表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/31

ふたつの太陽

上手く話をまとめきれず最初はリラ目線、最後の方はアリア目線になります。

読みにくかったらすみません…。

就寝の準備を済ませて部屋を訪ねるとアリアは窓辺の椅子に座り外を眺めていた。

灯りに照らされて輝く緩やかに波打つ豊かな髪に宝石みたいな青い瞳。

まるで飾られた絵画を観賞するみたいにアリアの姿をぼんやり眺めているとアリアが私に気づいた。


「殿下、気付かずに申し訳ありません」

慌てて椅子から立ち上がろうとするアリアを手で制する。

「いいの、座ってて」

そう言いながら私も窓辺に近付く。

外を見ると真っ暗な闇の中に沢山の星が輝いていた。

「星が綺麗…」

王宮は警備上夜でも多くの灯りに照らされてるからこんなに星は見えない。

「はい」

アリアにチラリと目を向けるとどことなく緊張した様な面持ちに見えた。


『やっぱり変だったかな…』

私は目を空に戻して心の中で呟く。

リラ()は14才でアリアは15才。

前世では中高生の友達が一緒の部屋に泊まったりするのは別に普通だったと思う。

私も高校生(あの頃)までは友達とお互いの家に泊まったりもした。

だから大丈夫かな、と思ったけどユークレス(こっち)では違ったのかもしれない。


そもそも私は貴族のしきたりを最低限しか知らない。

(いず)れ誰かに嫁ぐとしても私に求められるのは王女としての肩書きだけ、そう思うとやる気は起きず最低限の事だけを学んで最低限の社交をして誰とも深く関わろうとしなかった。

だから貴族の14、5の女の子達が同じ部屋に泊まるのがよくある事なのか変なのかわからなかった。


私にはこんな事を気軽に聞けるような親しい人もいない。

近付いて来る人達は多かったけどあまりにも無気力で無関心な私から皆離れ兄や弟の方へと流れて行った。

唯一ずっと私に関わろうとしたのはアリエッタだけだった。


何度素っ気なく接してもいつも楽しげに私に話し掛けてきた。

伯爵夫人でありながら貴族特有の取って付けた様なお世辞も、張り付けた様な笑顔も無いアリエッタからは純粋な好奇心と好意を感じた。

私もアリエッタの事が好きだった。

でもいつか彼女もいなくなる、その気持ちがどうしても頭から離れなくてアリエッタと向き合う事が出来なかった。


そして想像通り彼女はいなくなった。

あまりにも突然、悲しい形で。


アリエッタの楽しげな表情を思い出しながら『こんな事ならやっぱりもっと向き合えば良かった』と思ったり『いや、やっぱりこれで良かったんだ』とやるせない気持ち抱えながら鬱々としていた頃、グランが殆ど帰らず息子に爵位を譲り子供達を残して伯爵家を出る様だ、と噂を聞いた。

