平和の終わり
私が転生したユークレス王国は海と山に囲まれた豊かな国だ。
広大とは言えはないが比較的温暖な気候と肥沃な大地、水源も豊富で鉱石の採掘も盛んな恵まれた土地。
そんな国は誰にとっても魅力的だ。
密入国しようとする者。
私腹を肥やそうとする者。
侵略しようとする者。
豊かな分国を脅かす存在は多い。
平和なのは父が手腕を振るってこの国を内外の敵から守っているからだった。
そして新たな火種、次の王の座を巡っての派閥争いが水面下では既に動き出していた。
5才上の兄は賢く金色の髪に澄んだ青い瞳で“金色の王子”と呼ばれた。
だが母は側室で身分は低く兄と母は王宮内で孤立しがちだった。
そんな中でも兄は父に認められるよう、母を悲しませないように必死に剣術も勉学にも励んだ。
冷静で強かで王子の立場に溺れる事も奢る事もなかった。
実力主義の父に認められ国政にも携わっている兄が次の王と目されていた。
ただ、母の身分の低さと冷静で強かな行動を冷酷だと評する声もあった。
3才下の弟はとても優しく赤みを帯びた金色の髪と新緑を思わせる緑色の瞳で“紅玉の天使”と呼ばれている。
私と弟の母は宰相の娘で王妃だ。
母に大切に守られて育ち穏やかで誰に対しても優しく血筋も王として申し分ない。
まだ幼いがいずれは弟を王に、と望む声も多かった。
一方私は白に近い銀色の髪とくすんだ青の瞳で“白銀の姫”と呼ばれている。
だが幼い頃から前世の記憶があった事で子供らしさや可愛げの欠片もなくあまり笑わない私は“鉄の王女”と影で囁かれていた。
兄弟のような実力も優しさもない私は王座争いにおいて蚊帳の外だった。
それに父はまだ若く争いが表面化する事はなかった。
今まではー。
『ユークレス王崩御』
学園へ秘密裏に届けられたその一報を信じる事が出来なかった。
そして報には続きがあった。
『第一王子による弑逆』
父は殺された。
兄の手によって。
平和だった日々がガラガラと崩れ去る音が聞こえるようだった。
父の死。
兄の反逆。
悲しみと怒りと混乱で感情が追い付かず呆然とし、涙さえ流れなかった。
そばにいるアリアの方がさめざめと涙を流していた。
どうしてこんな事に。
これからどうなるのか。
どうしたらいいのか。
私に何が出来るのかー。
遅れてきた体の震えを両手で押さえつける事しかできなかった。