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クリボッチになんか、させてあげない。


「なんで、光とクリスマスイブにラーメン啜らないといけないんだよ」


 そんな悪態をついたフリをしながら、俺はラーメンにありつく。例え、クリスマスにボッチ――クリボッチと言えど、美味しいラーメンに罪はない。大國圭吾、昔ながらの醤油ラーメンを愛している。そこんとこ、よろしく。


「だって冬希は下河と一緒だしさ。ほぼカップルな空気を醸し出す人達ばっかりで。正直、イブにあの空気感は辛いんだよね。圭吾なら気兼ねしないな、って」

「気兼ねしろよ!」


 カップルな空気って、お前らもだから――でも今は、その言葉をなんとか飲み込んだ。


「黄島はどうしたんだよ?」

「へ?」


 光は目をパチクリさせて、それから観念したようにため息をついた。


「――予定が入ったんだってさ。多分、バイト先の店長さんと一緒なんじゃないか、な」

「……」


 無理に笑う、そんな光が痛々しかった。

 だから、俺は悪手だって言ったんだ。


 相手の気を引くようなことなんかせずに、ストレートに言えば良かったんだ。そりゃ、ある意味じゃ成功だろう。気にしない素振りをしながら、光は、どう見ても黄島のことが頭から離れていない。


 でも、それ以上に大失敗だって思う。あからさまに、諦めの感情が支配しているじゃないか。

 ピコンとスマートフォンがメッセージの着信を知らせてくれる。


 

ayane:どうしよう、Kゴリ!(・_・、)

keigo:知るか!




「あれ、海崎先輩じゃないですか?」

「大國先輩もいるっ!」


 見れば、女子高生三人組が、ラーメン熊五郎に入店したところで。


「へ? 美術部の――?」


 文芸部は他の文化系クラブや同好会とコラボをすることが多々ある。確か、前回の部誌で表紙や挿絵を描いてくれた子達だったはずだ。


「はい、今限定で女子ラーメン部です!」


 ニコニコ笑って、そう言う。


「先輩達、ご一緒しても良いですか?」

 さらに笑顔三割増しで。

 


ayane:どうしよう、Kゴリ!(゜´Д`゜)

keigo:だから知らねぇよ!



 スマートフォンを見やりながら、失笑も浮かばない。

 今さらな話だ。黄島彩音はモテる。それは今に始まったことじゃない。でも実は光もさり気なく人気があるのだ。


 雪姫(ゆー)ちゃんに対しての焦りが消えた。それが理由なんじゃないかと思う。一種の余裕と包容力を感じさせる。元来のお人好しとあいまって「いい人」と評価されることが増えた。


 良い人が恋愛対象にはならない?


 黄島、お前ね。良い人だから、意識するんだって。それを言うのなら、幼なじみだからと言って、恋愛対象とは限らないんだぞ?


 最近じゃ、上川とのツーショットがプレミアムで――この話題は、業が深いから蓋をしておこう。

 すると、また店のドアが開いた。


「あ、いたいた!」

「海崎君ー! ほら、彩ちゃんも早く!」

「ゆ、ゆっき、わ、私は良いって! 良いから! ひ、引っ張らないで!」


 聞き覚えのある声に苦笑が漏れる。黄島の抵抗もむなしく、雪姫(ゆー)ちゃんは、容赦なく黄島を引っ張ってきた。


「あ、彩音……? 用事がったんじゃ――」

「あ、それは、その――」


「海崎君とクリスマスの予定入れたかったんだけど、彩ちゃん、恥ずかくて結局、言えなかったんだって」

「そ、それは言わないでって言ったじゃん!」


「本当は海崎君から、誘って欲しかったんだよね?」

「たから黙って、待って、ゆっき――」


「悩むくらいなら、最初から誘えば良かったのに。プレゼント、買ったでんでしょ?」

「たから黙って、待って、冬希――」


「「やっぱり、二人とも仲良したね」」

「「だから、ちょっと待って!」」


 息ぴったりじゃん、とやっぱり苦笑いが浮かぶ。それにしても、と思う。上川と雪姫(ゆー)ちゃん、そして連れられた黄島を見れば、予想がつく。これはクリスマスパーティーのお誘いだ。光はやけ食いよろしく「がっつりごっつぁん定食」を完食していた。ところで、胃の容量は大丈夫か?


「あのね、海崎君」

「へ?」


「彩ちゃんが頑張って、ご馳走作ったからね。楽しみにしててね!」

「……え?」


「あ、もちろん、私も瑛真先輩も翼ちゃんも音無先輩も弥生先生も梅さんも、町内会のみなさんと総力をあげて作ったから、楽しみにしててね」


「えっと……え?」

「俺、雪姫の料理、すげぇ楽しみ!」


 上川、お前は毎日、食ってるだろう?


「うん、冬君に食べて欲しくて、たくさん頑張ったからね!」


 雪姫(ゆー)ちゃんが、力こぶを作るポーズをしてみせる。俺は知っている。本当はポーズじゃなくて、力瘤を作れちゃうことを――いや、ウソなんでもない。そんなこと、思ってない! だから、ちょっと、こっちを睨まないで!


「……」


 バカップルのジャレあう光景を尻目に、光が固まっていた。

 と、黄島と光の視線が交差して。


 だから、素直になれって言ったのに。お互い、変に遠慮をするから、こんなことになるんだって。


「ひかちゃん……」


 ボソリと黄島は呟いた。


「クリボッチなんか、絶対にさせてあげないから」


 黄島のそんな声が漏れて。光がどう答えのか、俺は知らない。だって俺は目の前のラーメンを堪能して――と、その手が上川に、ぐぅっと引かれた。


「へ……?」

「じゃ、大國も行こうね」

「は?」


 何を言って――。


「クリスマスパーティー!」

「いや、お前、何を言って――」


「パーティーしよう、パーティー! みんな一緒だったら、楽しいよね?」

「いや、なんで? 俺は関係ないじゃん!」


「関係あるかないかは問題じゃないんだ。俺たちが一緒にいたい人とパーティーしたいの。ただ、それだけだからね」

「何言ってんだよ、お前?!」

「じゃぁ、あえてこう言うよ」


 上川は、笑顔を浮かべる。こういうトコ、本当に人タラシだって思う。


「クリボッチになんか、絶対させてあげないからね」

「上にゃん! そこは聞き逃してくれていいじゃん!」


 黄島が――そして光まで、真っ赤に顔が染まっている。


「あぁ! 冬君と大國君がイチャイチャしてる!」

「どこをどう見たら、そうなるの?!」


 そして雪姫(ゆー)ちゃんは、ご乱心である。


 ちょっと雪姫(ゆー)ちゃん、獲物を狩る目で俺を見るのやめて? 正拳突きの構え、クリスマスに絶対、不向きだじゃねぇ? だいたい、俺はそんな趣味はないから! ねぇ、ちょっと、聞いて? ちゃんと話を――。






■■■





「メリークリスマス!」

 ラーメン熊五郎、店主の声が響いて。



 そんなこと言ってないで、とめ――。


時系列は無視してください。

※本編は、まだゴールデンウィーク明け。

そして、クリスマスが明けてから思いついたので、殴り書き。(執筆当時)

個人的には、みんなで騒ぐクリスマスも良いし、

自分ご褒美なクリスマスも良いなって思います。


最高級のクリボッチとか、本当に最高。

一人が好きなので、そう思うことも多々ある作者でした。

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