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第69話 それぞれの迷い、新たな可能性

 昼下がりの学校。

 程よく吹いているそよ風が、足元の方から顔を撫でるように通っていくのがとても心地良い。

 空は快晴で日差しはそこそこ強いが、ここは木陰なので体感は涼しいぐらいだ。


 校庭の芝生が生えた場所で後ろに手を組んで寝っ転がる。

 これが気持ち良いんだ。


「……」


「寝そうになってないか? 兄弟」


 隣で同じく寝っ転がるのは豪月(ごうつき)


「ん~、はあ。昼寝にはちょうど良い時間帯だしなあ」


 数秒腕を伸ばして緩める。

 目を瞑れば、豪月の言う通り今すぐにでも寝てしまいそうだ。


 おれたちはここに来る事が多い。豪月はどう思っているか分からないが、おれはこの行為になんとなく青春を感じてる。


 凪風(なぎかぜ)もたまに来ることはあるが、女子二人はまず来ない。

 まあ寝っ転がると背中に草がついたり、スカートが気になったりするからな。


 って、うとうとしている場合じゃないんだ。今日は豪月に話がある。


「なあ、豪月」


「なんだ」


「お前、何か悩んでいるだろ」


「……ふう」


 一瞬考え、一息ついた後に豪月も態勢を起こす。


「なぜそう思う」


「お前が夢里と同じような目をしていたからだよ」


星空(ほしぞら)か。やはりあの中衛転向は天野(あまの)の差し金だったか」


「差し金っていうか、まあそうだな」


 言い方は悪いが内容は合っている。


 夢里が中衛に転向してから数日。

 彼女は以前よりさらに生き生きとしているように見える。

 今の夢里は新しいことに挑戦している楽しさと、成長を実感している楽しさが溢れているような表情が垣間見える。これからもっと伸びていくだろう。


「オレはな、強くならなければならない」


「うん」


 豪月が話し始めたのでおれは聞く姿勢になる。


「その中でやはりお前たち二人が輝かしく見えた」


 おれと、凪風だな。


「だがオレは迷わん。立ち止まりはしない。少しパーティーを離れているが、いずれ強くなってまたお前たちと合流する。今はオレの在り方について探しているとこだ」


「そっか」


 こいつは心配なかったか。

 豪月の顔は悩んでいるとは言っても下を向いてはいない。


 豪月は自分なりに考えがあるみたいだし、ここでおれがあれこれ口を出すのも野暮だよな。

 

「やはり、お前は優しいな」


「へ?」


「本当に行き詰った時には相談に乗ってくれると助かる」


「任せとけ」


 豪月から向けられたグータッチを返す。

 こいつ、手でかいな。


「それより、迷っていると言えばお前の方じゃないか?」


 ……かもな。


「いや、おれは大丈夫だよ。それよりも話を聞けて良かった。また一緒にダンジョンへ行こう」


「ああ」


 その会話を最後におれたちは校内へと戻った。







 東京ダンジョン第23層中盤。 


「おおッ!」


三剣刃(トゥリア・ラミナ)


 黒いクラゲ型の魔物【ダークジェリー】を斬り刻む。

 

――!!


 だが、すぐさま他の個体は近付いてくる。

 対して、おれは武器を()()()()()


『中級魔法 大渦』


 複数体の【ダークジェリー】は宙に発生した水の渦に飲み込まれ、身動きが取れなくなる。持ち替えた杖により、手で放つより『魔法』は強くなっている。


 その隙に素早くストレージから取り出した大剣を具現化させる。


「うおお!」


(きわみ)一刀いっとう


 体を横に一回転させ、勢いのまま太い剣筋で横に一閃。

 大剣の強みを存分に生かした大きな範囲攻撃で、複数体の【ダークジェリー】を一気に斬る。


「「おお~」」


 後ろから拍手と共に声がかかる。華歩(かほ)夢里(ゆり)だ。


「武器を持ち替えて戦う。ここまで器用なのは(かける)にしか出来ないかもね!」


 確かに夢里の言う通りかもしれない。だけど、


「まだ剣一本の方が強いな」


「はい、その通りだと思います」


 冷静な目で見てくれていたのは(れい)さんだ。


 “あらゆる武器種の潜在能力を引き出す”、おれの覚醒職(アルティメットジョブ)のアビリティを生かそうと試行錯誤しているわけだが、今のところは剣一本で戦っている時の方が強い気がする。


 武器の持ち替え・ストレージからの出し入れという点を考えると、どうしても追撃の遅れや隙が出来てしまうからだ。


「何かないかなあ」


「色々試してみるのは大切な事だ。それに、戦うごとに確実に良くなってはいると思うぞ。だが……」


 麗さんの言いたいことは分かる。

 この先、どれだけ武器入れ替えがスムーズになったとしても、どうしてもその入れ替えの時間は埋められないということだ。


 麗さんは一緒に悩んでくれる。

 自身でもやったことのないであろう、多くの武器を入れ替えながら戦闘をするというスタイルにも向き合ってくれているのだ。


 その中で、麗さんは何か思いついたような表情を見せる。


「武器のオーダーメイドはどうだろう?」


「!」


 オーダーメイド、か。確かにそれなら。

 でも、


「おれに合った武器は作れるのでしょうか」


「分からん。だが聞いて回ってみる価値はある」


「そうですね」


 異世界でも試したことがなかった。

 戦闘中に武器の持ち替えなんて発想はなかったからな。


 麗さんから学んだ、<スキル>間に自分の剣筋を加えて連撃を伸ばす戦い方、戦闘中の武器の入れ替え、現代で新たに学んだことはたくさんある。

 そして、それは同時にまだまだおれにも新たな可能性があることを指している。


 麗さんに負け、新たなスタートを切ったおれはこれからも成長をしていきたい。

 それこそ、勇者時代の全盛期を超えられるような強さを手に入れたい。


 まずは武器のオーダーメイドからだ。 

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