私を胸がギュッと締め付けられ、苦しくなった。

アリエッタがいなくなって、グランも家を出る。

兄のリヒトも学園に入りアリアはあの広い伯爵家で1人になるー。


『嫌だ、イヤだ。ねぇどうして誰もいないの?何で私を置いていくの。1人にしないでー』

突然フラッシュバックに襲われた私は息が上手く出来ずにその場で倒れた。


気が付くとベッドの上で医師と家人達が不安そうな顔で私を覗き込んでいた。

ぼんやりする頭でグランの話を聞いてアリアが1人取り残されるのを想像してしまい自分の過去(前世)と混同し倒れたんだと思い出した。

先代の伯爵、伯爵婦人も健在で長く仕える家臣達も多くいる。

決して1人取り残される事などあり得ないのに私の脳裏には広く薄暗い屋敷で1人呆然と佇むアリアの姿が浮かび消えなかった。


私は噂が本当かどうかどうしても知りたくて伯爵家の動向を調べさせた。

リラとして自ら動いたのは初めてだったかもしれない。


調べるとやっぱりグランは殆ど家に帰らず騎士団の団長室で寝泊まりしている様だった。

私は更に詳しくグランの行動パターンを調べさせアリアと一緒に伯爵家で遊びたい、と申し出た。

外出には騎士団の護衛が付く。

伯爵家に出向くのならグランが警護に当たるのが妥当だろうし、グランに定例の予定が無い日を狙って外出の予定を立てた。

私の思惑通りグランが警護に付く事が殆どだった。

でもいきなりグランに尋ねてもはぐらかされるのはわかっていたから馬車での行き帰りや伯爵家での様子を見て隙を伺うつもりだった。


アリアはグランが私と一緒に帰ると嬉しそうで話をしたがっているのにグランはアリアから視線を逸らし続けた。


最初に会った時から私はアリアがあまり好きじゃ無かった。

アリアが悪いわけじゃない。

可愛くて優しくて両親に愛されて幸せそうなアリアが妬ましかっただけだ。

幼いながらも優雅で貴族らしい立ち振舞いでいつも人に囲まれていたアリア。

最初は遠巻きにしていたけどいつからか私にも積極的に接してくれる様になった。


でもあの頃の私は今よりもっと卑屈で劣等感にまみれていてたから眩し過ぎるアリアを直視する事が出来なかった。

だから行動を起こしたのもアリアを助けたいんじゃなくただ単に自分の欲求を満たしたいだけだった。


何度か伯爵家に通い、調べを進めるうちにやっぱりグランは伯爵家を出る準備を進めていて、そしてそれをアリアには内密にしている様だと結論を出した。

確かに一般論としては婿養子のグランが家を出るとしてもアリアは伯爵家に残すのが最善だと思う。


ただ、何も話さず、話を聞かないのならアリアの幸せを願っての事でもそれは違うと私は思った。


だからあの日私は酷くなる雨を理由に伯爵家に留まった。

アリアの真意を確かめグランに『逃げないで欲しい』と伝える為に。

勿論辛ければ伯爵家からも騎士団からもこの国から逃げても構わない。

でもアリアに向き合う事からは逃げないで欲しかった。

例え結果は変わらなくてもきちんと互いにの本心を伝えて欲しかった。

アリアは聡い子だからグランが自分を残して去ってもそれは自分の為を思っての事だとわかる。

だけど心のどこかで置いていかれた、自分の事が重荷だったのではと思うだろう。

そんな風に思って欲しくなかった。



「…殿下?寒くありませんか?」

ぼうっと空を眺める私にアリアが心配そうに声をかける。

「あ、うん。寒くはない。大丈夫」


あの日の私の言葉がふたりにどう届いたのかはわからない。

ただ、グランは伯爵家に留まりアリアは私を慕ってくれる様になった。

そして私の頑なだった心をアリアは根気よく少しずつ溶かし、学園への入学も一年遅らせ私と一緒に行くと言って聞かなかった。

アリア(あれ)もアリエッタの娘ですから一度言い出したら聞かないのです。申し訳ございませんが殿下も諦めて下さい」

そう私に詫びながらもグランはアリアから目を逸らす事なく優しく愛おしそうな目でアリアを見つめていた。


グランとアリアが向き合えた事で私の心の中の(わだかま)りも少しだけ(ほど)けた、そんな気がした。

なのに私と親しくなったせいで、私が王都に戻ると言ったせいで、アリアを傷付けてしまった。


そして私はまたアリアに辛い思いをさせてしまうかもしれない。

