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第36話 そして次へ

 体が軽い。七色(ななしき)さんの強化(バフ)だ。これなら!


「豪月!」


「おう!」


 畳み掛ける! まずはあの凪風(なぎかぜ)っていう気に食わない奴からだ!


「……」


 



「ちっ、逃げ惑いやがって」


 凪風はおれと豪月が何度か攻撃を仕掛けるも、それに対して全く付き合わない。

 おれが<スキル>で距離を詰めようとすれば、瓦礫(がれき)や自身の身のこなしで一定の距離を取り続ける。まるで自身の勝敗には興味が無く、あくまでパーティーとしての勝ちのみを見ているみたいだ。

 類まれなる戦闘センスを持ちながらも、パーティー戦では一番厄介なタイプだ。


「――ッ!」

「ぐはっ!」


 <攻撃予測>により一瞬見えた射線に反応し、その弾をギリギリのところで(かわ)す。

 加えて、これだ。凪風だけならまだしも、夢里(ゆり)の援護射撃のタイミングが絶妙過ぎる。豪月はまだ一度たりとも反応すら出来ていない。華歩もどこから『魔法』を放ってくるか分からない。


「どうする、兄弟」


「ああ、困ったな」


 豪月も夢里の射撃でかなり削られているはず。各々のHP値を確認している先生の「()め」の指示があるまで、あと少しだけかもしれない。

 そんなおれたちに後方から声がかかる。


「前線を押し上げましょう」


「お前、ここは危険だぞ!」


 七色さんだ。

 遠目から軽い牽制をしてくる凪風の攻撃を豪月が弾きつつ、彼女の話を聞く。


「大丈夫です。それに私たちは一つのパーティーでしょう?」


 胸の前で包む手が(わず)かに()色に光る。

 まさか、まだ何かあるのか?


「いいから下がれ!」


「いや!」


 豪月の提言をおれが止める。


「ここは七色さんを信頼しよう」


「……わかった」


 おれの言葉でようやく首を縦に振った豪月が立ち回りを変え、七色さんの言う通りじりじりと前線を押し上げる方向にシフトする。

 こうやってすぐに対応できる面からも、バカなようで実はしっかりと考えている奴なんだと実感する。


華歩(かほ)ちゃん、夢里ちゃん」


 こちらの狙いに気付いたのか、凪風が後方で身を隠す二人に指示を出している。


 こいつ、即席のパーティーで華歩だけじゃなく夢里まで下の名前で呼びやがって!

許さん。……っとあぶないあぶない、これもきっと奴の挑発だ。冷静さを失えば簡単に崩れかねない。終わった後で一言、がつんと言ってやればいい。


「では、いきます」


七色さんの掛け声に合わせておれがその場を大きく蹴り上げ、足元の瓦礫(がれき)を浮かばせる。


()ぎ払い> <精密射撃>


 右側に剣を構えた状態から体全体を半回転、剣を思いっきり振り回すことで瓦礫(がれき)を弾いて飛ばす。<スキル>により、その一粒一粒が凪風(なぎかぜ)を正確に狙う。


「ぐっ――!」


 凪風は岩の陰に入る事でおれの射線を切った。

 その間、七色さんは声の音色により赤色の狐のシルエット“こんちゃん”を出現させる。すでに解けていた強化(バフ)を再度かけてもらう。


「豪月!」


「任せろ!」


 動きと力を強化(バフ)された豪月が、凪風の潜む岩を自身の拳でぶち壊す。


「!」


 体が(さら)された凪風をフォローすべく、奥の華歩が姿を現した。


「ダメだ! 華歩ちゃん!」


「え?」


 よく気付いたな。おれの狙いは始めから……


「させないよ! (かける)!」


 夢里だ。

 姿を現した華歩をさらにフォローしようと、後方から出した夢里の銃口を視界に(とら)える。


「ちょっと乱暴だけど許せ!」


<急所特定> <精密射撃> <投剣術>


 サイドスローの要領でトリガーを引いた<投剣術>の効果で、おれの投げた剣は真っすぐに飛んでいき、二つの<スキル>補正が乗った剣は夢里の銃を正確に貫く。

 バキィッ! と音を立て、夢里が固定していたスナイパー式の銃が破壊される。


「やばっ!」


 おれが剣を投げたのと同タイミングで、七色さんは手を広げ、今までとは違う()()音色を出した。少し見上げて音色を出したから彼女は、青色に光る目をちらりと(のぞ)かせる。


「ガオン、出番だよ」


 心なしか低い声で現れ出たのは、青色をした大きなライオンのシルエット。


「決めて」


――ヴォォォォォ!!


