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第49話 作戦実行

 曲がり角の手前、(かける)たちの前を飛ぶフィの二枚の羽が右方へふよふよと動く。

 それに合わせ、五人は陣形を崩すことなくぴったりとフィの後ろを付く。


「この先! この魔物は回避できないわ!」


 先頭のフィが声を上げると、パーティーは進みつつも、フィは徐々にスピードを落として中衛あたりまで下がる。


「突っ切るぞ!」


「任せておけ!」


 そこまで速度を落とすことなく、翔の掛け声でパーティーは魔物とぶつかる準備をする。


――ヴォオオオ!


 進行方向の先、少し広めのスペースで現れたのは三体の【バークウルフ】だ。動きが俊敏(しゅんびん)狡猾(こうかつ)、集団で強力な咆哮を放ってくるのが特徴の魔物だ。


(【バークウルフ】! 中々に厄介だけど!)


「突っ込め、天野(あまの)!」


「了解!」


<大地割り>


 豪月(ごうつき)が両拳で地面を叩きつける。豪月から【バークウルフ】に向かって地面に振動が起こり、地面から三角の棘のようなものが次々と突き上がっていく。それを咄嗟(とっさ)に避けた三体の【バークウルフ】はそれぞれ分断される。


 翔は豪月の行動が分かっていたかのように一番左の【バークウルフ】に突っ込んでいる。


「――うおお!」


<瞬歩> <急所特定> <刺突一閃(イスパーダ)


 翔は【バークウルフ】の核を正確に見極め、勢いのまま一直線に核ごと剣を貫く。


<忍歩> <疾斬刃(ヴォン・スラッシュ)> 


 凪風(なぎかぜ)は中衛から飛び出し、分断された右の【バークウルフ】を斬る。

 凪風は翔から習った<スキル>を、威力を下げ、その分速く手数の多い“忍”専用の<スキル>として習得している。


<急所特定> <三点バースト> <ヘッドショット>


 前衛・中衛が散らばり、視界が開けた後衛からはスナイパーの銃口が顔を出す。

 中央の【バークウルフ】は夢里(ゆり)の銃弾によって撃ち抜かれる。


咆哮(ほうこう)にビビらなければそこまで大した魔物ではない!)


 パーティーは接敵した【バークウルフ】たちを瞬時に一掃。入念な下調べに加え、翔とフィの知識。もはやこの程度では止まりもしない。





「! これ――!」


「フィ、どうした」


 何か気付いたのか、急に止まったフィに翔は反射的に尋ねる。


(一瞬、華歩の顔を見ていた気がしたけど……。)


「……いえ、なんでもないわ! 左にいくわよ!」


 だが、何事も無かったかのようにフィはすぐさま進み始める。


(一体なんだったんだ?)


「フィ、大丈夫かな?」


「大丈夫だと思う。行こう」


 翔も疑問を浮かべつつも、自身にも言い聞かせるように夢里に答える。

 パーティーは再び動き始める。

  




「あそこが出口よ!」


 フィが指し示す方向は最後の一本道の先。

 出口側には物理的に仕込みが出来なかったため、ここからは賭けでしかない。一行は出口側に警備がないことを祈るばかりだ。


――!!


「簡単にはいかせてくれないか」


 扉の直前で立ちはだかるは、縦横3メートルほどの巨大な水色のスライム種【ボムスライム】。スライム種は液体のような体を持ち、大きいほど斬撃が通りにくい。


「私がやる」


 華歩(かほ)が『魔法』を溜めることで周りの四人は華歩から後方へと距離を取る。斬撃は通りにくいが、『魔法』はかなり有効打になる。


「『上級魔法 豪火炎』」


 華歩が口頭で唱え、両手に持つ杖の先が赤色に輝く火の球を形作っていく。


(こんなに大きかったか?)


 【ボムスライム】の大きさには勝たずとも、その半分は埋め尽くすかのような大きさの火の球を構え、最大の大きさになったところで放つ。


――!!


