第32話 実力主義
今日は登校初日のため、国立探索者学校では入学式が開かれる。といっても面倒な慣例などは一切なく、生徒は一年生だけが出席するようだ。さらに言えば、探索科は探索科のみで入学式を行うらしく、産業科・研究科とは違う施設で開かれる。
おれたち三人は教室で荷物を置いた後に、事前の案内通りすぐに入学式の開かれる施設へ向かった。
「校内が広すぎるのってのも考えものだよねー」
「まあまあ、それだけ何でも揃ってるってことだよ」
「それはそうだけどさー」
そんな待遇にも関わらず入学式を面倒そうにしている者が一名、夢里だ。まあ、かくいうおれも面倒ではないと言えば嘘になるけど。
「話長いのかなー」
「うーん、どうだろう。やっぱりかーくんも授業が待ちきれないんだね」
入学式を面倒くさがるおれたちの予想は、良い意味で裏切られることになる。
入学式が始まって早々に、学校長が教壇に上がる。顔写真は見た事あったがこうして全体を見ると……ムキムキだ。元トップ探索者とは聞いていたが、雰囲気ありすぎだろ。
「まずは、合格おめでとう。学校長の大蔵です」
あ、その名字おおくらじゃないんだ……。普通に間違えてた。
「本来ならばさらに賛辞を贈るべきなのでしょうが、こんな事であなたたちの時間を奪うつもりはありません。私から探索科の皆さんに言いたいことは一つ」
校長の目力が一層増す。
「今日より始まる三年間、互いに切磋琢磨し、競い、高め合え。それだけです。この意味は後にご自身で痛いほどご理解いただけるでしょう」
周りの拍手に合わせておれも一応手を叩く。それにしても最後の意味ってなんだろう。
続いて在校生代表、そう呼ばれて教壇に上がったのは清流 麗だ。
「諸君、合格おめでとう。私も長く話すことは無い。今回の私に任された役目はただ一つの宣言だ。これは今後君達の学校生活をも左右することになるだろう」
宣言?
「これより、探索科一年全員に、“模擬戦の自由権”の行使を認める」
“模擬戦の自由権”! これのことか!
「これに関しては事前に知っている者も多いだろうが、この場で今一度説明しておこうと思う。まず――」
“模擬戦”とは、この学校が生み出した“ダンジョン環境”において互いに戦うこと。おれが初めて来た時に目にしたものだ。そしてその自由権とは、模擬戦を誰にでも申し込むことの出来る権利だ。
「そして探索科にはAクラス、Bクラス、Cクラスと、“筆記”と“探索”を含めた入試の成績順にクラス分けがなされている」
そう。そして幸い、おれ・夢里・華歩は三人ともAクラス。だが、
「これに不満を持つものもいるだろう。特にBクラス、Cクラスの生徒ども。不満があるならAクラスの者に挑め。模擬戦の成績によってはすぐにでも入れ替わりが実行される。諸君、上に上がりたいなら、地位を保ちたいなら、共に競い、共に励め」
夢里に聞いていた通りだ。
これが模擬戦の良いシステムでもあり、同時に怖いシステムでもある。まさに実力主義を象徴するシステムだ。このシステムがあるため、一年生は最もクラス再編が激しい時期だという。
「私からは以上。なお、もちろん上級生にも模擬戦を挑むことは許可されている。私への挑戦も待っているぞ」
そう言い残し、彼女は檀上を去った。
入学式はこれで閉会。
しかし、教員の指示で席を立つ中、横を向けば明らかに隣のBクラス、もう一つ奥のCクラスのおれたちを見る目付きが変わった。その目はまるで獣。今にでも襲ってきそうだ。
ワクワクかプレッシャーか、鼓動は高鳴るばかりだ。確かに競争は激しいかもしれない。それでも、おれは意味のある学校生活にしたい。よし、どんな奴でもかかってこい。
「おい! 天野翔ってのはどいつだ!」
……だからっていきなり来て良いとは言ってないんだな。




