第8話 今の段階
電車に揺られ、つり革につかまりながら、先程のことを考えてぼーっとする。
華歩と話せたのは久しぶりだったかも。それにしても「実は私もね」の後は何を言いかけたんだろう。気になるなあ。
〈まもなく、東京ダンジョン、東京ダンジョン。お出口は左側です〉
まあいいか。
東京ダンジョン駅に到着するアナウンスで気持ちを切り替え、気合を入れる。
今日も潜るぞ。
「【毛皮のベスト】とてもお似合いですよ。それでは、気を付けていってらっしゃいませ」
いつものように受付のお姉さんに元気をもらい、ダンジョンへと赴く。受付のお姉さんも当然日によって変わるが、初めての時のお姉さんだとちょっとだけより嬉しい。
思い出補正? 違うかな。
「さて、と」
毎度のごとく、人口の広く大きな階段を下っていくわけだが、今日は一度整理して考えてみる。
まず、おれの現在の<ステータス>。
<ステータス>
天野 翔 職業ジョブ ???
<装備>
【スライムソード】【スライムシールド】【毛皮のマント】
レベル:1
HP :100/100
MP :10 /10
筋力 :1(+3)
敏捷力:1
耐久力:1(+6)
運 :1
魔力 :1
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装備をアップグレードしたことで能力値に補正が付いているな。【毛皮のマント】は「背」という部位用で、こちらは耐久力に作用しているみたいだ。
<ステータス>はまあ良いだろう。レベルが上がれば自ずと能力値も上がってくれるはず。本当の問題は<スキル>だ。
習得した<スキル>が使えるのをいいことに、おれは全盛期の<スキル>をいくつもぶっ放そうとした。すると、だ。
体が耐えられなかった。
最強クラスの剣技のトリガーを引けば、早すぎる剣筋が暴走し、おれが剣に引っ張られる形となった。
跳躍脚という宙を歩く<スキル>を使えば、筋力が足りなくて3歩目で地面に落下した。
数多の<スキル>を持つ勇者様はなんともかっこ悪い姿となってしまった。初歩の<スキル>と経験で強くなるしかない、これが今の段階だ。
異世界転生をした時のおれは、よく作品でみるようなチートクラスの能力を持っていたのかもしれない。加えて、【勇者の装備】の存在も大きいだろうな。
そこでおれは考えた。今はとにかく狩りだ。
魔物を倒し、レベルを上げて、より良い装備を身に着ける。
レベルを上げることで能力値を上げ、かつての『魔法』、<スキル>を使える数をとにかく増やす。これが今の目標であり目的だ。
よし、頑張るぞ。
再び気合を入れ、第1層の門の前まで来たあたり、
「あなた、今一人?」
「ん?」
フードを被った少女? から声をかけられる。




