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第80話 【ミリアド】お披露目

 両者の剣が交わり、キィィィン! と甲高い金属音が鳴り響く。

 (かける)の【ミリアド】が一級品であることは疑いようがないが、リーダーの男が持つ長刀もまた一級品。武器の性能だけで大きな差が出ることは無い。


 だが、ただ一つ。両武器に違いがあるとすれば、翔の【ミリアド】は()()()()()

 翔はニッと笑った。


「【ミリアド】、お披露目の時間だ」


 翔は、リーダーの男の長刀を右手一本で支える剣で受け止めている。

 両者一歩も譲らぬ押し合いの中で、【ミリアド】が瞬時に()()()()()


「!?」


 【ミリアド】から翔の左手へ、黒いオーラのようなものが移る。

 黒いオーラは瞬時に形状を変化させ、使っていない翔の左手に【ミリアド】と同じ型の、長さだけが半分ほどの剣が握られている。リーダーの男と交えている剣と同じ長さの剣だ。


 今の【ミリアド】の武器種は双剣。

 

「なに!?」


「──うおお!」


斬刃(スラッシュ)


「くっ!」


 右手で剣を交えたまま、左手で<スキル>を発動させた翔の攻撃は空を切る。

 同時には受け止めきれないと踏んだリーダーの男が、後方へ回避したのだ。


(あぶねえ、なんだ今のは。──!?)


 前を向いた男の目に入って来たのは、アサルトライフルを構える翔の姿。


「休む暇は無いぞ」


「バカな!」


<精密射撃> <ヘッドショット> <三点バースト>


「ぐあっ!」


 翔が放った銃弾はリーダーの男の頭装備に連続で三発命中し、男はよろける。


「はあああっ!」


<瞬歩> <攻撃予測>


 すかさず距離を詰める翔。

 アサルトライフルだった【ミリアド】は翔の意思と共に黒いオーラによって形状を変化させ、瞬時に剣へと変わる。


(そんなのアリかよ!)


 リーダーの男は手を前に出して身構えるが、何かを察した翔は瞬時に止まった。


「──!」


 剣を地面に突き差し、【ミリアド】は盾となる。

 発動させておいた<攻撃予測>により、間一髪攻撃を防いだ。


「盾にまでなるのかよ!」

「おい、大丈夫か!」


 翔に反撃を行ったのは三年Bクラスの後衛にいた者たちだ。

 リーダーの男から吹っ掛けた一対一(タイマン)ではあるが、これ以上やれば確実に負けると踏んだようだ。


「翔!」

「かーくん!」


 相手チームの後衛が出てきたことにより、夢里(ゆり)華歩(かほ)も声を掛け、後方から迎え撃つ構えを取る。

 これには両チーム一旦立て直しだ。

 だが、翔の勝利により流れは確実に翔たち一年Aクラスチームにある。


「「「おおおおっ!」」」


「すげえぞ、なんだあれ!」

「武器もだが、あれを使いこなすあいつもだ!」

「まじで三年Bクラスも食っちまうのかよ!」


 より一層盛り上がりを見せる観客席。 




 周りのように大声を出すことはないが、この展開には学校のトップ集団でさえも度肝を抜かれたようだ。


「まじ? 翔君やばくない? ねえ、(れい)


 予想していた展開とは違った流れに、この学校の『魔法』の頂点である百桜(さくら)妖花(あやか)も驚きを見せる。


「……そうだな」


「ん、の割にはテンション低くない?」


「それは違うよ妖花」


 麗と妖花の会話に口を挟むのは静風(しずかぜ)大空(そら)

 凪風のいとこであり、麗・妖花と肩を並べる“三傑”と呼ばれる内の一人だ。


「麗はすでに戦ってるんだよ。目の前の翔君を見ながら脳内シミュレーションでね。でしょ? 麗」


「かもな」


 ふっ、とした笑いを見せる麗。

 大空の言っていることもあながち間違いではないのだが……


「いやー、翔君に見とれてるだけっしょ!」


「! あ、妖花! お前っ!」


「あらー、図星だったのかな?」


「ち、違うわ! まったく、二人ともしっかり見ておけ! 明日戦うのだぞ!」


 あたふたしながら再び模擬場に視線を戻す麗。

 だが彼女の頬はいつになく赤い。


((かわいい))


