第35話 厄介
先生の合図で模擬戦が開始する。
豪月は敵パーティーで唯一姿を現す前衛であり、銀の髪をした小柄で細身の男、凪風翼に突っ込んだ。
「つばさああ!」
模擬場のちょうど真ん中を分ける戦で二人がぶつかる。
豪月の“拳闘士”のグローブのパンチを、凪風 翼は両手に持つ小刀をクロスして受け止める。
「相変わらず気性が荒いね」
「そうゆうお前は相変わらずクールだなあ!」
ガキンッ! と音を立て、両者は一旦距離を取る。
(エリート養成校か何かの顔見知りか?)
二人のやり取りに翔は思考を巡らせつつ、豪月のフォローに入る。
翔の予想は当たっていた。翔自身“エリート養成校”が何なのかよく分かっていないが、そこがダンジョンにまつわるエリートを育てるために造られた、豪月の出身中学であることは昨日聞いていた。
そして、豪月はそのエリート養成校のNO.2。豪月も強いのだが、今まさに対峙している凪風 翼の存在によって名声(と女子の人気)を奪われてきたのだ。
「君はもっと冷静に戦況を見ることを覚えた方が良いんじゃないかな」
凪風 翼。エリート養成校NO.1の実力者。職業“忍者”。
「なんだとこのっ!」
凪風の挑発に翻弄される豪月。中学からの因縁、というのも起因しているだろう。
「落ち着け豪月! それじゃ相手の思うつぼ――」
「今だよ! 華歩ちゃん!」
(はああ!? てめえなにいきなり下の名前で呼んでんだよ!)
豪月を抑えようとする翔だったが、二人仲良く凪風の挑発に乗せられたようだ。
「うん!」
華歩が岩陰から姿を現す。『魔法』は華歩の前ですでに完成されている。凪風が自身の<スキル>で華歩の『魔法』の気配を消していたのだ。
「『上級魔法 豪火炎』」
今となっては魔力パラメータが100を超える華歩の『魔法』の威力は強大。
「下がれ豪月!」
「わかって――っがは!」
(豪月? ――!)
豪月の頭にクリーンヒットし、続けて翔の首元を掠めたのは夢里の銃弾。
「んー、それに反応するかー。さすが翔だね」
「くそっ!」
(敵に回すとなんて厄介なんだ!)
ふらついた豪月を華歩の『魔法』から庇うように飛び出した翔は、咄嗟に
<受け流し>と最も出が早い<斬刃>で対応したが、華歩の『魔法』はそれだけではとても受けきれるものではない。
「これはラッキーだね。本命が飛び込んでくれるとは」
「このっ!」
翼に一歩踏み出そうとする翔だが、豪月に背後から掴まれ後方に放り投げられる。七色 彩歌の方向だ。
「回復してもらえ!」
(だからって投げることねーだろ!)
翔はなんとか着地。その岩陰には作戦会議の時と同じポーズ、胸の前で手を包む格好をした七色が立っている。
そして、目を瞑った七色は模擬場内に響く綺麗な声の音色を出した。
「おいで」
七色の、音色に続けて出した掛け声から彼女の頭上に現れ出たのは、薄い緑色をした鳩のようなシルエットだ。実体はない。
「きゅいちゃん、回復」
「きゅいっ」
七色の掛け声でその鳩(きゅいちゃん)が翔の頭上を回る。鳩から降り注がれる、シルエットと同じ薄い緑色をした不思議な光が翔を癒していく。
「すごい……。助かったよ、ありがとう」
「いいえ、それより」
七色が指をさす方向には豪月。おれが回復する間、一人で戦線を保ってくれたようだ。
「天野くんは先にいって。私が支援します」
「わかった!」
回復を施してもらい、戦線に復帰する翔の後方で、七色は先程より少し低めの音色を出す。
その音色で現れるのは赤色の狐のシルエットだ。
「こんちゃん、強化」
「こんっ!」
七色の掛け声を受けた赤色の狐のシルエット、“こんちゃん”は「うぉぉぉん」と遠吠えをする。
「うおっ!?」
「体が軽い!」
翔と豪月の体が赤く光り、より身軽になる。七色の指示で赤色の狐のシルエットが二人に強化を行ったようだ。
七色 彩歌。職業“召喚士”。自身の声の音色で複数の使い魔を召喚して戦うサポーターである。
「後半、巻き返しましょう」




