愛の潜入捜査-undercover investigation-
作者からのお知らせです。
今回のエピソードはTwitterのハッシュタグ
#うちの子悪の組織潜入捜査 をもとに書きました。
「君がいないと呼吸ができない名探偵」
「君がいないと呼吸ができない名探偵File2」
「本編 EP95」が読了済みだと、なお楽しんでいただけると思います!
それでは、本編をどうぞ( •ॢ◡-ॢ)-♡
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「空に潜入捜査を命じるよ!」
ビシッと指をさして姉がそんなことを言う。何を言っているんだろう、この人。
ことの発端が俺であることは理解している。
――兄ちゃんって、意外と部署内外の女の子にモテてるよ?
地雷を踏んだ、ってこういうことなんだろう。日本で言うところの「般若」って、きっとあんな顔なんだと思う。
もちろん、あの人は特定の誰かしか見ていない。そんなことは分かりきっている。でも冬がからむと、あれほど氷像みたいな姉が、ふんわりと笑むのだ。正直、あなた誰? と言いたくなる。
かくして同僚の翼まで巻き込んで、一大プロジェクトとなった。仕事の時は片眼鏡をかけるが、そこにカメラを内蔵。極小耳チップで音声通信の受信。もちらん、警視庁内で行うのだ。通信の多重暗号化は標準装備だ。情報管理課のエマ先輩、警視総監秘書室のオトナシ先輩が全力を注ぎ――悪ノリしすぎだった。
――悪の秘密組織に潜入するなら、これぐらい用意周到じゃないとですね!
オトナシ先輩! 警視庁を悪の秘密組織とか言わないで!!
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『警視庁ってこうなっているんだね!』
イヤーチップから聞こえる姉の声がうるさい。冬がいないと外出のままならないから、仕方がないとは言え、さながら職場見学、授業参観のようだった。
「あら、空? 冬に用?」
捜査一課に入ろうとして、馴染みの刑事に声をかけられる。鑑識課で、わざわざ捜査一課に足を運ぶのは、俺ぐらいだろう。鑑識はデータすら割り出せば良い。その言い分は分からなくもない。でも、割り出したデータが正しいのか。どんなストーリーが付随するのか、興味が尽きない。結果、接点がなかった姉の推理劇を垣間見て、無機質だったデータが犯罪を暴く。自分の価値を肯定してもらった気すらするのだ。
「今、冬は取り込み中なのよ。コーヒーを淹れてあげるから、ちょっと待ってくれる? 冬と違って、インスタントでごめんね」
そう目の前に湯気が立ち昇ったマグカップが置かれる。
『むむむ』
聞き慣れた声が耳に飛び込んできた。えっと……? 翼、君が今日、非番なの知っていたけど、なんで姉ちゃんのトコにいるのさ? これじゃ潜入捜査と言うよりは、公開処刑じゃないか?
「ヘイ、空」
「おーっす」
「今度、いつ飲みに行く? 新しく、オープンした【じゅうななさいカフェ】がオススメだぜ?」
『むむ?』
バッググラウンドで、翼が不機嫌な声を上げる。これはいったい、何の拷問なんだろう? 俺は翼の意識を外したくて、視線を談話スペースで話す、冬と――それから、女性刑事に向け、る?
『……』
いや、姉ちゃん? 言葉を発して。お願い、冬も楽しそうに談笑しないで!
どんな内容の話をしているのか聞こうにも、捜査1課は常に最新の殺人事件を追っている。緊迫と殺伐した空気に支配されて、彼らの話なんて、聞こえてくるはずがない。
「……うん、プレゼントするよ――」
唯一、聴こえてきたのは、そんな言葉で。満面の笑顔を向けて。
『冬……』
姉ちゃんの呼ぶ声が、冷たくて、重かった。
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こんな姉ちゃんを久々に見た気がする。対人関係に強いストレスを感じた姉ちゃんだ。オンラインで犯罪心理学を専攻するのが、唯一、進めた道だった姉。それが冬という刑事に出会い、外に何年かぶりに出ることができたのだ。主に迷宮入り事件を解決するためではあったけれど。
と、ドアチャイムが鳴る。
モニターを見れば、冬だった。モニター越し、見やる光景で謎は全て解けてしまった。
「姉ちゃん、冬が――」
「知らない。来なくて良い!」
すっかり拗ねてしまっている。
と鍵が解錠される電子音が響いた。冬もスペアキーを持っているから、当たり前。そして、冬のことで時々、こうやって永久凍土のように凍りついてしまう。
(でも、今回もきっと溶かしちゃうんだろうなぁ)
そんなことを思っていると……パタパタとスリッパが足音をたてるのが、聞こえた。
「あれ、空? 来てたんだ?」
