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第64話 思いがけない行動

 壊した壁の先、フィによればこの辺りに『魔法の書』があるという話だが。


「まだ道が続いているみたいだね」


「そう、らしいな……」


 目の前には奥へと続く一本道が現れる。

 その道を折れた剣の刃の部分を持って見つめる。


(かける)、まあそう落ち込むな。前に使っていた武器も持っているだろう?」


 心境が表に出ていたのか、(れい)さんに励まされる。


「あ、はい。一応持ってます」


 フィに周囲に魔物がいないことを確認し、ストレージから武器を出し入れする。


 入学に合わせて購入した剣【デサ・フィリオ】の折れた姿を見て、泣く泣くストレージに戻す。

 お気に入りではあったが、階層も進んだことだしそろそろ新調のタイミングだったかもしれない。DP (ダンジョンポイント)もそれなりには持っている。


「準備は出来たか」


「はい、いけます」


 おれは入学直前まで使っていた【サイクロソード】を携え、すくっと立ち上がる。

 第10層ボス級魔物【サイクロプス】からとれる素材で作られた剣だ。


「かーくん、ごめんね。わたしが最初から『魔法』を使っていれば良かったんだけど」


華歩(かほ)が気にすることじゃない。大丈夫、もう気にしていないよ」


 うんっ! と頷いた華歩の前に立ち、少し狭めの一本道に足を踏み入れる。

 横幅が広くないため、縦一列となって進む。


「この先も魔物の気配はしないわ。安心してゆっくり進んで」


 フィの言葉を信じておれたちは慎重に進む。




 やがて辿り着いたのは、ボス部屋の半分ほどの大きさの部屋だ。

 半分とはいっても、一つのパーティーが魔物と戦闘するには有り余るぐらいの大きさはある。


「あれだね」


 華歩が指した方向、教会に置かれる教壇のような物の上に『魔法の書』があった。


 今回の『魔法の書』はフィの力を使わなくても具現化されているみたいだ。前が特殊だっただけで、本来ならこのようにそのままの形であるのが普通だ。


「へえ。これが噂の『魔法の書』か。実際見るのは初めてだよ」


「私も随分と久しぶりだな」


 凪風(なぎかぜ)と麗さんもこれには興味津々のようだ。

 ダンジョンが好きで『魔法』が好きじゃないという人はほとんどいないだろう。


「どうよー。感謝しなさいよ!」


「うん。ありがとう、フィちゃん」


「そっ、それでいいのよ!」


 フィは自分から言っておいて、華歩の真っ直ぐな感謝に照れてしまったみたいだ。

 それから華歩は改めて一人一人と目を合わせていく。


「本当に、私がもらって良いんだね?」


「いいよ」

「うん、小日和(こびより)さんが似合うかな」

「いいぞ、華歩」


 おれ、凪風、麗さんは快く返事をする。

 ただその中で、


「……」


夢里(ゆり)ちゃん?」


 少し(うつむ)いたまま、夢里は華歩と目を合わせようとしない。


「夢里ちゃん。ごめん私勝手に――」


 華歩が夢里の両肩を手で支えようしたが、夢里はそれをすり抜け、前傾姿勢で教壇を目掛けて手を伸ばす。


「!」


 夢里はそんなことしないと思い込んでいたのかもしれない。

 おれも麗さんも、夢里の行動に反応出来なかった。


「夢里――!」


 おれが声を出した時には、夢里は『魔法の書』に右手を付けていた。


 右手を付けたまま夢里は華歩の方を振り返り、


「華歩、ごめん」


 一言謝った。


「夢里ちゃん……。まって、後ろっ!」


「えっ」


 華歩の方を向いていた夢里の背後で『魔法の書』がバサバサッ! と音を立てて開いているページが高速でめくられている。


「いたっ! な、なに?」


 その挙動には夢里も『魔法の書』から手を放し、右手を抑える。

 『魔法の書』は高速でページがめくられ続けたまま、宙へと上がっていく。


「何が起きているんだ?」


 麗さんも驚きを隠せない。


 あるところで上昇が止まったかと思えばその挙動もぴたりと止まる。

 そして次の瞬間、『魔法の書』は(まばゆ)い光を放出した――。


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