第5話 <スキル>
「大方片付いたかな」
向かってくる魔物は全て倒した。
奥にはまだ【スライム】が見えているが、【スライム】はよほど接近しない限り遠くから襲ってくることはまずない。とりあえず、次に魔物が湧いてくるまでは落ち着けるだろう。
「それにしても、『魔法』が使えないとは焦ったなあ。<スキル>が使えてまだ良かったけど」
<スキル>。それは、修練や武器の扱い方、特定の方法で魔物を倒した時などに後発的に得られる自身の技だ。技術といってもいい。
一度身に付けた<スキル>は構えやイメージなど、<スキル>ごとの“トリガー”を引くことで発動する。
そういえば、上位の職業を授かった人なんかは最初からいくつか<スキル>を持っており、潜在的にトリガーを知っている、ってネットで見たな。
おれは異世界で培った数多の<スキル>を身に付けていることから、今回もトリガーを引くことで発動することが出来た。
そしてそれは、おれの推測が確信に変わった瞬間でもあった。
現代のダンジョンは、おれが救った異世界のものと同じだ。
理屈は分からない。あちらで魔王を討伐した後はさっさとこちらに戻されたわけだし、時間的概念もおれには理解できない。それでも、ここまで同じならばさすがにこれ以上疑いようはない。違いがあるとすれば<ステータス>だけ……ってまてよ。
左手でスマホを拡大する時のような動作をして、<ステータス>コマンドを行う。
指先から円状に広がるように<ステータス>画面が開く。
<ステータス>
天野 翔
職業 “???”
|アビリティ:???
<装備>
【木の剣】【木の盾】
レベル:1
HP :82 /100
MP :10 /10
筋力 :1(+1)
敏捷力:1
耐久力:1(+1)
運 :1
魔力 :1
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この(+)値は【木の剣】と【木の盾】の分だろうな。
レベルは……1のままか。まあ二十年経った現在で確認されてる最高レベルが80ってぐらいだし、第1層で少し狩ったぐらいでは上がらないか。って、今回はそっちじゃなくて、もっと下の画面だ。
おれは<ステータス>画面を下へスワイプしていく。
「やっぱり!」
<ステータス>
<スキル>
<斬刃>
<胴抜き>
<二連撃>
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<精確射撃>
<ヘッドショット>
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<受け流し>
<瞬歩>
<跳躍脚>
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<スキル>が受け継がれている。勇者の時は最終的に剣に収まったが、その過程で色々な武器種を試したことから、おれは弓などの<スキル>も獲得している。
さらに確認したところ、『魔法』もしっかりと引き継いでいるようだ。さっきはいきなり強いものを出し過ぎたからMPが足りなかったのだろうか。
『初級魔法』ならば使えるかも。
そう思い至り、早速違う『魔法』を試す。
『火の球』
≪MPが足りません≫
あれえ? 『初級魔法』でもダメか。
異世界では<ステータス>が存在しなかったため、どの『魔法』がいくつMPを使うか分からないし、同じダンジョンといえどまだ分からないところがあるな。
まあ、これに関してはしょうがない。これからレベルを上げたりする上でMPが増えてくれれば使えるようになるかもしれない。この数多の<スキル>を使えれば当分は大丈夫だろう。
実際、異世界でも同格以上との戦闘の大部分は<スキル>の応酬だった。その上で、フィニッシュの場面や取り巻きを一掃する場面、回復の場面など、要所で使うのが『魔法』といったイメージだ。
その分、『魔法』は<スキル>に比べてド派手で大技のものが多い。『魔法』が見つかるごとに大騒ぎになるのも十分頷ける。
「まあ、今日はこんなとこか。遅くならない内に家に帰ろう」
なにせこの世界ではまだおれは中学生だからな。母さんにも今日の話をしよう。ダンジョン行ってきたなんて言ったら、びっくりするだろうなあ。
★
翔が<ステータス>画面を眺めてウキウキしている頃、彼の戦闘を途中から見ていたこの女性は、陰で身を潜めていた。
「……」
(第1層であの強さ、一体何者? それに、見たことのない子。同い年ぐらいだとは思うけど)
この女性との出会いが翔に齎すものとは――。




