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攻略組と疾走王の在り方

「ガアアアアッ!」


「きゃああああっ!?」


 ボスモンスターである空飛ぶクマは知能が高い、ようにプログラミングされているのだろう。


 逃げ遅れた者、ガードが間に合わない者から確実に仕留めようと狙ってくる。


 しかし、


「空を飛ぼうが遅いじゃんか!」


「グオ……オオ……!?」


 超高速で迫るプレイヤーが乱入することを考慮に入れるだけの知能はないらしい。脳天に剣の直撃を受け、たまらずクマは身悶えする。


「疾走王! お前、またこのタイミングで……!」


 助けられた感謝ではなく、野次が飛ぶ。それもいつものことだから相手にせずにまくし立てる。


「いいからとっとと撤退しろっての! 今回は逃げて出直してこい!」


「ふざけるな! いつもいつもヤバい時にだけ顔出しやがって! そんな強いなら最初から攻略を」


 スパン! と乾いた音が続きの言葉を斬り落とす。同時に、喋っていた男の腕にダメージエフェクトが出現する。


 体の切断だとか流血描写はカットされているが、それに見合うだけのダメージを受けた、というのはエフェクトの派手さでなんとなく分かる。


「ぐ……あああっ!?」


 そしてそれに見合った痛みも発生する。どんな原理で実現しているのかは興味があるが、それを調べるのはこのゲームをクリアしてからだろう。


「アンタらの選択肢は三つだ。クマに殺される。俺に殺される。さっさと撤退する。どれが正解かは言うまでもないよな」


 それだけ言ってクマの方に注意を向ける。想定外の攻撃を受けて怯んでいたようだが、それから立ち直ったらしい。気絶するような衝撃を与える攻撃の耐性はあまりないのか?


「もう少し試すか……!」


 ガッ、と地面を蹴り、一瞬のうちにクマの背後に移動する。


「初めて見たぜ、疾走王のスキル……マジで瞬間移動しやがるのか……!」


 正確には近くの木々を蹴りながらの高速移動だが、そこまで追い切れるプレイヤーは恐らくいない。そして教えてやる義理もない。


「はああああっ!!」


 そのまま一撃二撃三撃。高速の剣捌きで羽の一枚を集中攻撃。


「グアアアッ!!」


 それを嫌がるように体を捻り、爪をこちらへ向けるクマ。それを回避し、腕を足場にさらに俺は跳ぶ。


「見せ物じゃないし観戦してる暇なんて与えないっての!」


 跳んだ先は、撤退せずに俺の戦闘を眺めているプレイヤーの元だ。


「ヤバい! あいつ本気だ! ボスも俺達もまとめて狩るつもりだ!」


「何考えてんだよあの野郎、とにかくここにいるとヤバいぞ!」


「皆! 慌てるな! 落ち着いてこの場を離れるんだ!」


 リーダー格の男の指示でようやくプレイヤーの撤退が始まる。このやりとりも何回もしてきただろうに、そろそろ迅速に動いて欲しいと思うのは贅沢か。


「……やっと逃げ始めたか」


 実のところはもっと速く逃げて欲しかった。別に誰にも見せられない切り札があるとかではなく、ソロでのボス戦はハイリスクで長時間、戦線を維持するのが難しいからだ。


「だいたい、いつも俺がトドメを刺したりしないことに疑問は持たないのかよ。あいつらは」


 俺のスキルは体が軽くなり自分の行動速度を上げられるというものだ。走る速さから剣を振る速さまで、自分の動きならばどこまでだって加速できる。


 アクションゲームで手数の多い攻撃方法を好む俺としては素晴らしい能力だと言うほかない。


 ただし、目にも止まらぬ連撃のお約束とでも言おうか。一撃の威力は高くなく、また、俺自身の防御力も底が知れている。


 スキルで強化できるのはあくまで速さの一点だけなのだ。その他のステータスは一切強化されない。


 つまり、


「うっかりボスの攻撃を喰らえば大ダメージ、そんな状態でコイツが力尽きるまでチマチマ殴るなんてやってられないってことなんだよな……!」


 いいところを独り占めも何も、俺はそもそも()()()()()()()()()()()()()()()


「もう全員逃げ切ったな……! ならもういいだろっ……!」


 全員が撤退するまでの時間稼ぎ。俺がすべきことはそれだけだ。そしてそれさえ達成できれば後は簡単。


仕上げたばかりに、予め用意しておいたナイフをボスの目元に投げ込んで、さらに煙玉をばらまいてやる。一瞬でも視覚を奪ってしまえば、俺の勝ちだ。


「このままトップスピードで離脱……! 羽があったところで、ジェットエンジンでもない限りは追いつけないだろ!」


 あらゆる手段を講じての逃走。これが破られたことはないし、仮に追跡されても一度死ぬだけ。そうなったら次はさらに上手い方法を考えればいいだけだ。


 俺は多分、人よりも一人でいることの耐性は強いはず。ずっと耐えられるわけじゃないにしろ。


なら、少しくらいなら死んでも大丈夫だ。それに、心が死んだところでそこまで悲しむ人もいないしな。


 そんなことよりもとにかく、このゲームが始まってからは、俺よりも立派な人をそんな目に遭わせてはいけないと考えるようになった。そのためのスキルなんじゃないかとも考えた。


 だからこそ、このプレイスタイル。


 ボスとの戦闘も、勝利も、全て俺抜きで味わって、俺抜きで脱出への道のりを作っていって欲しい。


 俺はそういうことには向いていないから全滅を防ぐセーフティーネットのような存在として動くことだけを考える。こういうわけだ。


 エターナル・ケージが始まって何度目かの反芻。何も考えずに逃げるだけの段になるとこんなことばかり考えてしまう。


 で、ひとしきり反芻し終わった頃には安全圏まで逃げ切っているというわけだ。


 いつの間にかと到着していた岩場を見渡し、座りやすい場所に腰掛ける。


「やっぱもう少し火力も欲しくなるよなあ……。もうちょいレベリングでもして申し訳程度でもステータス上げとくか……?」


 俺のスキルは火力が上がるわけではない。だからボスモンスターへの攻撃の通りが悪い。けれども、ボスよりもステータスの低い雑魚モンスターになら話は別だ。


 高速で動いて剣で撫でる。速さが乗った剣の威力は雑魚モンスターの装甲程度なら軽く貫け、これだけで結構なモンスターを相手にできてしまうのだ。


 後はひたすら走りながら剣を振るという辻斬りみたいな真似をするだけで攻撃をろくに受けずにレベリングが可能となる。


 思えば、スキルが追加される前に比べて随分と戦闘が楽になったというものだ。スキル様様と言ってもいい。


 もしかするとこのスキルこそがプレイヤーの一番の武器であり、レベルやステータスは二の次なのかもしれない……。


 そんなことを考えていた時だった。


「よう。アンタが噂の疾走王かい? 少しイイ話があるんだが聞いてくれよ」


 珍しくも俺に声をかけてくるプレイヤーが現れた。もっとも、ゲームの世界だからといって見ず知らずの人間に不信感を抱かないのは無理な相談で、普段よりも悪い目つきでその男を見据えてしまうのだが。

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