それでも私はアリアに自分の気持ちを話さなければいけない。


「アリア、私は学園に戻ろうと思う」

私はアリアの目を見てそう告げた。



―――――――――――――――――――――――



『ああ、リラ様はこの事を告げに来たのか』

私はそう思いながら


「…左様でございますか。そうですね、学園に戻られるのも良いかと思います」


心と体がスッと冷たくなっていくのを感じながらもそれを気取られない様に出来るだけ穏やかに言った。


「兄上の戴冠式が滞りなく済んで、少し落ち着いた頃に戻ろうと思っている…それで…」


そう言ってリラ様は俯き深く息を吸う。


別に置いて行かれる事に不満は無い、当然だと思う。

以前みたいに一緒に行く、と駄々を捏ねるつもりもない。

ただ、そっとしておいて欲しかった。

いっそ何も言わず学園に戻ってくれた方が良かった。

私の傷と置いて行く事に罪悪感を感じて直接話をしてくれるリラ様の優しさが今は辛かった。


『嫌だ、聞きたくない』

そう思いながらも立ち上がる事も耳を塞ぐ事も出来ず私は強張った顔でただ真っ直ぐリラ様を見つめた。


「これは王女じゃなくてひとりの“リラ”としての言葉として聞いてほしい」

そう前置きしたリラ様はゆっくりと口を開いた。


「私はアリアと一緒に学園に戻りたいと思ってる」


「…えっ?…私も一緒に学園に…?」

何を告げられたのか理解出来ずに強張った顔のまま言葉を繰り返す。


「うん、ごめん。やっぱり嫌だよね。また危険な目に合うかもしれないし、今学園に戻ったらきっと嫌な思いもすると思う。勿論断ってもいい」

顔を上げたリラ様は私を見て慌てて言葉を繋ぐ。



「違います!嫌なんかじゃありません。私は誰に何を言われも気にしません。ただ私はもう殿下の御役に立てる事も御守りする為に十分に働く事も出来ないでしょう。伯爵家の娘としての価値が無いどころか私が側に居れば殿下の品位まで損なってしまうかもしれません。…それでも構わないのですか?」

違う、違うんです、と泣きそうになりながら必死に言葉を探すとリラ様は少し怒った様な顔になり私はビクッと身が竦んだ。


「私はアリアが役に立つから、守って欲しいから一緒に居たいと思った事は1度もない。アリアの価値はそんな所にあるなんて思ってない」

そう言うとリラ様は少し逡巡してゆっくりと口を開いた。


「…正直に言うと私はずっとアリアに嫉妬してた。綺麗で優しくてみんなに愛されてるアリアと一緒に居ると自分がみすぼらしく思えた。でも私はアリアの優しさと明るさにたくさん支えられた。アリアに側に居て欲しいと思うのは伯爵令嬢だからでも罪悪感からでもない。ただ、心から信頼出来る友達として一緒に居て欲しいだけ」

いつも言葉の少ないリラ様は一息にそう語りふうっ、と少し荒くなった息を整えた。


「アリア、改めて聞くね。私はアリアと一緒に学園に戻りたいと思ってる。一緒に行ってくれる?」

不安の色が揺らぐ目でリラ様は私を真っ直ぐ見てそう告げた。


「…はい、勿論です」


私は今にも消え入りそうな声でそう呟いた。


「ありがとう。でも絶対無理はしないでね。はー、良かった」

そう言うとリラ様の目から不安が消えてフッと柔らかな顔になり、気が付くと私の目から大粒の涙がぽろぽろと(あふ)れていた。


「ん?えっ、アリアっ!?」


嬉しさと緊張と不安が解けたので涙が止まらなくて自分が情けなくなったけど子供みたいに泣きじゃくる私を見てオロオロと右往左往するリラ様を見ていると何だか不思議な気分になって泣きながらもフフフッと笑みが(こぼ)れた。


世の中には色んな人がいる。

嫌な人も利己的な人も沢山いる。


でも母様みたいに明るく自由で夏の太陽みたいな人もリラ様みたいに少し不器用だけど優しく雪を溶かす冬の太陽みたいな人もいる。


私も伯爵令嬢としての価値は無くなってしまったけど枷が外れたからこそ見えてくる物、出会える人がいるかもしれない。


怖がらず自分の目と心を信じてこれからは只の“アリア”として生きよう。

そしていつかリラ様や父様や大切な人達を少しでも照らし暖めれる存在になりたい。


体は冷えきっているのに私の心はふたつの太陽に照らされてほかほかと暖かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