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第69話 オーダーメイド

 改めて歩いてみると分かる。やはりとてつもなく広いな。


 ここはダンジョン街中枢、商業エリア。最も商売が盛んな場所だ。

 行きつけのカフェや、侵入作戦の時に使った宿なんかはダンジョン入口近くにあるのだが、ダンジョン街はまだまだ広がっている。

 いつも通る場所から少し離れれば、当然見た事もない店はざらに存在する。


「兄ちゃん、この装備はどうだい? 最近人気があるんだよ」

「自分が飲むだけじゃなくてバラまくタイプの回復薬さ。周りにいるみんなが回復できる便利アイテムだよ」


「あはは、また今度にしますー」


 この通り、少し歩いただけでも結構な声をかけられる。


 おれが過ぎたと思えば、次は後ろの人に声をかけている。活気があって良いな。


 だが、今日は構っていられない。

 どの店も魅力的ではあるのだが、今日の目的は一つだ。




 商業エリアをずっと進み、少し年季が入ったような裏道に入っていく。

 そして道をずっと進み、やがて辿り着いた場所を見上げ、看板を確認する。


《オーダーメイド》


 そう一言のみ書かれた看板に確信を持ち、店の中に入る。


「すみませーん」


「……お客さんかい」


 奥から出てきたのは、額にバンダナを巻いた如何にも“職人さん”といった感じの年を重ねた男性の店主。(あらかじ)め聞いていた通りだ。


 というのも、この店は麗さんに紹介してもらった店だ。

 実は、麗さんが今使っている【トゥインクル・レイピア】もこの店のオーダーメイドであるらしい。あの細剣の性能を見れば、この店の手腕が確かな事は一目瞭然だ。


「……見ない顔だね」


 その睨むような目付きでじっと見られ、少し身を引いてしまう。


「は、はい。今日が初めてです。友人から紹介されて来ました」


「ほう、友人。誰の事だ?」


清流(せいりゅう)(れい)という人です」


「ほう、清流麗か。それはそれは――いたっ!」


 !?

 じいさんは睨みつけながら話してくるかと思えば、後方から急に現れたハリセンで頭を叩かれた。


「もう、おじいちゃん! だからその態度やめなさいって言ったでしょ! ただでさえ少ないお客さんを、また逃したらどうするつもりなの!」


(まつり)。良いだろう、少なかろうとわしを頼る者はいる。互いに誠心誠意認め合ってこそ良い物が出来るというもんじゃ――いてっ!」


「だから、そういうのが良くないの! あ、すみませんお客さん、見苦しいところを見せてしまって」


「い、いえ、全然……」


 明るく(だいだい)色の髪を高めのポニーテールで結んだ、同年代ぐらいの女の子が店主さんに代わって対応をしてくれる。


 祭さん? でいいのかな。

 じいさんのことをおじいちゃんと言っていたし、お孫さんだろうか。


「えっと、お客さん……って、え!」


「ん?」


「あ、あの、もしかして天野(あまの)(かける)さんじゃないですか?」


「はい、そうですが」


 どこかで会ったことあるか? いや、見た事ないと思う。


「やっぱり! 清流さんとの模擬戦見てましたよ! 熱い戦いでしたねー!」


「え? ってことは国探の方ですか?」


「そうなんです! 私は国探一年、()()()大田(おおだ)(まつり)です! 祭って呼んでください! それと同学年なのでもう敬語はいいですよ!」


 なるほど、産業科の生徒さんだったか。これは話が早い。


「じゃあよろしくお願いしま、よろしく!」


「はい! それで、今日はどんな要件で?」


「それなんだけど――」




 

 

「ふむふむ。戦闘中に武器の種類自体が切り替わる武器。それも形やタイプはもちろん性能まで、と……」


 おれはなるべく細かく希望する武器の形を伝えた。


「やっぱり難しいかな」


 うーん、とじっくり悩んだ後に祭さんは後ろを振り返り、じいさんを目を合わせた。


「「面白いっ!」」


「え?」


 じいさんと祭さんはまるで子どもみたいに目をキラキラさせている。


「ちょっとまってね!」


「う、うん」


 祭さんは、何枚もの紙にバーっと殴り書きをした後、それを見ながらじいさんと話し合っている。それもめちゃくちゃ早口で。


 ちょろっと聞こえる単語は難しい専門用語ばかり。

 それにしても……楽しそうだ。


「うーんとね」


 一通り話し合いを終えたのか、軽く雑案を書いた紙を見ながら祭さんはこちらを振り返る。


「結論から言うと……難しい!」


「だ、だよね」


「うん、ものすごく! 他の店なら門前払いされてるぐらいに!」


 ……ストレートに言われるとそれなりに傷付くな。


「でも、そこが良い!」


「へ?」


 ビシッと真っ直ぐに人差し指で指される。


「よく持ってきてくれたね、こんなアイディア。本当に面白いよこれ!」

「うむ、これは作り甲斐がありそうじゃ」


「じゃあ!」


 おれの嬉しそうな顔が出ていたのだろう。

 祭さんとじいさんは呼応するようにニッと笑い、


「「承りました!」」


「! ありがとうございます!」


 お二方と同じく、おれは勢い良く頭を下げた。

 こんな無茶難題を引き受けてくれて本当に感謝している。


「ただし!」


「?」


「頼む素材集めは大変かもよ?」


 大丈夫ー? とちょっとおちょくるような顔で言ってくる祭さん。

 すでに友達みたいな距離感でこっちも接しやすい。


「希望通りの物を作ってもらえるんだ。どんなところでも行くよ」


「そうこなくちゃ!」


 祭さんはウインクしながらパチン! と鳴らした指をこちらに向ける。

 次に彼女が言い放ったのは、


「では、大阪ダンジョンへ行ってもらおう!」


 予想外のものだった。

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