第40話 かつての仲間、出でる化け物
なんで今になってシンファが。ここは現代、異世界ではないんだぞ。
「待て! 待てって、フィ!」
「ダメ! 早く付いて来て!」
フィのことは信頼している。おっちょこちょいでいたずらっ子だが、肝心な時は頼れる奴でこんな時にふざけるような奴じゃないのは分かってる。
それでもまだフィの言葉を信じ切れていない。
シンファ。おれが勇者時代に共に旅をしたサポーター。おれが最も信頼していた最高のサポーターだ。
「ここを真っ直ぐ!」
フィの言葉からは明らかな焦りを感じる。もし本当にシンファがいるとしたら、彼女の身に一体何が起きているんだ?
「この扉をぶっ壊して!」
「ああ!」
<斬刃>
フィに言われて扉を破壊する。
中は先程の中ボス部屋並みに広く、かつ暗めの部屋だ。
「シンファ!」
フィは迷うことなく奥へ飛んでいき、倒れている人の元へ駆け寄る。すでに感知能力で位置がわかっていたのだろう。
フィに続き、俺たちも倒れている人に近付く。
って、まじかよ。
「シン……ファ?」
全身を白色を基軸とした装備で包み、彼女の金髪を少し出したその特徴的な大きなベレー帽ようなものな被り物。シンファの【聖なる装備】だ。
顔、装備、様相。間違いない、おれが一緒に旅をしてきたシンファだ。
「シンファ! おい、しっかりしろ! おれだ、“カケル”だよ!」
なぜここにいるのか、そんなことは今はどうでも良い。こんなとこで目を瞑っていれば、いくら彼女とはいえ魔物が来れば一溜まりもない。
「!」
隣のフィの二枚の羽がぴょこんと上に跳ねる。
おい、冗談だろ。
「カケル……」
フィが怯えた顔でこちらを見てくる。
フィのこの羽の挙動は合図だ。強敵の合図。それも、異世界で最後まで共に旅をしたフィが強敵だと感じる強敵。今のおれたちではとてもじゃないが……。
「かー、くん。あれ……なに?」
華歩が指差す方向、おれたちが入って来た扉の方に、巨大な黒色の禍々しい渦が出現している。あれは!
「召喚門。私でも見たのは初めてだぞ」
麗さんが信じられないといった様子で口を開く。
あんなもの、第16層に出現して良いものじゃない。しかも、召喚門から現れるのは決まって凶悪な魔物。フィが感じ取ったのはこれか。
「フィ、何か来るのか?」
「ダメ、絶対に戦っちゃいけない! 早く逃げるのよ!」
おれもそうしたいのは山々だが、あんな巨大な召喚門に塞がれては帰れない。
「――! そこから離れてぇ!」
「えっ?」
フィが声を上げた瞬間、召喚門から真っ黒の大きな腕が飛び出してくる。まずい!
「夢里!」
キィン! と甲高い音を立てて麗さんが夢里を守った。が、
「ぐ、ぐうおおぉぉぉ。! ――ぐぁっ!」
黒い腕の勢いを抑えきることが出来ず、麗さんが壁まで吹き飛ばされて激突する。
「麗さん! くそっ、二人ともそこから離れろ!」
掛け声ではっとしたのか、華歩と夢里は部屋の奥側、おれの方まで退避する。
「麗さん、大丈夫ですか! 麗さん!」
夢里は自分を庇った麗さんに対して、心配と後悔が混じったような声で麗さんに声をかける。
「大、丈夫、だ。心配するな。お前たちは、私が、必ず……守ってみせる」
おれたちを守るために立ち上がろうとする麗さんだが、傷がひどい。
「かーくん! 麗さんの傷が塞がらないよ!」
「なんだって!」
回復薬を施しているのは華歩だ。だが、麗さんの受けた傷が塞がらないみたいだ。
「どいて!」
それを聞いたフィが麗さんの傷口付近にその小さな手を伸ばす。黒い腕の爪が引っ掛かったか、麗さんは下腹部から大量の血を流している。
「そんな……これは、“呪いの刻印”?」
「フィ、なんだそれは。麗さんはどうなっているんだ!」
「今は説明をしている暇は無いわ! とにかく絶対にあいつと戦っちゃダメ! 麗さんとシンファを担いで逃げるしかないのよ! さもないと全滅だわ!」
珍しくフィが声を荒げる。
「だからってすでに入口は――」
「翔!」
夢里の声に反応して巨大な召喚門の方を振り向く。
「カ、カケル……」
「かーくん……」
「なん、だ、あの、化け物は……」
巨大な召喚門から姿を現したのは、全身を漆黒の毛皮で覆い、ドラゴンのような顔をした二本足の化け物だ。
あれは漆黒の炎を全身から放つドラゴン【ブラックサラマンダー】、いや、地獄の番犬【ヘル・ハウンド】か? ……違う、そのどちらでもない。
まさかその混合種なのか? バカな。どっちも第60層クラスの化け物だぞ。
――ヴオォォォォォ!!
その威嚇ともとれる巨大な雄叫びが部屋中に響く。