 学校のトップ、麗をいじって遊ぶ妖花と大空であった。




 そして舞台は再び模擬戦場。


天野(あまの)!」

「天野君!」


 前衛となる豪月(ごうつき)凪風(なぎかぜ)も翔の両隣に並び立ち、一気に畳みかける姿勢だ。

 三年Bクラスチームの領域は翔によって大きく押され、後ろのスペースはもうほとんどない。


 となれば、戦況は爆発力で勝る翔たちのチームに大きく傾く。


「『上級魔法 聖者(せいじゃ)の光』」


 華歩の『魔法』が発動。

 邪悪な魔物に特に有効であるこの『魔法』は、対人では主に武器を破壊する効果を持つ。


「防御だ!」


 三年Bクラスチームの頭上に華歩による魔法陣が出現し、そこから(まばゆ)い光が注がれる。

 それに対して彼らは防御の『魔法』を張る。


「くううう!」


 三年Bクラスチームは防御範囲内に立て()もり、なんとか武器の破壊を防いだ。このあたりの咄嗟の判断はさすがである。


「じゃあこっちはどうするかなあ! 先輩方よお!」


 防御体制をとるのを待っていたかのように豪月と凪風、続いて翔が突っ込んでいく。

 対しては当然、華歩の『魔法』を防ぎ切った三年Bクラスチームも構える。


「生意気な一年め!」

「相手をしてやる!」


 前に出た二人が持つ武器は弓。

 学校内でも名を()せる、確かな実力を持った中衛コンビだ。


 翔チームの先頭をいく凪風・豪月にとっては分が悪い相手。だが翔チームにも頼れる中衛がいる。 


 凪風・豪月は照準に入らない様、それぞれ左右に散った。後方から現れるのは翔と夢里。翔が手に持つのは真っ黒の銃、夢里と同じ武器種アサルトライフルだ。


「あの女を狙え!」

「狙ってる!」


 弓を持つ二人の狙いは夢里で一致しているが、中々照準に捉えることが出来ない。

 戦いが始まった段階から地形・相手の構成を観察し、攻撃手段や展開を予測していた夢里は、遮蔽物(しゃへいぶつ)や身のこなしで見事に(かわ)し続ける。


(なんだよあいつ!)

(銃を持った奴の動きじゃねえぞ!)


 夢里が翔に追いつき、彼らは天井の照明を背にして高く跳んだ。 


「うおおお!」

「はあああ!」


<精密射撃> <ヘッドショット> <三点バースト>

<精密射撃> <ヘッドショット> <五点バースト>


 宙から翔と夢里が放った銃弾が、弓で反撃させる間もなく二人に命中。


「夢里!」

「うん!」


<急所特定> <重撃>

<急所特定> <重撃>


 弓を持った二人はよろけてしまったことで、翔と夢里の前に隙を見せてしまう。

 それを見逃す彼らではない。


「ぐおっ!」

「がはぁっ!」


 弓を持った二人はダウン。


「くっそおおお!」


 再び前に出てくるのは三年Bクラスチーム、リーダーの男。


(このままやられてたまるか!)


 男はここぞとばかりに気迫を込める。三年生の意地だ。


「天野君、天野君」


 素早く距離を詰めていく中で、凪風が人差し指で自身を指してアピールする。翔はその意味がすぐに分かった。


「行ってこい!」

「どうも!」


 やり取りを見ていた豪月も察し、凪風は単独でリーダーの男に突っ込む。


「今度は僕が相手でも良いかな?」


「なめるな一年坊が!」


 上から大きく振りかざした長刀をひらりと躱し、凪風は華麗な動きで長刀の上に乗ってみせた。

 楽々攻撃を躱された上に、軌道を完全に予測しておちょくられた。リーダーの男からすればたまったものじゃないだろう。


「貴様──」

「僕の勝ち」


風・三剣刃フォン・トゥリア・ラミナ


 リーダーの男は気付いた時にはすでに斬られていた。


「「きゃー!!」」


 観客席からは黄色い声援が届く。最近噂の凪風ファン達だ。


「ラスト!」


 凪風が珍しく声を上げた。


「任せろ! ふんぬ!」


<真空刃>


「うぐっ!」

「ぐあっ!」


 再び防御を固めていた残り二人に対して豪月が『魔法』もろとも吹き飛ばした。

 まさに力業。豪月にしか出来ない芸当だろう。


「決めろ、お前たち」


「サンキュー豪月」

「ありがとう、豪月くん」


 翔と華歩は体を近付け、互いに杖を交差させて巨大な火の球を作っていた。


「「『上級魔法 豪火炎』!」」


 最後にド派手な花火のような火の球が地面に着弾。

 模擬戦は終了を迎える。


『一年Aクラスチームの勝利!』


「「「うおおおおっ!」」」


 互いに集まり、勝利を噛みしめる翔たち。

 呼応するように盛り上がる観客。


「まじでやりやがったよ、あいつら」


「楽しみにしているぞ、翔」


「翼、強くなったね」


 この結果にも一切の焦りを見せることは無く、より明日を楽しみにする三傑。


 会場内が大いに盛り上がる中、翔は喜びを表現しつつも、戦いの中で掴んだ感覚について頭を巡らせていた。


(【ミリアド】……こいつにはまだ、()()()()がある)

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