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25. ギネヴィアの回答

「惜しいな」

 エレミアスは悔しそうな声でそういうが、顔は満足げだ。例えば、娘が初めて祈祷分の暗記詠唱をし終えるも、あと一行足りなかった時の司祭のような。

「まだ何か足りなかった?」

「ああ。もう一歩だ」

 何かあるだろうか。あと一歩をなんとか踏みしめるため、今日あったこと、そして、この地に来てからのこと、グラウスタインについての知恵を、必死に絞り出す。


 今日は多くの事を知った。カーヤに、ルートヴィヒに、ペーターに、セリカに。いろんな知恵を借りた。あとは、あのメイドか……。

 アリエンは確か、こんな風な事を言っていた。

「この都市のどこかの区画に、いろんな貴族が住んでるっていうのは、どういう決まりなの?」

「『寝殿』のことか? あそこに貴族を集めて、貴族同士が会う機会を増やしてるんだ」

「そんな面倒なことを……。その貴族たちは、家を空けておいて大丈夫なの?」

「問題は…………少ない。仮に臣下が謀反を起こしても、その情報はすぐ俺たちに届くし、それに、グラウスタイン地方の大抵の領地は、常備兵を置いているからな」

「常備兵……」

 常備兵、つまり兵士である事を職業とし、春や秋に農民に戻るというようなことのない連中のことだ。金食い虫と例えられる兵隊に国庫を食わせ続けるような行為を良しとする者はいない。なので常備兵を置かない諸侯も多い。エンフェルト伯家も、常備兵といえるのは騎士を含めても百人にすら満たないだろう。

「この広大な領土に皇家の支給金。金ならいくらでもあるからな」

 人生で一度は言ってみたい台詞を聞きながら、一抹の違和感について勘考する。

 広大な領土から貴族を集めておきながら、彼ら貴族を見る機会があまりに少ない。私が住んでいる教会堂にはユリア、つまりグラウスタイン伯家の人間がいるかもしれないのに、あれだけガランとしているのはおかしい。

 それに、ルートヴィヒら騎士が、敵に放った矢を回収していた。少なくとも、あれは金の溢れた家の騎士がする仕事ではない。

 考えをエレミアスに話すと、その目は大きく開き、そして輝いてみえた。

「素晴らしいな、君は。その通り、金がないんだ」

「はぁ?」

 話は一転した。いくらでもある金は本当はないらしい。

「あ、だからアイゼンブルク家が不正に資金を溜め込んでるって話を」

「そうだ。皇家がエンフェルト家の統治を安定させるまで、まだ時間がかかりそうだから、本格的な衝突は遠い。それまでは、支給金もあてにしたい」

「アイゼンブルク家の不正を止めさせる……ってことだね」

 エレミアスは首を縦に振り、私に課題のけりをつける質問を投げかけた。


「迅速に不正を改めたい。君ならどうする?」


 迅速に──。私がどんな提案をしたところで、今から取り掛かるのではとても迅速とはいかない。エレミアスはすでに問題の解決に取り掛かっている。その行動は、すでにルートヴィヒから聞いている。

 『各地の兵をかき集めている』と。

「私なら、領地に勅命を出し、兵を集め、アイゼンブルク家を──」


「カーヤ・シュヴァルツにございます、ペーター様をお連れしました!」

 回答を言いかけたその時、ドアのノックとともに、教職者のありがたぁい声がかかった。エレミアスは苦笑いをした後、「入れ」と入室の許しを与えた。

 カーヤの手が扉を開くが、彼女は後続に先を譲る。「ありがとうございます」と丁寧に感謝を述べたペーターはしかし、部屋に入ろうとせずこれまた後続に先を譲った。

「童話か何かか?」

 エレミアスが独り言をつぶやく。それにくすっと笑った私はペーターの後ろから現れるのは誰かと内心楽しみにしたが、現れた人影は、私を瞬く間に震え上がらせた。


「ああ、いいって、そんなの」

 

 扉の向こうでごちゃごちゃしている影には確かな覚えがある。

 ルートヴィヒ・フォン・アイゼンブルク……。

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