第72話 嫌悪感
翔の大阪遠征、一日目。曜日は土曜日。
ここは大阪ダンジョン、第15層ボス部屋。
翔が単独で相対するのは【グランスネーク】。
巨大な体に硬い鱗で出来た皮膚、それに似合わぬ速さを持ち合わせた厄介な魔物だが、今の翔の相手にはならない。
「うおおお!」
<斬刃>
「カケル! 次は左!」
<斬刃>
「頭の上!」
<斬刃>
「最後よ! 決めちゃって!」
<三剣刃>
――シャ……シャァァ……
【グランスネーク】は何も出来ず、起こしていた体の前部分から生命力を失ったように倒れていく。
翔はフィの指示通りに、大きく硬い鱗で出来た皮膚を<斬刃>で剥がしていき、装甲の役割を果たしていた皮膚がなくなったところで、大技で決めた。
異世界で一度戦っている魔物のため、翔も対策は完璧だ。
「お疲れさーん! 楽勝ね」
「さすがに疲れたけどな」
翔とフィは達成感からハイタッチを交わす。
ダンジョンに潜りっぱなしで詳細な時間は分からないが、今日の目標は達成できたようだ。
「じゃ、第16層の転移装置を解放して今日は終わりにするか」
「そうしよう! 帰って魔物料理食べるわよー!」
「げ、まじで食うのか? あれ」
「当たり前じゃない! 異世界でもあんな狂った料理見たことないわ! これは食べなきゃ損よ!」
(お前は腹減るとかいう概念がないだろ……)
思った事をそっと心の中にしまっておく翔だった。
「!」
第16層の扉を開けたところで、翔は転移装置の前に立っている何人かのパーティーと目が合う。
「おい、あれって」
「だよな」
「お前ら、声が大きいぞ」
(何かこそこそ話してるな。同年代、いや一つ二つくらい上かな? まあ良いや、今日は疲れたしさっさと帰ろう)
その人たちをスルーして転移装置に手を付ける翔。そのまま転移しようとした時、翔に声が掛かる。
「まてよ」
「ん?」
パーティーの中でも少し小太りな男が翔に話しかけた。
「お前、国探の天野翔だろ」
「はい、そうですが」
「東西対抗戦には出るのか?」
「?」
翔にとってはまだ聞き馴染みのない言葉である。翔は首を傾げた。
「知らねえのか、じゃあまあ良いや」
(一体なんなんだ?)
「カケルー、もう行こうよ」
フィが早く帰ろうと翔の袖を掴んで引っ張るが、翔はもう少し話を聞く姿勢だ。
「それがどうかしたのですか?」
「いや別に知らねえなら良いよ。ただ、出るならあの人にボコされるなってだけだ」
「あの人?」
その時、転移装置が光る。
翔は転移装置から手を離し、道を開けた。
小太りの男は転移してきた者の姿を確認し、驚いた表情を見せる。
「す、皇さん!」
(だれだ? すめらぎ? ……って、よく見たら今朝ぶつかった人じゃん)
「誰だよお前、気安く俺の名前を呼ぶんじゃねえよ」
転移してきたのは皇聖斗だ。
「この方だぞ、天野翔! お前はこの人にボコされるんだよ!」
「だから、気安く名前呼ぶなつってんだろ」
「ひっ!」
小太りの男は皇に詰められてびびっている。
(今呼ぶなって言われたばっかじゃん。懲りない奴だな)
ため息混じりに小太りの男を哀れな目で見る翔。
「ったく、こいつのせいで面白くねえじゃねえか。なあ、天野翔」
話しかけてきた皇に翔は応える。
「えーと、すめらぎさん?」
「ああ、そうだよ。この冷める奴にネタばらしされちまった。けどまあいいわ。おれが負かした、清流麗に負ける様な奴には興味ねーんだわ」
(麗さんが?)
翔は信じられず皇に言い返す。
「嘘をつかないでくださいよ」
「ほんとだよ。さっさと帰って本人に聞いてみりゃいいじゃねえか」
「……」
(嘘をついているようには見えない。本当なのか? それにしても……気に食わない野郎だ)
全身白銀の装備に所々に金色で刻まれた筋。効果や素材に関係なく自分を目立たせるために作られたような装備、そして何よりその態度に翔は嫌悪感を抱く。
「分かりました。では、もう行きますので」
「なんだよ、もう帰るのかよ。つまんねー野郎だ」
「……」
「あ、そうだ、清流麗に言っておいてくれね?」
翔は振り返らずとも転移の手を止める。
「俺にぶっ倒されるの待っとけってな」
翔は言い返すことなく、そのまま地上に転移した。
大阪ダンジョン街、魔物料理専門店「魔頓堀」。
「カケル食べないの? めちゃくちゃ美味しいわよ!」
魔物入りのたこ焼きにお好み焼き、その他諸々をこれでもかという程に貪るフィ。
翔からすればどこに入っていくのか不思議なぐらいだ。
「食べるよ」
「……元気ないわね。今日は目標達成したのだから良いじゃない。それとも最後に会った奴のこと?」
「そう、だな」
一日目の成果としては申し分ない。
だが、麗さんが負けているらしいという情報、皇聖斗の態度に心のモヤモヤが拭い切れない翔であった。




