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第39話 任務と不穏

 第15層、中ボス部屋にてパーティーが対峙するのは【ダークスパイダー】。

 多数の足に黒紫色の体を持った巨大な蜘蛛(くも)だ。その口から出される広範囲の糸に引っかかりでもすれば、身動きが取れぬまま餌食となる。さらに、その糸は並の剣筋では刃が通らないほど強靭な糸であり、対処法は“(かわ)す”のみである。


――キシャァァァ!!


 なお、巣より現れ出る【ダークスパイダー】には子、取り巻きがいる。

 便宜上、女王蜘蛛である巨大な個体のみを【ダークスパイダー】と呼んでいるが、この取り巻きも小さいながらに厄介な存在には変わりない。


華歩(かほ)! 頼む!」


「任せて! 『上級魔法 豪火炎』」


 (かける)の合図で華歩が『魔法』を放つ。

 蜘蛛種への一番の有効打であり、範囲攻撃としても優れている華歩の火の『魔法』で【ダークスパイダー】の周りにいる取り巻きを焼き払う。


「「シャァァァ!」」


「!」


 だが、数が多いばかりに通り抜けてきたものがいるようだ。

 それでも、この陣形にはさらに後方に頼れる“銃使い”がいる。


「「――ギャッ!」」


「夢里ちゃん!」


 華歩が振り向いた先、後方では夢里がスナイパー式の銃に片目を当てつつグッドサインを出している。


「近付けさせないよ! 華歩はどんどん『魔法』を放っちゃって!」


「うん!」


 【ダークスパイダー】を囲うように、華歩が一発、二発と次々に『魔法』を放っていく。周囲を炎の円で覆っていき、炎の円の中にいる小さな個体は夢里がその正確な射撃で確実に撃ち抜く。


 華歩と夢里の働きにより、気が付けば炎の円の中にいるのは一行と【ダークスパイダー】となった。こうなれば彼らの出番だ。


「いくぞ翔!」

「はい!」


 機を見計らって剣士二人が一気に距離を詰めていく。


<瞬歩> <緩急移動(チェンジオブペース)> <陽動(フェイント)

<瞬歩> <攻撃予測> <受け流し(パリィ)




 【ダークスパイダー】が持つ多数の足の攻撃に対し、三つの移動系<スキル>による圧倒的運動量で視界に捉えることすらさせない麗、<受け流し(パリィ)>でダメージを最小限に抑えつつ最短距離を突き進む翔。

 両者スタイルは違えど目指す先は同じ。上だ。

 

――ギジャァァァ!


 距離を詰めてきた二人に満を持して吐いた糸にも、当然引っ掛かることはなく。

 二人は岩を蹴って飛び上がり、【ダークスパイダー】の上を取った。


「はああああ!」

「うおおおお!」


四点斬撃(クリスタル・アーツ)

十字刺突一閃クロス・オーバードライブ


 麗のひし形を形作る斬撃に、翔の十字の斬撃を合わせ、中心の大きく弱った【ダークスパイダー】の背中部分を目掛けて、翔が閃光を走らせる剣を突き差す。翔の剣は勢いを止めることなく、そのまま巨大な体を真っ二つにした。


 巨大個体である【ダークスパイダー】を倒したことにより、部屋内の巣・取り巻きは消滅していく。戦闘仕様により(ともしび)のみだった中ボス部屋にも明かり付いていく。

 

「これで、任務は達成だな」


「はい。ありがとうございました」


 麗が出してきたグータッチに、翔もグーで応える。


「やるわね……清流 麗」


 戦闘が終わるや否や、翔の中から現れ出るフィ。どうやら彼女を認めたようだ。


「お疲れ様です! 麗さん、すごくかっこよかったです!」

「お疲れ様です。かーくんもね」


 続いて後方の夢里・華歩も、戦闘が終わったことで二人の元に歩いて寄ってくる。


「ああ。お疲れ様。みんな本当によくやった。予想以上、いや予想を遥かに超えていたよ。これが一年生とはね。頼もしいやら恐ろしいやらだな」


 麗は場を和ませつつ、三人に賛辞(さんじ)を贈る。


(こうは言っているけど、やっぱり(じか)に見た麗さんは凄かった)


 階層を進んでいく中においても【ダークスパイダー】との戦闘においても、まだまだ余裕を残す麗に対して、現時点では少し差を感じてしまう翔であった。


「任務である【ダークスパイダー】は討伐した。さあ、第16層の“転移装置(ポータル)を解放して帰還しよう」


「「「はい!」」」


 先導する麗に続き、一行は第16層の扉を開いた。





 第16層の扉を開けた先、初めて来た翔・華歩・夢里の三人が“転移装置(ポータル)に手を触れることで認識が完了したため、後は帰るのみ。

 の、はずだった。


「フィ? どうしたんだ、帰るぞ」


 第16層の先へ続く道を見つめ、翔の腕を掴んで離さないフィ。


「……嘘。そんなことって。いや、でも確かに……」


 フィは普段から自慢しているその感知能力を自分で疑っている様子。


「どうした、何か感知したのか」


 フィが彼女が顔を青ざめて震えていることに気付いた翔。これには翔も異常を感じ取る。


「翔、何かあったか」


 そんな二人を心配して声をかける麗。だが、


「――まずい! このままじゃ!」


 掴んでいた翔の腕をぱっと離し、途端に全速力で第16層を突き進んでいくフィ。


「フィ!? 待て! どうしたっていうんだ!」 


 突然の出来事に混乱しつつも、飛んでいくフィを追いかける翔。

 フィを追いかける翔、そして状況は飲み込めないが翔とフィを放っておくことも出来ず、翔に付いて行く麗・華歩・夢里の三人。


「間違いない、シンファよ! 横になっているシンファの気配がするの! 近くにすごく強力な魔物の気配も!」


(シンファ、だって……?)


 フィを追いかける中で激しく動揺する翔。

 それもそのはず、翔にとってその名前は現代で聞くはずのない名前。異世界で別れを告げ、翔自身もう聞くことはないだろうと思っていた名前。


 シンファ。翔が勇者だった頃に同じパーティーメンバーだったサポーターであり、翔が最も信頼を置いていた人物の一人。知る限り、回復と支援においては彼女以上に頼りになる者はいない、翔自身そう思っている人物だ。


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