「――ぐうっ!」

「きゃあ!」


 青色のライオン、“ガオン”の咆哮(ほうこう)と共に口から放たれた青く太い光線が、模擬場を縦に切り裂く。

 ……まじかよ。


「そこまでだ!」


 ガオンの光線が消えたタイミングで先生から待ったがかかる。


「両パーティーここまで! 第一模擬戦はパーティー1の勝利だ。各自、落ち着いた者から【装備】を外して観客席で以降の模擬戦を見るように。講評は(のち)にまとめて行う」


 先生の指示だ。周りではどよめきが起きている。


 それより!


「大丈夫。当ててはいないわ」


 七色さんの言葉にほっとしながらも、華歩の近くに駆け寄る。

 華歩は呆然(ぼうぜん)としてその場にすとん、と座り込んでしまっている。


「負けたん、だね、わたしたち。かーくんたちに」


 華歩は(うつむ)きつつも、そこまで暗くない声で言葉を発する。

 彼女はこう言うが、正直


「パーティーの力では完全にそっちの方が勝っていたよ」


「そうかな……でもやっぱり、悔しいな」


 顔を上げ、おれの肩を借りてすくっと立ち上がる華歩。


「次は絶対負けないよ」


「ああ!」


 闘争心が混じりつつも、清々しい笑顔をこちらに向ける。彼女はこれからも伸び続けるだろうな。


 華歩と話した後は、奥の夢里の元へ寄る。

 

「大丈夫か?」


「何がだよー。武器破壊なんて銃系“職業(ジョブ)が一番やられちゃいけないことだよ、まったくさー」


 平然を装っているが、夢里の表情には悔しさが(にじ)み出ているのが分かる。だが彼女も、


「これで終わりじゃないよ。もう、負けないから。たとえ翔にだってね」


 すでに前を向いている。強いな、華歩も夢里も。


「またやろう」


「ふんっ、やーだね」


「ってなんでだよ! 今そうゆう流れだったじゃねえか!」


「冗談だってー。でもこれで一旦、しばらくはまたダンジョン付き合ってよね」


 身長が大きくない夢里が、下から上目遣いでじっと見てくる。

 ずるいだろそれ。まあそんなことしなくても答えは決まっているけどな。


「もちろん」


 



 二人は大丈夫そうだ。それはそうだろう。二人も立派なAクラスの一員なんだ。いちいち気にかける方が反って失礼なのかもしれない。


 てことで、さーてと凪風の奴を一発殴るか。

 そんな意気込みで凪風の元に寄ると、彼は豪月と話をしていた。


「負けたよ。君たちの勝ちだ。いやあ完敗だよ、本当に」


 ヘラヘラした凪風は豪月に握手を求める。が、豪月はそれを払いのける。


「つばさ。お前は本当にそう思っているのか」


「どうゆう意味かな」


 まだにっこりとした笑顔を保っている凪風に豪月が続けて言葉を投げる。


「お前はそう見えても、相当な悔しがり屋なのは知っている。それで良いのか? と聞いているんだ」


 そうなのか? おれにはそう見えなかったけど。


「……ああ、そうだよ」


 凪風の声が低くなる。


「良いわけないだろ。豪月、君に負けたのは初めてだよ! 平然を装って、余裕を見せてきたけど、僕はずっと君を意識してた。いつか抜かされるんじゃないかってね」


 下を向いて言葉にする凪風を、豪月は少しも目を逸らすことなく見ている。


「次は勝つ。見てろ、豪月」


 顔を上げ、先程までとは全く違った目付きで豪月を睨む凪風。


「ふん、それでいい。お前は昔からそうゆう奴だ。だがおれも、今回お前に勝てたとは思っていない。次は一対一だ。それでお前に勝ってこそ本当の勝利というものだ」


 今度は豪月から手を差し出し、両者が握手を交わす。


「君もだよ、天野(あまの) (かける)


 凪風が顔をこちらに向けて話しかけてくる。気付いていたのか。


「僕はこの学校でも一番を取る。肝に銘じておけ」


「そっちこそ。おれだって勝ったとは思っていないよ。次は完全勝利する」


 この学校は、こうして時にぶつかり合い、励まし合いながら、お互いに高め合って次へと繋がっていくのだろう、そう心から感じた模擬戦だった。おれの国探での生活はまだ始まったばかりだ。

 

 華歩・夢里との記念すべき第一戦、おれの勝ち。

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