「あ、うん。今は抱えている案件はないし、厄介なオーダーも来てないからね」
厄介なオーダーとは、つまり雪と冬。君らのことだよ。 いや、今絶賛厄介で――。
「バカ、バカ! 冬のバカ――」
感情が破裂したっていうのは、こういう瞬間のことを言うのかも知れない。手当たり次第、雪は論文やら資料を手当たり次第投げつける。
「雪?」
「……私なんか無視して、他の子とデートすれば良いんだ! 私みたいな面倒臭い女より、普通の子が良いんでしょう――」
ふんわりと、甘い香りが広がる。
「ちょっと持っていて」
俺に向けて無造作に花束が放り投げられて、慌てて受け取る。ジャスミンの甘い香りが、部屋いっぱいに広がった。
それ以上に甘い香りを振り撒くかのように、彼は姉のことを包みこんだ。冬の胸の中で、駄々をこねる子どものように、暴れ回る。
「普通の子って、何を指して雪が言っているのか分からないけどさ」
冬はなお雪を抱き締める。その手で、髪を梳いて。その動作が何一つ躊躇いがないのだ。
「そりゃ相談もするし、視界に他の子が入り込むこともあるよ。でも、その他大勢の普通の人なんか、どうでも良いんだ。雪は俺にとって、特別な人だから。貴女は俺のものだからね」
冬は俺がココにいることも忘れてしまったかのように、甘い言葉を囁く。ようやく、それで雪は落ち着く素振りを見せた。彼の胸の心音に耳をかたむけて。
ジャスミンの花言葉は愛らしさ。でも、もう一つの花言葉は「あなたは私だけのもの」
(冬が同僚に相談をしていたのは、プレゼントについてということを知っていて、言わない俺も俺だけどさ)
イヤーチップで得られる聴覚情報と、実際に人間が聴く情報の差異のサンプルを得られた意味は大きい――ということにしておこう。
(あとはどう翼に言い訳をするか、だよね)
『空。あとでお話しようね?』
イヤーチップからの微笑を含んだ声が、無常にも俺の鼓膜を震わせる。聴こなかったという言い訳は、どうも通用しそうになかった。
――鑑識課として一つ言えることは……。
(潜入捜査なんて、するもんじゃない!)
心底、そう思った。
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冬君がスマートフォンから顔を上げた。カケヨメの下書き共有機能は本当に便利だなって思う。部屋を香る甘い匂い。それに気付いたのか、冬君の頬は、心なしか紅潮しているように見えた。
「うん、今回は誤字もなかったし。よく、Twitterのハッシュタグで、ここまで話を広げたよね?」
「うん。毎回、殺人事件もアレかなって思って。今回は空に一役買ってもらおう、って思ったの」
「雪姫から見た、空君の偏見がヒドい」
「だって、フィクションだもの。ちょっとは、盛らないとね?」
ふふっと笑って見せる。現実でそんなことをしようものなら、翼ちゃんは「お話」じゃ済まない気がする。まぁ、無自覚な弟は放っておいて――。
「……雪姫、あのさ。もしかして、この匂いって……」
「正解だよ、冬君」
ニッコリ笑って、私はキッチンに置いてあった、花を取りにいく。すでに花瓶に入れて、冬君のお部屋に合うように、デコレーション済みだ。買ってくれた空に、心のなかで「ありがとう」って呟く。
ふんわりと、甘い匂いが部屋に溢れた。
「……これは、特大のラブレターをもらっちゃったね」
気恥ずかしそうに彼はそう言う。私は満面の笑顔をきっと浮かべていると思う。聡い彼は、きっと私の想いを理解してくれている。
――あなたは私だけのもの。
私を包み込むように、冬君に私は抱きしめられる。この温度も、その声も。その指先も。私の髪を梳いてくれる、この瞬間も。全部、誰にも渡してあげないんだ。
でも、それだけじゃ満足できない、欲張りな私がいる。
「冬君、あのね」
「うん?」
「ジャスミンには、ね。もう一つ花言葉があるんだよ」
「……えっと、柔和とか? 優美とかだっけ」
流石、冬君。やっぱり知っていたんだね。でも、私が伝えたいことは、ちょっと違うんだよ?
「正解だけど、惜しいかな」
「へ?」
冬君が困惑するのを尻目に、私は唇をチロッと舌で濡らす。甘い匂いが部屋を満たすから、もっともっと我が儘になってしまう。この温もりだけじゃ、物足りないと思ってしまう私がいるんだ。
「官能的って意味があるんだって」
甘い蜜をゆっくり舐めるように。
私は冬君の暖かさに溺れている。冬君の声も、言葉も、理性すら全部奪って。私のことだけ、考えて欲しいから。だって、と思ってしまう。何回だって言う。何回だって囁く。甘い匂いに抱かれて。暖かい温もりを感じながら。
――だって、あなたは私だけのものだから。
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