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そんな顔を見たの、初めて
並んで歩いている姿を見て、思わず固まってしまった。反射的に人ゴミにまぎれようとして――。
「ひかちゃん!」
呼び止められた。
「あ、この人は、バイト先の店長さんで」
「はじめまして、かな?」
「何度か、お店でお見かけしたことがあります」
「声をかけてもらって良かったのに」
微笑まれた。会話は交わしたのはこれが初めて。でも、何度か【お店】に行った。大人の余裕を感じる笑顔が、イヤでも網膜に焼きつく。
「今、お店の備品を買い出しなの」
「そっか」
「バイト終わったら、連絡するね?」
よっぽど今が楽しいのか、店長さんとの会話に夢中になっていた。
――そんな顔を見たの、初めてだ。
期せずして、声が重なったことを《《二人》》は知らない。
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第一回「初」に参加。
299字。




