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出会い

いつもと同じ朝だった。

誰も居ないあばら家でまだ暗いうちに起きて身支度を済ませる。

うっすらと空が白み始めた頃に家を出て山菜や薬草を摘みながら仕掛けておいた罠を確認しに山の奥に入る。


昨日は感じなかった寒さに日々の移り変わりを感じる。

いや違う。

こんな事でしか昨日と今日の区別がつかないだけだ。

最後に人と話したのはいつだった?

獲物の毛皮と薬草を売りに麓の村に下りた時だったか。

それはいつだっただろうか。




俺の名前はライ。

年は17。

親は物心がつく前に死んで人里離れた(ここ)で爺さんと暮らしてきた。

爺さんは変わり者だったが俺に生きる術を教えてくれた。

ずっとふたりで暮らしてきたけど一昨年の冬爺さんが呆気なく死んで俺はひとりになった。


「ライ、お前はもうひとりでも生きていける。どこへでも好きな所へ行け。」

死ぬ間際に爺さんはそう言ったが俺に好きな所も行きたい所もなくて今もここでひとり黙々と暮らしている。


爺さんは寡黙だったけど俺も話すのは得意じゃなかったから寂しくはなかったし居心地が良かった。

たまに麓の村に下りると村の人は親切にしてくれる。

けど村に住みたいとは思わなかった。

もうずっとそんな生活を送ってきた。

そしてこれからもずっとこんな生活を送ると思っていた。


そんな事を考えながらほとんど庭の様な山をさくさくと歩き仕掛けた罠を確かめる。

1つ目はかかっていなかったが山鳥を見つけたので弓で仕留め簡単な処理をしてから周りの痕跡を丁寧に消して罠はそのままにしておく。


2つ目の罠は喰い破られていた。

罠が脆くなっていたのか相手が強かったのか。

ぼろぼろになった罠を回収してその場を後にする。

一度罠に気付かれた場所に獲物は暫く近付かない。


最後の罠にはかかっていた。

だだ獲物ではない。

人間だった。

右足を罠に絡め取られたままの子供が倒れていた。

手に短剣を括り付けたまま、罠を外す事が出来ずに力尽きたのかぴくりとも動かない。


俺は素早く弓を構え辺りを注意深く見廻すが他に人の気配や痕跡はない。

周囲の安全を確認してから弓を仕舞い手早く罠を外して子供の顔に手を当てる。

夜の寒さで冷えてはいるが息はしている。

体も髪も土や泥にまみれているし、罠が食い込んでできた傷と首に薄い切り傷があるが他には大きな傷はなさそうで気を失っているだけのようだった。

目を覚ました時に暴れられると面倒なので手から短剣を外し持っていた水を口に含ませるが目を覚ます気配はない。


『このまま放っておくか』


こんな山奥に子供がひとり。

どんな事情にしろ関われば面倒な事になるのはわかりきっていた。

誰が見てるわけでもない。

このまま放っておいても問題は無かった。

ほんの少し残っている良心が痛むのなら傷の手当てをして水と食料を側に置いて立ち去ればいい。

それが俺にとって最善の方法だ。


布と薬を取り出し傷を拭い薬を塗る。

足は暫く腫れて痛むかもしれないけど死ぬような傷じゃない。

そして食料と水を子供の側に置く。


このまま立ち去るべきだ。

そう分かっていても足が動かなかった。

暫く佇んだ俺は大きなため息を一つ吐き子供を背負う。


何でこんな厄介事に首を突っ込むのか。

自分の感情が理解出来ないまま獲物とは違う人の体温(ぬくもり)を背中に感じながら山を下りた。


この出会いが俺とリラの人生を、そしてこの国をも変える事になるなんて思いもしなかった。

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