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疾走王とスキルの根源

「我こそは疾走王! GM! お前と同じ孤高の存在だ!」


 そう言ってスキル、《孤高の疾走王》を発動させる。


 味方が少なければ少ないほど体が軽く、どこまでも速くなる俺だけのスキル。


 速さが増せば剣の斬れ味は上がるし、攻撃だって避けやすくなる。攻防一体、ソロプレイヤー専用スキルと言っても過言ではない。


 その剣でまずは、


「ぐあっ!? な、何するんだ! 味方じゃないのか疾走王!」


「そんなこと一言だって言ってないっての!」


 手近にいたダメージが浅そうなプレイヤーへと斬りかかり、そのままボスへと突っ込んでいく。


 このスキルの味方判定を俺は正直理解しきれていない。理由は不明だが、プレイヤーの味方をする前に危害を加えれば中立と判定される、くらいにしか分からないのだ。


「それだけ分かれば実用には十分だけどな……!」


「あいつマジか……!? あのレーザーの雨を正面突破だと……!?」


「どう避けてるのよ! 全然見えない!」


 このレーザー攻撃。避けるよりも受け止めることに力を注いだ方がいいというのは正しい判断だと思う。


 ただし、超高速で安全地帯への移動を繰り返せる自信があるのならば話は変わってくる。ダメージ覚悟でどうにかして耐えるよりも無傷で逃げ切った方がいいに決まっているのだから。


「追尾もしないレーザーで疾走王が止まるかよ!」


 体を捻り、レーザーとレーザーの間を飛んで掻い潜り、その勢いに任せて剣をバードキーパーの腹部へ深く突き立てる。


「おお……素晴らしい! 先程の高位魔法よりも高い威力じゃないか! ただの突きでしかないというのに!」


「この剣は強力な効果も何もない。ただ、平均以上の性能ってだけだ。それでも神速の勢いを乗せれば中々の威力になるだろ……!」


「ふむ。やはり君のスキルは面白い。……もう少し詳しく分析したいものだ!」


 その瞬間、バードキーパーの体の奥深くが燃え盛り、爆ぜた。


「なっ……!?」


 自爆かと思ったが違う。これは芸のない道連れなんかじゃない。高エネルギーを広範囲に、それこそさっきのレーザーとは違う、逃げ場のない超範囲攻撃。


「うわっ……!」


 爆発の予兆を感じ取った瞬間に離脱を始めてはいたものの、そもそも軽い俺の体は問答無用で吹き飛ばされる。


「伏せろ! 爆風で吹き飛ばされるぞ!」


 爆発の余波は俺だけではなく、他のプレイヤーをもまとめて吹き飛ばしていく。


「本当に……無茶な技しか実装してないな……!」


 体全体が地面に叩きつけられて全身が痺れるような感覚に襲われる。生身の肉体には一切傷害を受けてはいないが、本当に肉体が悲鳴を上げている気がしてしまう。


「さて、疾走王。私は純粋に君に興味があるね。このハイペースな攻略を可能にしたのは紛れもなく君のスキル、その立ち回りによるものだ」


「馬鹿を言うな! そんな奴が何したって言うんだよ! リーダーとそのスキルの方がよっぽど強いじゃねえか! 《不退転の団結》をお前が知らないはずないだろ!」


 誰かが気炎を上げるが、冷静に、淡々とGMは反論する。


「ふむ、君の言うことも一理ある。最終的に敵と戦うのは君達なのだから。しかし、デスペナルティについてはどうかね? 普通に戦闘を続けていれば全滅していた場面は数多くあったはずだ」


 ゲームの製作者の立場になれば、簡単にクリアできるゲームを遊ばせるのはつまらない。それがデスゲームを模したものであるならばなおさらだ。ストレートにクリアできるデスゲームなど駄作でしかないだろう。


「私はもっと多くのプレイヤーが街に閉じ込められると予想した。その閉塞感に耐えられないプレイヤー、その様子を見るプレイヤー、全員がどのように動くのか。デスペナルティへの恐怖に対し何をするのか。それを私は見たかった!」


 バードキーパー内部のGMがそう叫ぶ。そのGMの気持ちを代弁するかのようにバードキーパーがジェスチャーを交えつつ、さらに続ける。


「それなのに! そんな惨めな小鳥の観察を妨害する不届き者がいた! 君のことだよ疾走王!」


「ぐっ……!」


 大きく振り上げた腕でもってさらに俺の体が宙に舞い上げられる。それは怨みを晴らすことだけを考えた雑な、しかし強烈な一撃。


「固有スキルは過去の体験や本人の気質から自動作成される。孤独な人生を送ってきたプレイヤーは君以外にもいた。しかしそのようなプレイヤーは総じて自分だけを守るような防御指向のスキルだった。……君だけが! そんな攻撃的なスキルを身につけた! 何が! 何が君をそうさせた! 腹立たしいと同時に強く興味を惹かれるな!」


「固有スキルはAIが自動生成すると言っても、GMならこのゲームシステムについては誰よりも詳しいはずだろ。……なのに予想すらできないのかよ」


 防御指向のスキルは普通に考えて誰かに干渉されたくないとか、酷い目に遭った過去から自分を守りたいとかそういうものからできたのだろう。


 俺のスキルに防御要素がないのは自分を守りたいといった考えが最初から存在しないからだ。


「俺は天涯孤独の一人ぼっちだぜ? 何もない。愛してくれる家族も、必要としてくれる誰かもいなかった。ついでに言うと、何もない俺みたいなのを害するような暇人だっていなかったぞ」


