうだよね。変な事聞いてごめんね」
「ううん、全然良いんだよ! 私としても相談してもらえるのはむしろ嬉しいし、力にはなってあげたいんだけどね」
(祭さんが分からないということは、作り手が意図していない何かという事か? それともただの勘違いなのか?)
「ほう、さらなる段階か」
「おじいちゃん!」
店の奥から顔を出したのはこの店の店主であるじいさんだ。
「今の話、聞かれてましたか?」
「ああ、聞いておったよ。わしにもさっぱり分からんがな」
「そ、そうですか……」
じいさんの回答に一層頭を悩ます翔。
「じゃが──」
「?」
「【ミリアド】を使いこなすのはあくまでお主じゃ。もしかすると、お主自身のさらなる成長と共に新たに見えてくるものもあるかもしれん。確信があるなら、とにかく模索してみることじゃ」
「はい」
(おれ自身の成長か……)
思案しながら【ミリアド】を強く握る翔。
(お前はまだ先を見せてくれるのか?)
返事はない。
だが、じいさんの言葉もあり、視界がクリアになった気がする翔。
「ありがとうございました」
「また来てください!」
「待っておるぞ」
何か情報を得られたわけではないものの、なんとなく晴れた気持ちで翔は祭のオーダーメイド店を後にする。
作戦会議の集合時間。
各々、武器の調整や明日に備えての探索を終え、いつものカフェで再度集まった。
「じゃあ明日の作戦会議を始めるぞ」
翔の声に各々頷き、会議が始まる。
これまでしっかりとした作戦会議は行ってこなかったが、明日の相手は今までとは次元の違った相手だ。
あくまで東西対抗戦の前座とはいえ、こんな機会は中々訪れない。より良い対抗戦にするためにも万全の対策をしていくのは当然の事だろう。
「ではまず、なんといっても“三傑”。この三人だ」
国探の頂点である清流麗、百桜妖花、静風大空。
この三人の攻略をしなければまず勝ち目はない、これはすでに五人の共通認識だ。
「もちろんこれはチーム戦だ。けど、それぞれ相対する者を決めておいた方が良いとも思う」
「そうだね。相性や攻撃範囲の有利不利もあるし」
全員、翔と同じ考えで一致しているようだ。
「まず、麗さんはおれが相手をする。あの攻撃的なパーティーだ。最前衛を張ってくるであろう麗さんに合わせて、今回はおれが一番前に出るよ」
「ああ、あの人を相手できるのはお前しかいないだろうな」
「異議なし!」
豪月と|夢里も賛成の意を示す。
「そして、百桜妖花の『魔法』を相手するのは……」
翔を含めた四人が華歩の方を向く。
「わたしだね」
これについては華歩も初めから自覚していたみたいだ。
「頼んだ。おれはおそらく麗さんを止めるのに精一杯になる。となると『魔法』で対抗できるのは華歩しかいない。夢里は援護射撃がメインになるだろうが、特に華歩の事をよく見てやってくれ」
「了解!」
「後は──」
「静風大空は僕が相手をする」
凪風は少し食い気味に自ら口を開いた。
「お、おう。そのつもりだったが……凪風?」
凪風は普段見せない、何か思い詰めたような表情を見せる。
「どうした、何か思い当たることでもあったか?」
「いや、ちょっと因縁深い相手でね。話せば長くなるからしないけど、とにかく任せて欲しい」
「……わかった」
異様な雰囲気から、翔たちが凪風と大空についてそれ以上聞くことはなかった。
その後も会議は続き、陣形や連携の再確認、対策などを綿密に話し合い、一行は万全の状態で次の日を迎える。
★
『それでは最終戦、三年Aクラス対一年Aクラス。それぞれAチーム対抗戦を始めます!』
「「「わあああー!」」」
会場に入り切らないほどの人の数。
ほとんどの全校生徒、全教員が見守っていると言っても過言ではないだろう。
それは、昨日の歓声よりもさらに盛り上がっていることが何よりの証拠だ。
「いよいよか、翔」
両チーム整列をし、戦いを待ち望んでいた麗が目の前の翔に話しかける。
「麗さん。今回は勝ちます」
「ふっ、面白い」
麗と翔、リーダー同士が握手を交わすことで会場のボルテージは最高潮となる。
「よろしくね、お二人のヒロインちゃんたち」
「だ、誰がヒロインですか!」
「あら、答えてるじゃない」
「うぐっ!」
夢里は妖花に早速惑わされている。
一方で華歩はじっと妖花を見つめる。
「負けません」
「……良い心意気ね」
華歩と妖花。『魔法』を主とする者同士、目線を外すことなく、二人の間ではすでに戦いが始まっているかのようだ。
それは因縁めいたこちらでも、
「翼、私は──」
「勝ちます。僕が今伝えるのはそれだけです」
「! ……ええ」
凪風が真っ直ぐな目でそう伝える一方、大空は少し嬉しそうな顔で返事をした。
そして豪月は、早速先輩を煽っていた。
「先輩方、良いんですか。女子に任せてサポートばかりで」
三年Aクラス・Aチームは、三傑と呼ばれる女子三人をメイン、そのサポートをするのが男子二人といった構成だ。
「あの人たちが強すぎるからね」
「だよなあ」
二人は三傑に対しての信頼の証拠か、もしくは諦めの境地か、活気が見当たらない答えを豪月に返す。
「ふん、やる気がないならあっさり砕きますよ」
だが、豪月はすぐに考えを改める。
「サポートとは言っても、君よりは強いけどね」
「首を洗って待ってな」
「なるほど」
豪月はニヤリと満足そうな顔を見せ、握手を交わす。
両チームの挨拶が一通り済んだ後、それぞれが配置に着いた。
上級生との対抗戦はこれで最後である。
(やれることはやった。おれたちは、勝つ!)
翔を含め、チームの思いは一緒だ。
『では、始め!』
審判員の号令と共に両チーム、計十人の強者が一斉に動き出した──。




