第19話 仲間
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「カケル! お前だけでも生き残れ! お前が最後の希望なんだ!」
「助けて! 助けてよ勇者様! きゃああああ」
「なんで、母さんを助けてくれなかったの? お兄ちゃんは、すごく強い勇者様じゃ、なかったの?」
「この身、勇者様の代わりになれたのなら本望です……」
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異世界での記憶。思い出そうとすればいつでも蘇ってくる。
良かった事ばかりではない。魔物たちの住処としてのダンジョンの他に、魔王をはじめとする魔物たちは外で住処を作り、国を建てていた。
転生したばかり、何も出来なかった頃のおれはいつも誰かに守られていた。情けない自分が許せなくて、弱いながらに先頭へ立とうとした結果、色んな人を巻き込んでしまったこともある。
ダンジョンを脱出し、秘密の会議用とでも言える周りへ声が漏れない完全個室のカフェ、机を挟んだ先の華歩にそんな話をする。
男としては苦労や苦心は隠したいところだ。だけど、「話して」とその悲しげともとれる顔で言う華歩に対して、おれは自然と異世界での全てを話していた。
「君のように死んでいった人を何人も見てきた」。これが一番伝えたかった事だ。
彼女はおれに共感したのか、自身の言動を悔やんだのか、彼女の瞳は外から差し込む陽の光に照らされて輝いているように見えた。
「異世界転生、ね。正直まだ信じ切れてはいないかも」
落ち着きを取り戻した華歩は、話が終わってそんなことを呟く。
「そうだよね。こんなこと急に言っても信じられないよね」
「けど、君が言うなら信じられる。それと、さっきは好き勝手口走っちゃってごめんなさい。君が苦労の上に会得したものだもん。それを否定することは出来ないよ」
「華歩……」
彼女の気持ちは痛いほどわかる。
同じだったんだ。羨ましかったんだ。おれはダンジョンへ挑戦できる人のことが、華歩は強くなっていく人のことが。
危険を冒して奥へ進もうとするのも、無理に強くなりたかったからなのだと思う。
「おれは生まれ持った職業はなくとも、結果的にはすごく恵まれた。華歩がどうして、って思う気持ちもわかるんだ。かつてのおれがそうだったから」
「うん」
「ダンジョンで良い思いをする人もいれば、惨めな思いをする人も当然いる。だから、これからは、そんなかつての自分のような人を守りたいと思う」
「うん……」
優しい、いつもの彼女の目で華歩はしっかりとおれを見てくれた。
「華歩、一緒に強くなろう。華歩が挑むならおれも一緒に行くよ。共に歩んでいこう」
「うん!」
元気な返事が戻った。もういいかな。
「終わったぞー、出て来いよ夢里、フィ」
個室の扉を開け、外に向かって呼びかける。
「「ぎくっ!」」
なんでそれが声として出るんだ……。
二人が左右から申し訳なさそうに出てくる。部屋の設計上、聞こえてはいないだろう。まあ、すぐに夢里にも話すだろうから関係ないけどな。
「あなたは」
華歩が夢里を見て自然と言葉が出る。
「んー、なんだよ」
夢里は華歩に良い印象がないのか、そっぽを向いている。
「前はその、ごめんなさい! 助けてもらったのにあんな言い方しちゃって」
華歩が立ち上がって頭を下げたことに、夢里は少し驚いた表情を見せた。
「あー、別にいいよ。そっちも何か事情があったんだろ。これからはパーティー? みたいだし」
「夢里、勝手に決めてごめんな。どうしても放っておけなくて」
「いや、いいよ。メンバーが増えるのは良いことだし、なんとなくそんな気もしていたから」
夢里が頭を掻きながら了承してくれる。夢里は自分から華歩に手を差し出した。
「じゃあ、まあ……よろしく」
「よろしく! 夢里ちゃん!」
二人が強い握手を交わした。すぐに仲良く出来るだろう。
「じゃあこれからは四人のパーティーで頑張りましょ!」
「いや、フィは入ってないから。案内だけしててくれ」
「ひどっ! 夢里~、あいつがいじめてくるよ~」
あれだけ嫌がってたのに、フィはすっかり夢里に懐いた様だ。あれでもって昔から人懐っこいんだよな。
「冗談だよ。じゃあ改めて、四人パーティー結成を祝ってかんぱーい!」
「「「かんぱーい!」」」
飲み物を持ってるのはおれと華歩のだけではあるけど、まあその場のノリというやつだ。
こうしてフィに華歩。パーティーに仲間が二人増えた。
~後書き~
ここまでこの作品をお読み下さりありがとうございます。
ここまできてやっと、第1話冒頭部分の「少女二人」という描写を回収出来ました。
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人数も増え、パーティーらしくなってきた彼ら彼女らの物語はまだまだ続きますので、この後もどうぞよろしくお願いいたします。