 自分を守るも何も仮想敵すら存在しない。何に怯えろと言うんだよ。


「だから俺は自分を守りたいなんて思わない。むしろ自分のやりたいこと、やるべきことに全てを懸けてやろうって思ったんだよな。何も失わない俺は怖いもの知らずだからな」


 剣を地面に突きながら起き上がる。俺に味方なんていない。足枷はない。ならばいっそ一人でどこまでも走ればいい。


 興味に任せて邪魔されない世界を楽しめばいい。


「そのためには一人でも戦える、自分のやりたいことを叶えられるだけの強さが必要だった。《孤高の疾走王》はこの気持ちを強く反映して生まれたんだろうな!」


 もう一度大きく空へ。体のばねを限界まで利用して、跳ぶのでなく飛ぶイメージで。


「まだ速度が上がったか! 素晴らしい!」


「はあああっ!!」


 ミサイルのようにバードキーパーに突っ込んでいき、巨大な翼の片翼、その付け根をフルパワーで斬り裂いていく。


「……らあっ! 見たか! GM!」


 片翼を斬り飛ばし、目の前のバードキーパーの頭部へと勝ち誇る。


「す、すげえ……っ! 一人で翼を破壊しやがった!」


「チートじゃねえのか、あの力は!?」


「いいや、チートなんかじゃないさ。固有スキルはどこまでも成長する。そのように作ったのは他ならぬ私さ。……なぜならば!」


 翼を失ったダメージを感じさせず素早い動きで、バードキーパーの右腕が俺を拘束する。


「私の予想以上の成長を遂げた相手と全力で戦いたいからさ! デスペナルティに怯えながら抗う君達が見たいからさ!」


「くそ……! 逃げられない……!」


「その軽くなった体で力比べは無謀だろう。言われなくても分かるのではないかな?」


 俺は速さと引き換えに重量をかなぐり捨てた。速く、身軽に動けるとしても重みのある斬撃は撃てないし、取っ組み合いにでもなれば誰にも勝てないと思う。


 だからこそこれは、俺を締め付ける握り拳を破壊することも、指の隙間から脱出することも叶わず、成す術がない状況。


「もう少し戦闘勘を磨いておくべきだな。撤退を許さない相手と戦う練習を積むといい。次に期待しているよ、疾走王」


 これはデスゲームではない。精神力さえあればリトライすることができるゲームだ。だからこそ、強くなってもう一度挑戦しろというメッセージ。


 そんな勝手なことを言われながら、けれども俺は何も抵抗できず、言いなりになるしかなかったその時だった。


「皆! 頼む! ――《不退転の団結》!」


 その号令と共に背後が光り、爆発した。赤や青、花火のように様々な色のエフェクトが散乱する。しかし当然これは花火なんかではない。魔法だ。それもプレイヤー側が使用する。


「な、何してんだ……!?」


 そう思う間にも、あのリーダーの顔が目前に迫っている。


「まだだ! まだ終わりはしない!」


 魔法の総攻撃を受けて減ったであろう、俺を拘束する腕の耐久力。それを0にすべくリーダーの大剣が追撃を放つ。


 音を立てて軋む腕。今ならば。


「ここまできたら砕けるっての……!」


 ガリガリと内側から、亀裂の入った巨大な指に剣を刺す。そのまま力を入れて指の数本を斬り落とす。


「今だ!」


 そしてできた隙間から強引にリーダーの腕が伸びてくる。今度はその腕に捕まえられてバードキーパーから距離を取るように離される。


「おや、素性も思惑も分からない疾走王は誰の助けもなく退場するものと思っていたが。知らない間に絆でも芽生えていたのかね?」


「いや、彼のことは今でもよく分からないのが本音さ」


 倒れ込んだ俺を庇うように前に出たリーダーが言う。


「それでも悪い奴じゃない。もし悪人なら自慢の速さで全員を背後から倒せただろうからね。……敵じゃないなら、それだけで助ける理由になるだろ?」


「ふむ。集団の力をまとめ上げるだけのことはある。言動は実に立派だ。だがね、そこの疾走王は仲間が少なければ少ないほどに本領を発揮する。助けたところで得られるリターンは少ないと思うが?」


「悔しいけど、そうなんだよな。助けてくれたことは感謝はするけど……こうなった以上、俺は戦力にはならないぞ。きっとろくに動けない」


 そう。リーダーの信条が人を助けること、団結することであるのは間違いない。だからこそ発現したのが《不退転の団結》だ。


 しかしその志があったとしても俺を助けたのは誤った判断だ。俺を助けた時点でリーダー、ひいては攻略集団全員が俺の仲間と判定を受けたはず。


 ならば《孤高の疾走王》を発動してもあの加速は得られない。それどころか発動前よりも遅くなるだろう、スキルをコピーされた時のように。


 そうなってしまっては一人で戦線を維持して撤退させることはもうできない。さっさと見限るべきだったのに。あの時点ですぐに逃げ出していれば、あるいは――。


「感謝の言葉を口にしてくれた。それができるんだからやはり君は悪人なんかじゃない。僕らの大切な仲間さ」


 お前はリーダーとしてGM攻略のアプローチを間違えたぞ、そういう非難も伝えたはずなのに。それでもこのリーダーは、笑ってそんなことを言ってのける。本当に意味が分からない。


「だからそういうことは言うもんじゃないっての……! いや、今からでも斬り合えばシステムの判定的にはソロに戻れるかもしれない。とりあえず互いに攻撃しあってその後に俺が時間を稼ぐから……」


 さっさと退け。その言葉を手で静止しながらリーダーが思いもよらないことを告げる。


「いや、その必要はないよ。……ここでバードキーパーを叩く。疾走王、君のそのスキルで」


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