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第20話 華歩と夢里

 あーあ、どうして学校って週に5日もあるんだろう。早く放課後にならないかなあ。

 登校中からすでにこんなことを考えているのもどうかと思うけどね。せめていい事でもあれば良いんだけど。


「おはよっ」


 下駄箱を過ぎた先、それぞれクラスへと別れるところで後ろから聞き馴染みのある声がする。


「おはよう、華歩(かほ)


 彼女の前までとは変わらない様子に少し安心する。が、逆に昨日あんなことがあったのにそのいつも通りすぎる態度に少しがっかりもしていた。

 しかしそう思ったのも(つか)の間、華歩はふいにおれの耳辺りに顔を近付けてくる。


「じゃ、放課後にね」


 そう言うと、さっと顔を遠ざけて小走りでクラスへと向かって行った。

 彼女のほんのり甘い香りと、同時に伝わってきた言葉にドキドキしてしまう。


 いつも通りじゃなかった! もちろん良い意味で!


 これだけでおれは一日頑張れる。めんどくさかったけど学校来て良かった~。




◇◇◇





「ういーっす」


「おっそ! どんだけ待ったと思ってんの!」


「いやいや、おれの方が学校遠いんだから仕方ないだろ」


「あれ、華歩は? てっきり一緒に来るかと思ってたけど」


「ああ、華歩はちょっと遅れるみたいだ」


「ふーん」


 嘘だ。華歩には少しの間、フィと違う場所で待ってもらっている。今から夢里(ゆり)に話をするためだ。


「で、その顔は何か言いたいことでもあるのかな?」


「! やっぱ鋭いよな、夢里は」


 話が早くて助かる。


「夢里にも話しておこうと思うんだ」





 それはもちろん異世界転生の話。

 華歩にこのことを話したのはごく自然な流れだった。でも、夢里に話す必要があるかと言われれば、無いというのが正しい。

 そんな中でおれが夢里にも話したのは、あえて言葉にするなら()()()だと思ったから。フィの存在もあやふやにして、パーティーの中で唯一夢里が事情を知らないというのもなんだか嫌だった。


 彼女は「またまたー」などと言いながらも、おれが真剣な表情で話すのをしっかりと聞いてくれた。何を考え、何を思ったかは分からないが、戸惑っているようには見えた。





「大丈夫? 夢里」


「えっ。いや、何が? 全然! 私は大丈夫だよ。ほら、元気~」


 夢里はそのか細い腕で力こぶを見せてくる。相変わらず(ふく)らんではいない。


「「……」」


 微妙な空気が流れる。

 やっぱり、いきなりこんな話しても困ってしまうよな。


コンコン。


 そこに個室をノックする音が鳴る。ちょうどいいタイミング、さすがだ。


「おじゃましまーす」

「しまーす」


「あ! 華歩! フィ!」


「やっほー夢里ちゃん。少し遅くなったね」


 華歩とフィの登場で重い空気は去った。

 夢里には悪いことをしたかな。いや、これで良かったはずだ。あとは、ゆっくりと夢里が飲み込んでくれることを待とう。


 ダンジョン街、華歩の一件からすでに待ち合わせ場所になったこのカフェで華歩とも合流し、早速今日からの方針や陣形なんかを練る。

 昨日やっておけよって話だが、昨日は盛り上がったんだ。しょうがないだろう。

 

「まあ基本はおれが前衛、華歩が中衛、夢里が後衛だろうな」


「だよねー」

「わたしも異論はないよ」





 いくつか話し合ったわけだが、おれの提案を二人がすんなり賛成してくれるおかげでスムーズに進む。もちろん、彼女たちも自分の意見は持っている方だ。二人の考えも取り入れ、会話を重ね、より良い形にもっていく。


「とりあえずはそんなところかな。他に何か確認しておきたいこととかある人?」


「わたしはないかな」


「……」


「夢里?」


 夢里が控えめに手を上げたので、おれが(うなづ)くことで彼女に話すよう促す。


「じゃあ私から。……華歩のことなんだけど」


「夢里、ちゃん?」


 少し空気が重たく……はならず、


「あ、いや、悪い事を言おうってわけじゃないんだ。今は仲間として一緒にやっていきたいって思ってるよ! ただ、どうして【ホブゴブリン】なんかを? 正直、華歩にも私にも敵うレベルとは思えない。やっぱりレアアイテム狙いで?」


 華歩は少し間を置き、意を決したように前を向いて口を開いた。


「わたしね、“魔導士”なの」


 “魔導士”! “魔法系職業(ジョブ)”のそれなりに上位の職業(ジョブ)だ。だが……


「上位の職業(ジョブ)ではあるの。それもあって小さい頃に“魔導士(そう)”だと診断されてから、すっごくダンジョンに興味を持った。まあ、誰かさんはダンジョンを嫌っていたけどね」


 ちらっと横にいるおれを見てくるので、同じ分だけ視線を横にずらす。


「まあそれは良いわ。それでね、分かるかもしれないけど“魔導士”は『魔法』があってこその“職業(ジョブ)。正直、“魔導士”の<スキル>なんかあったって他の“職業(ジョブ)”には遠く及ばない」


 彼女の言っている事は正しい。現に“魔法系職業(ジョブ)”は序盤を乗り越えられず、早々に引退を決意する者が一番多い系統だと聞く。


「同世代の誰よりも早くダンジョンに興味を持った。誰よりもダンジョンが好きだった。でも、『魔法』なしの“魔導士”じゃ追いていかれるのをただ見ているだけ。それがものすごく悔しかったの」


「それで、レアアイテムが“『魔法』の書”だったらって、思ったんだね」


 夢里が辛い事を言わせてしまったね、と言わんばかりに華歩の背中をさすりながら優しく言葉を添える。


「ええ。“隠し部屋”はすでに空いていたわ。【ホブゴブリン】が出てきたのもそのせいね。結局レアアイテムも見つからなかったし……。わたしは焦っていたみたいね。でも今は、心強い仲間がいるから。誰かさんの言葉を借りると、“一緒に歩んでいきたい”って思ってる」


 ふふっ、と微笑みながらこちらを見てくる。

 今思うとちょっと恥ずかしいセリフかもしれない。


「そっか。話してくれてありがとう華歩。これから一緒に頑張ろう」


「うん」


 女の子同士の友情も素晴らしいな。となると、おれの仕事は……


「二人とも、提案があるんだけど」


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