 【ボムスライム】は声のような高い音を出し、火の球に溶かされながら消滅していく。


「い、一撃、ですか……」


「華歩……すっご」


 凪風・夢里もその威力には驚く。華歩はある程度コントロール出来るようになったこの『魔法』を、状況によって連発する為に威力を抑えたりしていた。

 そんな『魔法』を今回は全力で威力に振り切った。華歩の『魔法』の威力は“魔導士”の名に恥じない、かなりの仕上がりになっている。


「進もう!」


 華歩の声ではっとする後方の四人。『魔法』についてよく知る翔も、華歩がここまでの威力を出せることに呆気(あっけ)を取られていた。


 進んだ先、第16層出口側の扉の前には、入口側にあったものと同じ結界が張られている。


「フィ、いけるか?」


「多分!」


 フィはすぐさま小さな手を結界に当てる。入口の結界と同様、感知能力から結界の情報を読み取り、いわばハッキングの要領で結界にひびが入っていく。


「割れるわ!」


 フィが声を上げた直後、結界が壊れるタイミングで全員飛び込む。

 フィが手を離した瞬間に結界は元通りとなる。


 飛び込んだ先、結界の外に警備ロボットはいなかったようだ。


(第17層からこちら側に来る者はそういないだろうとの判断なのか、それとも……。いや、きっと大丈夫だ)


 ここまで来て作戦が失敗だったとは思いたくない翔。半ば自身を言い聞かせるように成功だと考えることにした。


「まだ油断するな。第17層の転移装置(ポータル)を解放するまでは慎重に行こう」


 周りを警戒し、翔は小さな声でみんなに指示を出す。目立つ存在であるフィには一旦戻ってもらった。


 翔を先頭に、第16層の扉を開けてそのまま階段を下りていく。

 その先、第17層の扉に横向きに顔を近付けて中の様子に耳を澄ます。


(……大丈夫そう、か)


 翔は、警戒態勢から後方で武器を構える四人に頷き、扉をそっと開ける。

 顔を覗かせ、実際に目で確認した後、背中側にグッドサインを出す。


「入るぞ」


 小さな声を掛け、なるべく音を立てないよう一行が順に入っていく。


 全員が入るもまだ無言を貫き、翔のジェスチャーで全員第17層の転移装置(ポータル)に手をかざす。

 アイコンタクトの後、事前に話していた通り全員でダンジョン入口へと飛んだ。




 一行はダンジョン入口へと転移し、周りの様子も確認しながら薄暗い道を辿って宿へと戻る。女子陣の二人とは、彼女たちが泊まっているダンジョン入口から最も近い宿の側で別れ、翔たち三人は時間差で各々部屋へと戻っていく。


 現時刻は午前四時十分。だいたい予定通りである。


(たとえ地図を知っていて難易度が高くないとしても、普通は階層を突破するのに最低六時間は要するだろう。フィの感知能力は偉大だ)


 パーティーの次の集合は午前十時。みんな頭に入っているだろう、とは思いつつも、翔は念のため<ステータス>内のパーティーチャットで一言流しておいた。


 翔はチャットの反応を確認することなく、タイマーをセットしてベッドで横になる。仮眠をとったとはいえ、やはりこの時間に活動するのは中々きつかった。緊張などによる疲れもあるのも確かだ。


(まあ、なにはともあれ、作戦は成功だ……!)


 緊張が解けたせいか、翔は今になって喜びの感情が()く。その喜びのニヤけ顔と共に、満足そうに眠る翔であった。








「何者かの侵入の跡、ですか……」


「ああ。うまく侵入したみたいだが、俺の目は誤魔化せないよ」


「で、ですが警備ロボットにそのような痕跡は見当たりませんでしたが……」


「……」

 

 “JPS"と胸に刻まれた装備を身に付けるある男とその部下が話している。朝、様子を見に来たタイミングで第16層入口にてある男が違和感に気付いた。


(こんな階層に現れるはずのない召喚門(サモンゲート)に、謎の複数の侵入者。これが繋がっているとすれば……)


 バキンッ。


「ひいっ!」


 男が手に持っていた岩石を握り砕いたことで部下が怯える。 


(放ってはおけん)

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